アブノーマルII《2/2》(新一×キッド)
※おちゃらけのつもりがテイスト(?)が途中微妙に変わります。
スミマセン…なんでかなー(*_*;
R18表記外したんですが……ダメでしょか(汗)。
―――――――――――――――――――――
しかし、神様はいなかった。
どこ行っちゃったんだよ神様ぁー。
無慈悲で〝ドS〟な恋人に命令されて、俺は自分で一枚ずつ衣装を脱ぐ羽目になった。
こんなことなら多少無理矢理にでも、名探偵に身ぐるみ剥がれる方がまだマシだった。
屋上庭園の蒼白いLEDライトに四方から照らされる中、ベンチにふんぞり返って真顔で見詰める探偵の前で、俺は泣きながらストリップを始めた。
うう、非道い。
寒くはないけど、なんと言ったらいいか……この感覚。全身の産毛がぞわぞわと逆立つような羞恥を覚えながら、少しずつ肌を夜の空気に晒してゆく。
それでも俺が名探偵に逆らわないのは――自分でも理解できないが、どこかで名探偵に惹かれており――こんなアブノーマルな逢瀬でも、拒絶することで関係が絶たれてしまう事を怖れているからだ。
さらに言うなら、名探偵はちゃんとそれを見抜いている。
どんな無理を言っても、最後は俺が従うことが解っているのだ。そしてそれを愉しんでる。
――やっぱりコイツはSだっ、S、エス、ドのつくS!!!
「なにひとりで百面相してんだよ。ホント飽きねぇやつな、おまえ」
そんな思いやりの欠片もない言葉を冷たく吐きかけられながら、俺は震える指をいよいよ身に着けた最後の一枚にかけた。
どうしよう……。
脱いだ瞬間、大笑いされるのかも。
バカな怪盗と言われ、蔑まれるのかも――。
気が遠くなるくらいつらい。こんな責め方もあるんだ。確かに目に見える疵痕は残らないけど、代わりに胸の中はズタズタだ。
でも…自業自得だ。俺が言い出したんだから。こんな理不尽な目に遭わされても、それでも探偵を嫌いになれない俺がバカなんだ。
バカな俺。バカな怪盗。馬鹿さ加減は自分で厭と言うほどわかってる。
チクショウ……見てろよ、俺の脱ぎっぷり! こうなったら開き直ってやる。
これでどうだっ、うりゃあーーっ!!!!
気合い一発、最後は小さく手のひらに仕込んでいたマジックの煙幕を使って、ポン!という音とパステルピンクの煙の中から……俺は一糸纏わぬ生まれたままの姿を名探偵の前に差し出した。うやうやしく礼をしてから――真っ直ぐに体を起こして。
静寂。
あ…れ……?
笑わない。
ただ真剣な眼差しで、上から下まで俺のすべてを確かめるように見詰める探偵の瞳。
膝が震えるのを必死に隠す。我慢だ、ここで恥ずかしがる素振りなんか見せたら――。
「!」
探偵がベンチから立ち上がる。
はっとして僅かに身構えた。探偵の手が伸ばされる。まっすぐに、俺の方へ。
(あっ)
モノクルを付けたままだった。そのモノクルを探偵に外される。
(……)
そのまま頭を持たれ、唇を塞がれた。
……え。え。え?
信じられないくらいマトモな口付け。
どうして。
優しすぎて怖い。怖いくらい……。
唇が放されると、くらりときてフラつく体を抱きとめられた。
探偵の背に掴まりながら、ドキドキ震える。
罠だ、優しい振りしてるんだ、騙されるな、このあと絶対ヒドイことされるに決まってる。
「キッド」
「…………」
「きれいだ」
「…………」
――?
「愛してる」
え……??
「返事しねーと、くすぐるぞ」
「……ま、まま待ってください!」
この前〝くすぐりの刑〟に処せられて、半死半生のメに遭ったばかりだ。
「もう一度言うぜ。すぐ応えないと」
「だ、大丈夫です、すぐお応えしますから」
「キッド。愛してる」
「…………」
「てめブッころす」
「ま、待ってください!」
なんだ? 新手の責めか?
愛してるなんて――思ってもないくせに……俺に言わせるのか、その言葉を。俺に。
「キッド」
「…………お応えできません」
「なんだと」
俺は身を引いて探偵の腕から離れた。落としたマントを掴んで体に巻き付け、探偵の方を見た。
「…その言葉だけは、言えません」
「なんでだよ。俺を愛してないってことか」
「戯れに」
「なんだよ」
「その言葉だけは、戯れに使いたくないのです。どうかお赦しください」
俺は探偵に背を向けた。悲しくて。
どんなヒドい目に遭わされても、こんな悲しい気持ちになったことはなかったのに。
でも今は悲しい。なぜだろう。悲しくて――泣きそうだ。
「!」
背中から探偵が俺を抱きしめる。
「好きだ、キッド。愛してる。おまえが応えてくれないのも無理ねぇよな。ヒドいことばっかしてきたもんな。だけど、信じてくれよ……全部おまえのことが好きだからなんだぜ。おまえが好きだ。放したくない。手でも足でも枷つけて、永遠にそばに繋いでおきたいんだ…本当は」
――夢のような、探偵からの熱烈な告白。ああ…これまで堪えてきてよかった。
若干不穏な表現が含まれていたが、俺は初めて想いが通じた喜びに振り向き、自分から探偵に抱き付いた。巻きつけたマントが足下に落ちる。
「…嬉しいです、名探偵。私もずっとあなたをお慕いしていました。どんな事をされても――あなたに逢いたくて」
「本当か、キッド」
「はい……愛しています、名探偵」
ここで映画のようなキスシーン。
だろ、フツーは。
しかし、相手はフツーの恋人じゃなかった。根っからの〝ド〟が付く〝S〟なのだ。
ガチャン! と音がして手首に手錠がハメられた。あああ。
「……道具は使わないと、最初に約束して下さいましたよね?」
「ふふ。あれはまだ告白前だったから。逃げられると追いかけんの面倒だし」
「……私を愛してると言ってくださったのもやっぱり罠なんですね。非道すぎます!! 私は、わたしは――」
「わかってるって。俺も心からおまえを愛してるんだ。罠なんかじゃねえよ。んじゃ、告白初夜はここで拘束プレイな。燃えるぜ」
分かっていたけど。
分かっていたけど、ヒデえよ~!!
結局、俺は星空の下、深夜の屋上庭園の芝の上で両手を後ろに拘束されて、探偵の思うまま、探偵が満足するまで××から××までヤられまくった。感じなかったといえば嘘になるけど……。それにしても。
名探偵の告白は、果たして真実だったのだろうか。
告白を信じるか信じないかは、俺しだい――ってことか。
都市伝説かよ……。とほほ。
20120411
[16回]