ストレンジャー イン ホラー(新快前提 ??&快斗)
※快斗くん視点にて。
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〝いらっしゃいませ…、ご友人の方ですね? あいにく主人は帰宅が遅れております〟
俺は驚いた。
誰もいないはずの工藤の家に玄関の鍵を開けて入ると、不意に何者かに声をかけられたのだ。
真っ暗なエントランスで声がする方を振り向いた。すると、階段の前で一人の男がぼんやりと灯る燭台を手に立っているのが見えた。
────長身痩躯のシルエット。落ち着いた佇まい。スラリとしている。そう年配者ではないようだ。
いったい誰だ? 聞いてないけど、工藤んちの使用人…?
「え、ええっと、夜分すみません。あのぅ…何でこんなに暗いんですか?」
異様な雰囲気に呑まれそうになって、慌てて声を出した。自分の声がひっくり返ってて、余計に心拍があがる。
エントランス脇の電灯のスイッチに手を伸ばしてパチパチするが、明かりが点かない。停電なのか?
〝パーティーの用意をしておりましたので…どうぞこちらへ〟
「……………」
こんな、真っ暗な中で? それとも停電したばかりなのか。考えるが、何故だか問うことが出来ない。
だって、なんだかおかしい。
なんだか────異世界に迷い込んでしまったようだ。
闇はどこまでも暗く、男が持つ燭台の明かりは男の手元をかろうじて照らすのみだ。普通なら見えるはずの男の容貌も、鼻から上は闇に溶け込んでいるように見えなかった。
〝どうぞこちらへ〟
もう一度促され、ダイニングの方へ誘(いざな)われる。
踏み出した足が敷物にとられてふわりと揺らいだ。
何だ……この感覚。ふわふわと頼りない。
もしかして……夢か?
俺は…夢を見ているのか?
だったら、解るけど。
こんなに暗い中を先導する〝ストレンジャー〟。
その男が持つ燭台の明かりは、やはり足下まで届いているようには見えなかった。
「あのう、あなたは誰ですか?」
思いきって訊いた。
〝わたくしですか……?〟
男は前を向いたまま返答した。
〝私は既知の者。今宵一晩、ここの主人を祝うため、従者に化け参上したのです〟
既知の者…?
まるでさっき〝ストレンジャー〟と表した俺の心を読んだかのような返答だった。
そして、ここらで俺はようやく気が付いた。男の声。なんだか……空気を伝っているのではなく、俺の頭に直接響いてるみたいに聞こえる。
……そっか、そっか、やっぱり夢なんだ。
だったら怖がることないだろ。落ち着け俺。そのうち目が覚めるし。
〝どうぞ〟
案内されたダイニング。部屋は真っ暗なのに、テーブルの上の数ヶ所に置かれた燭台の火がゆらめいて、ゴージャスな飾り付けや食器類が並べられているのが分かる。
「…今日は、なんのお祝いでしたっけ?」
俺の問いに、男がにこりと微笑んだ。その口元の髭に気付いてハッと固まる。
途端に跳ね上がる鼓動。かっと全身が熱くなる。
この男は誰なんだ?
まさか─────まさか……?!
〝主人が世に認められた、記念の日です。言うなれば第二のバースデー〟
そして俺は唐突に認識した。
この男がさっきから『主人』と呼んでいるのは、工藤のことじゃない!
俺は足を踏み出した。男の方へ。
「あのう、あなたは…もしかして……」
そんなはずないけど。
だけどこれ夢だし、だったら何でもありだし。
微笑んだ男の口元を見つめて一歩、二歩と近付く。
「あなたは…、あなたは…」
〝いけません、私の名を呼んでは〟
「え…?」
〝ストレンジャーの名を呼んだ者は、此処にいられなくなります〟
「ど、どういう意味?!」
〝まだ此処にいたいでしょう?〟
「……………」
もしかしたら、俺に死になくないだろうと言っているのか……?
だけど、だけど…!!
