祝!劇場版名探偵コナン第二十弾『純黒の悪夢』公開初日!!
パンドラ~エピローグ《3》了
カテゴリ★インターセプト4
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さらに数日が過ぎた。
春の嵐が吹き抜けた夜、俺は工藤に『泊まりに来い』と誘われた。
助かってから、まだ工藤とゆっくり過ごす時間はなかった。工藤は毎日忙しそうにしていたし、なんとなく俺が避けていたせいもある。
だけど、今夜は断る理由がない…。
───ええ、ええ、わかったわ。明日、そっちに向かうわ。
家を抜け出ようとしたら、階下で千影さんの声がした。電話? こんな時間に誰と…。
「快斗!」
わっ、びっくり(汗)。なんでいるの分かったんだろ。俺は仕方なくリビングに顔を出した。すると立ち上がった千影さんがガバッと抱きついてきた。
「な、なんだよ。急に」
「快斗の馬鹿! ホントにもう絶対にゼッタイに危ない真似はしないでよ!」
「へえへえ、わかってますって」
「返事は〝ハイ〟!」
千影さんのテンションが高い。よく見たら泣いてる。どうしたんだよと訊く前に、千影さんは一気にまくし立てた。
明日ベガスに向けて発つから、またしばらく留守にするけど、いい子にしててね!
ベガスって。なんで。もう俺から目を離さねーとか言ってたくせに。
だって呼ばれちゃったんだもの仕方ないでしょ!
千影さんは久しぶりに明るく笑っていた。俺は俺で一人に慣れてるし気楽だし(工藤に逢いに行きやすいし)かまわねーけど。
羽目外して親父の遺してくれた金を無駄遣いし過ぎんじゃねーぞ、スッカラカンになっても迎えに行ってやんねーからな、と俺は言った。
コツン、と足音がした。
裏通りの街灯に人影が浮かぶ。黒のストールを頭に巻き、サングラスをかけた黒衣の女だ。
「ベルモット…」
「フフ。私が来るのを待っててくれたんでしょ」
俺はポケットから銀色の小さなカプセルを取り出し、足元に転がした。そのまま踏み潰す。
微かな破壊音は深夜の闇にすぐに溶けて消えていった。
「俺の位置を千影さんに知らせたのはおまえだな」
「わかってたのね」
オークション開始前、ベルモットから首筋に撃ち込まれたマイクロ発信機。白馬研究所で灰原さんに取り出して貰ってから今日まで密かに持ち歩いていたのだ。
千影さんの携帯へ送られてきたGPSデータのおかげで、沖の堤防にいた俺と工藤は難なく助かった。
「だが、なぜおまえが千影さんの携帯にアクセスできたんだ?」
「伝手があるのよ……千影の友人は私の友人でもある」
やはりそうか。思い当たる人物はいる。工藤有希子、工藤の母親だ。
「私も一つ訊きたいわ。〝パンドラ〟は見つかったの?」
俺は肯いた。
「ああ。工藤のおかげでな」
「…そう」
「〝パンドラ伝説〟は終わった。ビッグジュエルを壊す必要もなくなった。二つとも工藤から赤井さんの手に渡って、その後どうなったかは知らない」
「〝奇跡〟はボウヤたちのものになったのね…」
「おまえはパンドラの正体を知っていたのか?」
踵を返しかけたベルモットは半身になって振り向いた。
「そう……ボレー彗星を発見し、パンドラを探し求めていたのは私の父。そして私はトウイチを───」
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工藤邸に着くと、工藤が仏頂面で待っていた。
「遅かったな」
「来ないと思った?」
イヒヒと笑うと、工藤は予想とは違うリアクションを見せた。眼を伏せ、黙り込んでしまったのだ。なんだか慌てる。
「ゴメン。途中でちょっと……」
去っていったベルモットの話は、いずれ工藤にも話そうと思った。俺自身、まだ消化できていない。ただ、ジンが再び工藤を狙うことはないだろうという事だけは早いうちに伝えよう……。
「途中にお巡りさんがいたから、ちょっと遠回りしちゃったんだ。ま、習性みたいなもん?」
「未成年者が深夜徘徊してたら職務質問&保護するのが警官の義務だ」
だったら呼ぶなよ夜中になってから。それに〝ハイカイ〟とか言うな。
俺が苦笑いすると、工藤も笑顔になった。一緒に笑い合う。ずっとずっと見たかった、俺の大好きな工藤の笑顔だった。
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朝。
