5000メートル《3/3》(白馬×快斗)
※カテゴリ☆噂の二人《番外編》
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前をゆく陸上部。ぴたりと張り付いて離れない野球部。そして背後から少しずつ着実に迫ってくる白馬。
三人とも、まだ余力がある。
最初に脱落するのは、きっと俺だ。このままなら。
そうは…いくかっ!!
「あっ、快斗がスパートした!」
中森青子が声を上げる。
ぐんと脚を速めた黒羽快斗が並んでいたもう一人を引き離し、先頭を走る生徒に追い付こうとしている。
「早すぎるわ。まだ四周もあるのに…。最後まで保たないわよ」
私がそう呟くと、彼の幼なじみは困った顔で頷いた。
「うん。普通なら、紅子ちゃんの言う通りなんだけどね…」
「普通もなにも、見れば判るでしょう。黒羽くん、とっくにぎりぎりじゃない。向いてないのよ、彼。こういうのは」
そうなんだけど。
中森青子は横顔でもう一度同じ言葉を繰り返した。
「それでも、ああなったら止められないの。どんなに無茶苦茶でも、意地張って突っ張っちゃうのが快斗なんだよね」
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────白馬く~ん、がんばってー!!
残り五周の終盤に入った。
個々に周回を数えてくれている女子たちの声援に軽く頷いて、僕はさらに一段ピッチを上げた。
必ず最後の周回には追い付く。射程圏内に黒羽の背を捉えつつ走っていた僕は、唐突に響いた歓声に驚いて目を凝らした。
黒羽がスパートしている!
思わず自分のペースを忘れ、彼を追って僕も一気に脚の回転を速めた。
しかし、勝負を仕掛けるには早すぎる。そんな事は黒羽も判っているはずだ。
今スパートしなければ、後になってからではスパートしたくても出来なくなると────判断したのか。
それだけ既にいっぱいいっぱいの状態ということだ。
それなのに。
僕に追い付かれない事を優先するなら、まだスパートする必要はないはずだ。
走っているうちに、なぜか彼の〝スイッチ〟が入ってしまったようだ。
まったく君は…負けず嫌いにも程がある。
急激にペースをあげたために、僕自身も息があがって苦しくなる。
しかし、これではぺースを抑えるどころではない。このまま僕も先頭争いに加わらざるを得ない。
君が前をゆくなら。
僕はこのレースで必ず君に追い付くと────必ず君を捕まえると、決めているのだから。
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窓際の生徒たちが、そわそわと校庭の方を気にして囁き合っている。
こら。ちゃんと設問を解いて。
注意をすると、前列の生徒が私に言った。
─────先生のクラスの男子が…。
え?
窓際に行って外を見る。
窓から離れた席の生徒たちも私につられて立ち上がり、背伸びをして校庭の方へ視線を向ける。
それが合図になったように、教室中にわあっと歓声が飛び交い始めた。
─────すごい! 黒羽くん、追い付いた!
─────陸上部の方が有利に決まってんじゃん。
─────野球部と、あと白馬くんもスパートしてるよ!
─────あと何周だ?
─────多分残り一・二周じゃない? そろそろゴールだよ。
─────スゲッ、あいつら全速力じゃん。四つ巴だ!
体育の男子5000メートルだ。
私の生徒たちが、本気で走っている。
自分の数学の授業中だというのに、私は思わず窓に張り付いてしまった。
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心臓が、爆発する。
体は鉛のように重く、脚は痺れて感覚が鈍い。
それでも、頭真っ白になって駆け続ける。
─────ラスト一周!!
青子たちが手を振って叫んでいる。
まるで止まっているように見える周回遅れの奴らを直線で一気に抜いた。
コーナーで斜め後ろに白馬が付いてるのが判った。
白馬のヤツ、いつの間に追い上げてきたんだ? そんなに俺を捕まえたいのかよ?!
へっ。
誰が、捕まるかっ!
俺は、誰にも捕まらねえ。
だって。だって俺は…、
確保不能の─────怪盗だぜ!!
スローモーションのように、自分が空を漂っているような錯覚に陥る。
あと、半周…。
視界が狭まる。
けど、ここで白馬に追い付かれたら、
必死こいて飛ばした意味がねえっ…。
────わああ、とみんなの声が頭の中にこだまする。
気が付くと、前に誰もいなくなっていた。
ゴールラインがすぐそこに見える。
自分の吐く荒い息の音。他には何も分からない。
何も、見えない。
脚が、
脚が…もつれる。
景色が、傾いて─────
─────快斗! しっかり!
