放課後(R18)
カテゴリ★放課後(白快)
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目眩がして、立っていられない。
先生、黒羽君が、と誰か叫んでる。すーと目の前が暗くなってゆく。
僕が保健室に連れて行きます……と耳元で声がする。フワリと体が浮く。誰かに抱え上げられて、運ばれるのを意識しながら、俺は頭の芯を灼かれるような熱い闇に引きずり込まれていった。
白いカーテン。味気ない天井に蛍光灯の明かり。
どこだ、ここは。いま、いつだ。
なんとかベッドの上で上半身だけ起こしたが、クラクラしてつらい。
「やっと起きましたね」
「…………」
カーテンの向こうから現れたのは白馬だった。俺を運んだのは白馬か。
「ここは保健室です。いま午後八時を回りました」
「…八時?」
「そうです。保健の先生も、君の幼なじみも、先に帰しましたよ。君と二人になれるチャンスだったので、少々詭弁を弄しました」
「………」
「だいぶ参っているようですね。あまり眠ってないのでしょう」
カーテンを閉めた白馬がかけ布団をめくってベッドに入り込んでくる。
「…なんの真似だよ」
「添い寝です。たまには何も考えないで眠った方がいい」
ふざけんな、と言って避けようとしたが、俺はあっさり白馬の下敷きになって抑え込まれ、なおかつ唇まで奪われて言葉すら発することが出来なくなった。
――くらくら。
くらくらする。何も考えられない。
ここは学校で、保健室で、いくら遅い時間だといってもやばすぎないか?
品行方正で通っている白馬がこんな大胆な行動を起こすなんて信じられない――。
「あ、あっ!」
「シッ、静かに。巡回までまだ時間はありますが、大声を出してはいけない」
半分朦朧としている俺に囁いて、白馬が俺の口に何か押し込む。布のようだが消毒臭い。
「咬んでいなさい。吐き出してはいけません」
なにが、どうなってるんだか。
いつの間にか下肢が晒された恥ずかしい姿勢をとらされている。どうして。このままでは、俺は……俺は、白馬に――。
「きれいな体ですね、黒羽君。しかし」
こんなところに疵がある。ここにも。
囁きながら白馬が俺の肌に指先を滑らせる。くすぐったさと、言いようのない焦れったさに思わず震えた。
「……ここも、きれいですね」
白馬がまた何か言ったと思って薄く目を開ける。次の瞬間、後ろの窄まりに侵入してくるものの存在にハッとして俺は思わず悲鳴を上げた。
――上げたのだが、白馬が先回りして布を咬ませた俺の口を片手で覆っていたために、くぐもった呻きが漏れたに過ぎなかった。
「……ん、うう!」
「力を抜いて。使えそうなものを塗りましたが、下手に拒むと深手になります」
白馬の奴…やはり――いま、ここで俺を犯す気なのだ。なのに平然ともっともらしい事を言いやがって。目に涙が滲むが、涙を見せるのは悔しい。
体は抑え込まれてどうにも動かせない。何よりすでに後ろに白馬の指を含んでしまっている……。
「僕は君が心配なのです、黒羽君」
「………」
体の奥を初めて拓かれる羞恥とその感覚に本能的に怯えていた。話しかけられても、とても返事なんかできやしない。固く目を閉じ、顔を背けて口の中の布を咬みしめるのがやっとだ。
ひと思いに、やればいいさ。
別にどうってことない。体を侵されたからって、心まで侵されやしない。俺の人格まで奪うことは出来ないんだから。
「……強情な人ですね」
「……」
「では、少し苦しいかもしれませんが……信じて下さい、僕を」
―――?
何が言いたいんだ…と思ったとたん、想像を超える質量が体内を圧迫し始め、その衝撃に俺は驚き、絶叫した。しかしやはりその絶叫も咬んだ布と白馬の大きな掌に覆われて、空気を震わせることが出来たのはほんの僅かだった。
――黒羽君、君は美しい。
白馬の声が遠く響く。
――君は、自分に対して無頓着過ぎます。君は……君は、もっと――。
俺を見つめる白馬の瞳。自身で貫き、そして律動を加えている俺の表情を数センチの距離で見詰めている。白馬の息遣いが頬に触れる。
ああ。
体中が痺れて、俺は時と場所を忘れた。
やがて白馬に促されるままに高まった自分の熱をも吐き出して、俺は力尽きた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今度は…どこだ。
やけにシックな部屋。
学校じゃないことだけは確かだ。
見たことない場所。俺は痺れた体で寝返りを打った。寝返りを打つのがやっとというほど、体中が怠い。
「!」
目の前で、白馬が椅子に腰掛け俺を見ていた。
「よく眠れましたか」
「……白馬…」
知らず頬が熱を持つ。自分の痴態を見られ、知られた相手だ。
「いまは午前1時。ここは僕の家。僕の自室です」
え……、いつの間に?
「九時にセキュリティーかけるからって学校から追い出されたんです。家の者に車で迎えに来てもらいました。覚えてないですか?」
……覚えてない……事はない。
あんな強烈な体験、いくら体調不良で半分朦朧としていたからって、夢だとは思ってない。
なのにいま白馬を前にして取り乱さずにいられるのはなぜだろう。少なくても一発ぶん殴るぐらいの〝仕返し〟をしても文句は言われないはずだ。
白馬が――あまりに穏やかすぎるのだ。
目が合うと白馬に微笑まれた。つい、目を逸らす。
……苦手だ。こいつの微笑みは。
「怒っていますか」
「……」
〝その事〟について、話したい気分じゃない。思い出したくない。
ふと手元を見て、パジャマを着て寝かされていた事にようやく気付いた。
「今夜はこのままここで休んで下さい。制服はそこ、シャツや下着は洗わせてます。朝には仕上がってきますから。明日は一緒に登校しましょう」
なんかもう……全てが手際よくて、逆らう気にもなれない。ていうか、本当に怠くて睡くて動けない。
「僕は別室で休みます。一緒ではお互い寝付けないでしょうから。おやすみなさい、黒羽君」
君の寝顔が見られて、僕は嬉しい。今日という日を、僕は忘れないでしょう――。
白馬の声が遠退く。
部屋の明かりが落とされ、白馬が部屋を出ていったようだ。
寝心地の良いベッド。柔らかくて大きな枕。一人になってほんの少し淋しさを覚えた自分に呆れ、溜息をつく。
この先、白馬とどう関わっていけばいいのか―――考えるのは明日にしよう……。
とにかく久しぶりの深い眠りへと――放課後、気を失った時の灼かれるような闇とは違う、温かな闇に誘われるまま。
俺は再び目を閉じて、静かに静かにその中へと墜ちていった。
20120130
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あとがき
〝新快前提〟ではない純粋な(?)白快、ついに書いてしまいました~(^^;)。
ありがちですが、クラスメートならやっぱり学校で! ということで、手っ取り早いトコでしてしまいまた。
とりあえずの〝テスト〟白快でした。この白快では新一はでてきません! ですが、そのうち(白快前提 新一→快斗)もアリかも! と、いらん妄想が膨らんでます。あはは~(^。^;)。
[22回]