今朝も横に工藤がいた。
昨日の朝と同じく、何度もほっぺたを抓ったり叩いたりしてみたが、横の工藤は消えなかった。
「……」
拉致されてすぐバーボンに蹂躙されたことに、工藤は気付いてないと思う。今となってはそのバーボンが公安だったと知ったことで、あれはあれで俺を庇い、それを疑われないようにするための手段だったのかも──とも思えた。
何れにしろ朦朧としていた間の出来事で、断片的に甦る感覚に時折ぞくりとすることはあっても、それもやがて記憶の底に沈めることは出来るだろう。
ブブブ、と音が響いた。
工藤の携帯が鳴ってる。
「起きろ工藤、電話だぞ」
「…いいよ。ほっとけ」
目を開けた工藤が俺の首に手を伸ばす。
そっと重ねる唇。ここに来てから何度目になるか分からない。
ブブブ、ブブブ、ブブブ・・・
一度切れたと思ったら、工藤の電話がまた鳴り出した。
くそ、と言いながら工藤がようやく携帯に手を伸ばした。
なんだ、父さんかよ。そっちは夜でもこっちは日曜の午前なんだぜ、と工藤がむくれた声を出す。
「えっ、なに? テレビ点けろ? ベガスのショーが衛星で?」
またベガス。あれ、ここでもか。
俺は起き上がり、工藤の指図に従いパソコンの衛星番組を起動した。
〝本日のスペシャル・ミステリー・ゲスト、フランスからやってきた──Mr.Corbeau & Phantom Lady!!〟
「え…?」
聞き違いか。驚かせんな、ファントム・レディーって聞こえたぜ。
画面に側転しながら飛び込んできた仮面の女性───タイトな黒装束の腕や脚に包帯を巻いている…。
「ええっ!!!?」
「親父が『快斗くんもいるなら一緒に見ろ』ってさ」
心臓がぶっ飛んだ。
まさかっ、コレ千影さんじゃねえだろうな!?! いや、どう見ても懐かしの怪盗淑女にしか見えねえんだけどっ(@@);!?!
画面が暗転し、一筋のライトがステージに注がれる。黒のシルクハットに黒のマントを纏ったすらりとした一人の男。さっとマントを広げる。
虹色の照明が一斉に煌めき、色とりどりのシャボンと白い鳩が飛び出す。客たちの喝采が響いた。
「………」
「なんか、このコルボーってフランスのマジシャン、アルセーヌ・ルパンっていうか…黒の怪盗キッドみたいだな」
俺は返事が出来なかった。
千影さんがあんなに嬉しそうにしていたのは、まさか……。
これはやっぱり夢なんだよとボンヤリ思っていた。
俺はやっぱりとっくに死んでて、天国でテレビを見てるんだ。
気が付いたら何故か頬に涙が伝っていて、工藤が俺にキスして、しょっぺーぞ快斗、と言って笑った。
20160416
カテゴリ★インターセプト(了)
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※むむむむ、映画『純黒』公開前に終わらせたかったですが、時間切れでした(T_T)(@_@); 最後はついついこんな締めにしてしまい、孤独に消えたベルモットには申し訳ない気持ちでいっぱいです;;
勝手な解釈の種明かしをだらだら最後に詰め込むのも説明臭いし冗長すぎると思い、途中まで書いたんですがばっさり端折ってしまいました。どこかで(反省兼言い訳?で)まとめて白状するか、別タイトルで蛇足の蛇足としてup出来れば(汗)したいと思います。他のキャラを絡めた後日談を書きたい気もしてます(^^;)。
カテゴリ★インターセプト、片付けるのにこんなに時間がかかってしまい、また穴だらけの素人話に最後までお付き合いいただきまして本当に感謝です。
それにしても…あんなに多くのキャラクターを魅力的に動かせる青山先生は本当にすごい方だと改めて思いました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございましたーーm(_ _)m!!
※『純黒』堪能してきましたよー! ものすっごく!格好良かったです(*^^*)!!
●拍手御礼
「月国の魔法使い」「迷想」「5000メートル」「花畑」!!!←花畑!とても嬉しいです!
さらにカテゴリ★交錯、★インターセプト 他、拍手連打ありがとうございました(^^)/
今日はメチャメチャすごいスピードで連打いただいてチェックが全く追いつかなかったです。これも劇場版初日効果かな~(^^;)////
[15回]