怪盗の香り(コナン&キッド)
※コナンくん視点
──────────────────
自宅に戻ったら家の中がほんわか暖かかった。
ここんとこ秋の長雨で肌寒い日が続いてるのに、なんで?
カチャ。
リビングからカップ&ソーサーの音がして、なんだか芳しい、いい香りが漂ってくる。
──紅茶だ。
「ってオイ、勝手に人んちでなに寛いでんだ怪盗キッド、警察呼ぶぞ!!」
ドアを開けて一喝した。
だがソファーの長椅子にゆったり座った白い装束の怪盗は、オレを見てにっこり微笑んだだけだった。
「おかえりなさい名探偵。お子様が戻るには少々時刻が遅すぎるようですが」
「テメーが厄介な返し方しやがったからだろ、お宝を!」
今夜のキッドのパフォーマンスは一段と派手だった。
ハイヒールの女性秘書、警備責任者、白髪の鑑定家と三度も変装を繰り返し、まんまとビッグジュエルを盗み出したのだ。
最後は四越帝丹ビルの屋上に集結した機動隊をものともせず、お宝を天に高く掲げ(月に翳し)、閃光と共に忽然と姿を消した。
輝く十二夜の月光を浴びた蒼白い残像だけを残して。
「綺麗に消え去った怪盗が、まさかまた展示室に戻ったなんて普通考えねーだろ」
「ふふ。私の探し物ではありませんでしたが、素晴らしいジュエルでしたので。これはきちんとお戻しすべきかと」
まったく腹立たしい。
てっきり偽物にすり替わったままだと思ってたから、確認が最後になったのだ。館長なんか本物を偽物と勘違いして危うく床に投げつけるところだった。
「狐につままれたというか、オレもだけどエッ…てなったもんな。警察なんか『もしかして最初から盗まれてなかったんじゃ』って言ってたぜ」
「それは心外ですね。…でもまあ良いです。名探偵に私のマジックを披露できましたし」
少しばかり憮然としかけた怪盗だったが、肩を竦めると背をまたソファーに戻した。
またカップを手にして紅茶を飲む。仕草が優雅なのがムカツク。
「はぁ。気が抜けたらスゲー疲れてきた。おい、キッド」
「はい」
「うめーのか、それ」
「名探偵は珈琲党でしたね」
「そうだけど、ちょっと飲ませろ」
「新しく淹れましょう。紅茶は新しく沸かしたお湯を使うのが一番美味しいですから」
「それからな」
「はい?」
「いつまでそのカッコしてんだ」
「はい…い??」
「怪盗がマントひらひらさせて家の中にいたら落ち着かねえだろ」
パチクリと瞬きした怪盗と目が合う。
急に熱が上がったみたいに顔が熱くなった。
───ボワン!!
パステルピンクの煙幕で目の前が覆われる。
パタパタ手で煙を扇いでいたら、突然フワリと体が浮き上がってオレは『わぁ』と声をあげた。
「だ、誰だよ、おまえ!」
どっかで見たことあるよなヤツが、後ろからオレを抱き上げていた。
「怪盗の姿じゃ落ち着かねーってテメエが言ったんだろ。しゃあねえから工藤新一に変装してみた」
「オレはそんなに髪の毛クシャクシャじゃねえ!」
「へへへ。やっぱりコナンくんは工藤新一なわけか。マジックよりすげえな」
やべ、つい口走っちまった。
「な、内緒だぞ、キッド」
「わあってるよ。俺とコナンくんの仲だ」
仲って。
たまに事件後に二人で会って、こんな風にゴチャゴチャ一緒に過ごすことがあるだけで、互いの秘密には踏み込まないって不文律がなんとなくあるだけで。
「どうぞ。お子様には濃いかもな」
「アールグレイ?」
「惜しい。ナイトアールグレイ。怪盗の香りさ。ここんとこのお気に入りなんだ」
怪盗の香り?
ナイトアールグレイ…か。
熱そうなのでふうふう吹いてたらオレの顔したパーカー姿のキッドがニコニコしてた。
ちょっと飲んでアチッてなって、いつの間にかキッドに背を抱えられてソファーに一緒に座ってたら一気に眠くなった。
変だよなぁ。
オレも、キッドも。
変だけど、もう眠くてだめだ。
ナイトアールグレイの香りに包まれて、オレは目を閉じた。
キッドと一緒に空を飛ぶ夢を見るかもしれない。
〝飛ぶよ、コナンくん〟
キッドが誘う声が微かに聞こえた気がした。
20171002
──────────────────
※軽く短編を~と思ったんですが(汗)。毎度更新遅くてすみません。
●拍手御礼
「シンデレラ・コンプレックス」「十四ヶ月」「インスピレーション」「ダブルドリーム」「朧月」「身代わり」「硝子の欠片」「コルボーの一味」、カテゴリ★インターセプト、★17歳 の各話へ、拍手ありがとうございました(^_^)ゞ
[13回]