男がスッと遠のいたように見えた。
「待って!」
俺は走って男に飛びついた。ダッシュしたつもりの足は妙にとろくて間に合わないかと思ったけど、何とか手が届いた。俺は必死に男にしがみついた。
〝危ないですよ……、ご友人をお連れするわけには参りません。私はそろそろお暇(いとま)することにしましょう〟
「行かないで! 『主人』を祝うために待ってるんでしょ?」
〝はい。でも……〟
「でも…?」
俺はおそるおそる顔を上げて男を見た。
見覚えのある口元。絶対そうだ。 間違いない!
ずるいよ!!
俺がどんなに願っても、俺んとこには来たことないのに!!
クスリと笑って男は囁いた。
〝ご友人は、私のあの子によく似てらっしゃる…。まるで本当にあの子が成長したかのようだ〟
「……………」
涙が溢れた。
俺は男の肩に顔を押し付けた。言いたいことは山ほどあるのに、全く言葉にならない。
背中をとん、と叩かれた。
懐かしい手。
ああ、やっぱりそうなんだ─────。
俺は目を閉じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「快斗! おい、風邪引くぞ!ったく」
んあ?
ぐらぐら肩を揺さぶられて目が覚めた。
「…あ、れ…れ? 工藤」
「アレレじゃねえよ。何やってんだダイニングなんかで」
ぱちくりして、突っ伏していた頭を上げた。眩しい。
電気が付けられたダイニングは明るく、サッパリと片付いている。
「………夢だよなぁ、やっぱ」
俺がつぶやくと、工藤はあからさまにでっかいため息をついた。
「真っ暗だから二階にそのまま上がろうとしたんだぜ。玄関開いてんのに変だなーと思って。そしたらこっちがぼんやり明るかったから」
「…………」
大きなテーブルの上。もちろん食器類なんか並んでるはずがなかった。
だけど。
心臓がバクバクしてた。
一つだけ燭台が立てられていて、まさにたったいま、その蝋燭の火が尽きるところだった。
最後に大きく揺らめいて、オレンジの炎は俺が見ている前でフッとかき消えた。
「……ク、ク、クドウッ!!」
俺は座り込んでた椅子から立ち上がって、工藤の首に抱き付いた。
「な、なんだよ、寝ぼけてんのか?」
「めっさ寝ぼけてる! なあ、今日って何の日 ? おまえの親父さんの記念日だろ?!」
「はぁ? 今日って、今日のことかよ、それとも、昨日のことか」
「どっちでもいい! ヒントは世に認められた第二のバースデー!!」
「……ああ、それなら…親父が作家になって新人で初めてミステリー大賞取って、その授賞式があった日かなぁ? 確か今日だったような。その時の喜びに勝るものはない、有希ちゃんと出逢った事と、オレが生まれた日を除いては……なぁんてよく聞かされたなァ昔」
「それだよ~~っ、間違いねえ!! やっぱりあれは…!!」
俺の父さんだ。
〝黒羽盗一の霊〟だったんだ!!!
父さん~! どおゆう事だよっ!
俺のリアル誕生日にだって出てきてくれた事ないのに、何で工藤んちの親父を祝うために出てくんの?! ズリィよ!!
悔しいのと、たとえユーレイでもとにかく父さんに会えた嬉しさとで、俺は工藤にむちゃくちゃしがみついた。そんで工藤に熱烈キスした。しまいには工藤からも強烈キス返されて、何がなんだか分かんないまま二階に連れて行かれた。
ユーレイにも、出やすい〝場〟というのがあるのかもしれないな…。工藤んち、近所でも有名な幽霊屋敷だし。
そんな事を考えながら、昼近くになってようやく勇気を出してダイニングを覗いてみた。
だけど、もう燭台はテーブルになかった。
工藤が俺より先に起きて片付けたんだ。
そう思うことにした。
工藤に訊いて、万が一そんなんなかったと言われたら今の気分が台無しになる。
だから、俺は訊かないことにしたんだ。
20120207
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※お粗末様です。突っ込みどころありありかと思いますが、さらっとスルーお願いします~(*_*;
★拍手御礼
どなた様か「子守唄」「掠れた記憶2」に拍手ありがとうございました!(^^)!
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