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アゲイン(白馬×快斗←新一)
カテゴリ☆噂の二人《3》
※前々回up『さざなみ』のつづきです。白馬くん視点でスタート。
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〝呆気にとられた〟顔。
言い表せばそうなる。僕が右手と左手にそれぞれソフトクリームとペットボトルを持っているのを見た時の、工藤新一の顔は。
巷で有名な東の高校生探偵には、それだけで僕らが恋人同士であるとすぐに解ったのだろう。
二人で一つずつを分け合う。しかもそれがソフトクリームとくれば────少なくともキスまで済ませた仲と推理するのが普通だ。こんな場所へ二人で来ているところに出くわしたのだから、なおさら。
その時の工藤は〝迷宮なし〟と謳われる日本警察の救世主とは思えないほど狼狽していた。もっとも、その理由が何故かを逆に推理すると、今度は僕自身が平静ではいられなくなるわけだが。
僕ら三人はほんの数分だったが、砂浜で立ち話をした。
「では…工藤くんも観に来てくれたのですか、僕らの劇を」
「ああ。混んでて座れなくて、二階の通路からね。少年探偵団の子どもたちも連れて行ったから、かえって見やすくてよかったけど」
「──── あっ!」
ソフトクリームを舐めながらそっぽを向いていた黒羽が、突然声を上げて振り向いた。
「照明が落ちた時の……、あれ、まさか」
「あ、ああ。そう。少年探偵団の子供たちと、オレの腕時計のライト」
「そうだったんですか。おかげで王子と白雪姫の大事な場面を続行できて、助かりました」
僕が〝大事な場面〟と強調すると、黒羽が大きくゴホン!と咳払いをした。余計な話をするなという事らしい。
「……魔女との対決のクライマックスで、客席から大声出した子がいただろう。あれも探偵団の女の子さ。すっかり劇に入り込んでたよ。オレも…なんていうか、すごく面白い舞台だった」
工藤からの有り難い感想だったが、黒羽も、黒羽に釘を刺された僕も返事をしなかったので、工藤の声は独り言のように潮風に流された。
工藤は江ノ電の踏切の音が聞こえてくると、それが合図だったかのように僕らに会釈をし、退散していった。
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〝噂の二人〟。
園子が言ってたのは本当だったんだ…!
オレは自分の迂闊さに頭を抱えながら走った。
そうだよ。サッカー部の練習試合が終わって握手した時、黒羽だって言ってたじゃないか。オレが『付き合ってる人とかいるの?』と訊いたら……
〝いるよ、一応〟って。
いるよ…。いるよ………いちおう……。
それじゃあ、つまり、黒羽が付き合ってる相手って─────
白馬探ってことか─────??!!
うそーっ……(@@)(+_+)(>_<)!!!
え? じゃ、じゃあ、黒羽が怪盗キッドかもって、オレの完全思い過ごし??
いくらなんでも警視総監の息子で超細けえシャーロキアンな帰国子女探偵が、怪盗キッドと交際してるなんて、そんな事は有り得ない……はずだ!
いやいやっ、白馬は気付いてないのかも? 黒羽がキッドかも…って事に。いやいやいや、 同じ高校に通っていて気が付かないなんて事があるだろうか? 白馬だって探偵としての能力は秀でている。
え? じゃあ……黒羽がキッドと解っていて付き合ってる可能性は??
そんなことが・・・
わかんねえーーーっっ(T_T)(T_T)(T_T)!
ダメだ!撤収! 落ち着いてから考えよう。ゆっくり…電車に揺られて…家に帰るまでに落ち着くんだ。
いいな、オレ。それまで深呼吸だ。
だけど……だけど、やっぱりショックだあ~(@@)(@@);;;
黒羽と白馬が恋人同士だなんてっ!!
なんで今日オレ湘南まで来ちゃったんだろう…。オレのばかっ!
やり直し!もう一回、最初から推理しなおし!! 再びフラットな頭に戻って推理し直さないと……。
ああでも邪念ばっか膨らんで無理かも。オレ。黒羽のこと、深入りコワくて調べらんねーかもおおぉおーーっ(>_<)ゞ
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半分近くまで減ってしまったソフトクリームを、黒羽がようやく差し出してくれた。
一口ソフトを味わってから、僕は口を開いた。
「工藤くんに、バレてしまいましたね」
「どっちのこと?」
「どっちとは」
僕が問い返しても、黒羽は答えなかった。
僕らが付き合ってること。それ以外に。
「君が……〝怪盗〟だと?」
「さあ」
切り上げるように呟くと、黒羽は僕を向いてようやく微笑んだ。
「歩こ」
あてのないデート。もう少し砂浜で過ごして…太陽の煌めきと潮風の匂いと。二人の時を堪能したい。
しかし思わぬ闖入者の出現で、僕らはそれぞれの物思いに耽り、純粋に今を楽しめなくなってしまっていた。付き纏う切なさに、胸が締め付けられる。
「白馬さぁ」
「はい」
僕を呼ぶ黒羽の声のテンションは低く、何事を告げられるのかと内心少々身構えた。
「月曜の英語アゲインだからな。忘れんなよ」
「は……なんですか、いきなり。テストの話なんて不粋極まりないですよ、せっかくのムードを、また君は」
「んだよう。忘れてそうだから念のためと思って言ってやったんだろ」
しかし、よく思い起こしてみると、黒羽がこのように唐突に学校の話を持ち出す時にはある法則があった。
いま黒羽自身を捕らえようとしている諸々の状況、思い、記憶などから放れようとする時。そんな時に黒羽は学校のことを思い起こすのだろう。危うい均衡を保つために、学校生活が黒羽にとって欠くことの出来ないものである証拠だった。
僕は手を伸ばし、黒羽の手と手をつないだ。指を通して。
俯いた黒羽は、ほんの少し唇を尖らせたが、振り解きはしなかった。
切ない甘い想いを互いの手の温もりに代えて伝え合う。
僕らは二人きりのデートに戻った。
横顔で微笑む黒羽が、僕は愛おしくて堪らなかった。
20121113
[12回]