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…
苦しすぎてもがいた。涙が出る。
息が、吸えない…!
息が…っ…!
どくどく、響く鼓動。
…?
俺の心臓もとんでもなく激しく跳ねてるけど…いま聞こえているのは、俺の鼓動の音じゃない。
はっ、はっ、はっ……
はああっ、はあっ、はああっ…
─────慌てないで。無理に息を吸おうとしないで。
はあっ。はあっ。はあーっ……。
─────そうです。ゆっくり、長く息を吐いて。大丈夫ですから。
…白馬の声だ。
白馬の、心臓の音か。
あれ。
俺、白馬に捕まっちまったのか?
はあ、はあ、…はああっ、はあっ、はあ、はああ……
いや。逃げ切ったはずだ。絶対。
なのに、なんで白馬の声がこんなに近くに聞こえるんだろう……?
「はあ、はあ、はあ……」
「良かった。呼吸が落ち着いてきました」
「快斗のバカ! だからちゃんと準備運動しなって言ったでしょ!」
「はあ。はあ。はあ。……え?」
ぼんやり目を開けると、どアップの白馬の顔。柔らかな瞳の色。
「あ、あれ…」
「惜しかったわね、黒羽くん。最後倒れなければ」
青子に、紅子までいやがる。
「……え?」
倒れなければ…って…。
急に体を持ち上げられて、慌てて白馬にしがみついた。
キャーッ、と、校庭に悲鳴が響く。
────やっぱり絵になるねえ、王子と姫は!!
げ。
げげげ?
地面に倒れ込んでたのを、白馬に介抱されてたのか。
てか、この状況っ (@@);;???
「わ…、わあぁっ、降ろせ白馬っ、カッコ悪りぃだろ!」
「暴れないで。負けず嫌いにも程がありますよ。過呼吸で倒れるなんて」
「か…? こ…きゅう?? と、とにかく、もう治ったから! 降ろせ!!」
「ダメです。これはみんなのリクエストですから」
「な…、えええ??!」
わああ、ピイイ、と歓声や口笛が聞こえている。
気が付くと、校舎の窓のあちこちから生徒たちが顔を出してこっちを見ていた。
─────白雪姫~!!
「うああ」
なんで。文化祭から日が経って、やっと〝姫〟とか呼ばれることが無くなってきてたのに!
「おとなしくして。追い付いたら僕の言うことを聞いてくれる約束でしょう」
「知るか! いーから降ろせ!! とにかく降ろせえぇっ!」
「危ない。僕もヘトヘトなんですから、動かないで」
だめだ。
手足が震えて、白馬の腕から逃れられない。
「・・・・」
ん? 今なんつった、白馬。
危ないから動かないでの、その前。
追い付いた…?
「───ウソつくな! 俺は逃げ切った!」
「いいえ、追い付きました」
「違う! 俺は一位でゴールしたんだ!」
「ゴール直前でふらついて倒れ込んで、君は四位ですよ」
「え、ええっ・・(゚o゚; 」
う、う、
「ウソだあぁぁあーーっ!!!」
「あの話、楽しみにしてますからね」
ふふっと耳元で白馬に囁かれ、俺は頭ガンガンして眼を閉じた。
白馬に抱っこされて。
学校中に注目されて、俺は保健室に連行されたんだ。
白馬の言う〝あの話〟がなんだか分からないまま。
ひでえ。
あんなに頑張ったのに。
やっばりサボればよかった!
一時間前にタイムワープしたい!!
「チッキショオォーッ!!」
叫んだ俺の声が校舎に響くと同時にチャイムが鳴った。
まるで俺に〝観念しろ〟と告げるかのように。
20131219
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※スミマセン。長引いてしまったので、白馬くんの〝あの話〟ネタは別タイトルにてまた書くことにします。年内には…!
●拍手御礼!
「放課後」「仰げば愛し」「逢いたい泥沼」「あと数秒のバースデー」「ルパン三世VS怪盗キッド」「ペガサスの翼」「5000メートル《1/3》《2/3》」へ、拍手ありがとうございましたー(^^)/
●拍手コメント感謝です!
kana様 ありがとうございます。私も最初の頃は新快が少ない事に軽くショックを受けました~(泣)。自分が〝後発組〟だと重々承知しているので、なおさら読んで下さって反応をいただけると本当に嬉しいです。
ところで…試しに「ふざけんな」で自分のブログ内検索してみたら、話がたくさん出てきて笑っちゃいました。意識してませんでしたが、私も快斗くんのフザケンナが大好きみたいです(^^;)。
また是非是非お訪ね下さいませ~!!
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