名探偵コナン・まじっく快斗の二次BL小説。同ジャンル諸先輩方の作品に触発されております。パラレルだらけですが基本は高校生の新一×快斗、甘めでもやることはやってますので閲覧は理解ある18才以上の女子の方のみお願いします。★印のカテゴリは同一設定で繋がりのあるお話をまとめたものです。up日が前のものから順にお読み下さるとよいです。不定期に追加中。※よいなと思われたお話がありましたら拍手ポチ戴けますと至極幸いです。コメント等は拍手ボタンよりお願いいたします! キッド様・快斗くんlove!! 《無断転載等厳禁》

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2011年8月26日よりブログ開始
2012年5月GW中にカテゴリ分け再編&アクセスカウンター設置
2013年5月 CONAN CP SEARCH 登録
2013年6月 青山探索館 登録
連絡先:hamanosuronin★gmail.com(★を@に置き換え)
Script:Ninja Blog 
Design by:タイムカプセル
 

空耳だったかもしれない。


だが、幼なじみの少女の声が聞こえたような気がした――瞬間、逃れることをあきらめた。
これ以上遺恨を残したらどうなるか。この場を切り抜けても、またこの連中は襲ってくるだろう。
幼なじみの少女や、クラスメート、あるいは寺井などが一緒にいる時だったらどうなるだろう。
間違ってもこんな連中を自分の大切な人たちに遭わせたくない。
ふっと工藤の顔も浮かんだ。

もとより自分は男で、貞操など気にする理由もない。
冷めた頭で(どーせ初めてでもないし)と自分を嘲る。嵐が通り過ぎるのを待つだけ。
――キッドだったなら――仮定しても意味はないが、もしそうだったなら、切り抜ける自信はあった。だが自分は黒羽快斗で、連中の狙いも黒羽快斗なのだから、どこかでこの反吐の出る連鎖は終わらせておかなければならない。自分にはすべきことがあるし、下手に騒ぎを大きくして余計な事を余計な相手に探られるのもごめんだった。



つッ…

最後に腹に一蹴り入れられ、気を失った振りをして、ようやく嵐は去った。

あーあ……制服がグシャグシャだ。
ゴロリと仰向けに体を返して大の字になる。
大丈夫。意識もしっかりしてるし、骨も折れてないと思う。殴られながらも、致命傷は受けないよう注意したつもりだった。もしかしたら肋骨にヒビくらいは入っているかもしれないが。
性器を突っ込まれた場所がズキズキと痛むが、これも数日耐えれば治まるだろう。唯一怖れていた事――いやな相手に無理矢理挿れられて無様によがるとか――には ならなかったので、それだけは密かにホッとしていた。
ただ、ひたすらな嫌悪感と屈辱と苦痛があっただけ。それだけだ。
どうってことはない。あんなものは暴力にすぎない。
くだらない連中。忘れてしまえ。





思いがけずアイツの姿を見つけて俺は自分の目を疑った。
(黒羽快斗――!)
学ラン姿でカバンを脇に抱えている。腑に落ちないものを感じて、隣に座る刑事に気付かれぬように俺は咄嗟に黙り込んだ。

家の前でパトカーを降り、挨拶をして帰って行く刑事達を見送る。自分以外にさっきの人影に気づいた者はいなかったようだ。
パトカーが遠ざかるのを待ち、走り出す。アイツが佇んでいた近所の小さな公園へ。

怪盗キッドとしてのアイツと出逢い、何度かの邂逅の後、互いに認め合う仲になった。黒羽快斗という正体を知ってからも、あえて接触を計ることはしていない。拒まれることが目に見えているからだ。
キッドには誰にも明かせない目的があるのだ。推測するしかないが…。だから、アイツが不用意に黒羽快斗として自分から俺に近付く訳がないのだ。
じゃあどうして、こんな夜更けに無防備にも制服姿のままで……。


「黒羽!」
小さな公園のブランコに腰掛けた黒羽は、呼びかける直前まで俺に気付いていなかった。
はっとしたようにギクシャクと立ち上がると、こちらを見もせず背を向ける。小さな公園の灯りだけでは陰になり顔も見えない。

「待たせたな。いつからここに?」

「…誰も待ってねーよ」
待っていたつもりはないのだが、街を彷よっているうちに此処まできてしまった。何やってんだ俺。
「相変わらず自意識過剰なんだよ」
声だけは、せめてポーカーフェイスを繕う。立ち去らなくては。

背に伸ばされる工藤の気配を感じ、振り払うように走り出す。体が痛い。自己嫌悪。アッサリ追い付かれて腕を捕られてしまった。

「もう遅いぜ。うちに来いよ…?」
黒羽の顎に痣があった。よく見ると制服も汚れて傷んでいる。
俺は力ずくで黒羽を振り向かせた。

「――はなせよッ!」
強い拒絶の言葉。しかしそんなものに誤魔化されはしない。引き擦るように黒羽の体を抱えて歩き出す。
「認めろよ。何があったか知らねーが、俺に会いに来たんだろう」







何があったのか。何らかの争いごとに巻き込まれたのか。
黒羽を連れ帰って部屋の明かりに晒すと、かなり痛手を受けている様子が窺えた。

経緯はわからない。黒羽は黙りこくって一言も発しないからだ。

「キッドともあろう者が、ずいぶん派手にやられたもんだな」
埒が明かないので少々挑発的な言葉を吐く。それでも反応はない。

「とにかく服脱げ。怪我してんだろ。看てやるから」
近付くと黒羽は避けるように俯いた。

ふ…と、その時、僅かだが鼻をつく匂いに気付いて伸ばしかけた手を止める。
心に引っかかっていたものが唐突に表面に浮かび上がり、俺は目を瞠いた。
学ランの襟を掴んで引き寄せた。黒羽が眉を顰め、顔を背ける。
埃と汗、血の匂い。それから……
外気に包まれていた時には気付かなかった、僅かだが鼻を突く据えた匂い。

「黒羽――おまえ……」
もしかして。まさか。まさか――。


「……だったら、どうだって言うんだよ」
暗い、暗い、深い海の底の闇を思わせる瞳の色。口元だけ歪めて吐き出す言葉。俺の手を払いのける。
「勘違いするな。俺は自分で選択したんだ」
「選択――?」
「帰る。…汚れてるから」

得体の知れない激情が俺を押し流した。細い手首を掴まえると暴れる黒羽を連れてもつれるように階下へ向かう。
二三発殴られるが俺は止まらなかった。

痛みの引かない肋骨のせいで息が苦しい。工藤が俺を引き摺ってゆく。いやだって言ってるのに。どうしてここに来てしまったんだろう。どうして、俺は――。
(あっ…!)
工藤がシャツをたくしあげ、ウエストの隙間から手を差し入れる。ベルトは連中にナイフで切られてしまったので着けていなかった。
「よせっ…!! …あ!」

黒羽の、素肌の尻に手を伸ばす。周辺にはやはり陵辱の気配が残っていた。俺を捉えていたのは――激しい嫉妬、だった。黒羽が、何者かに犯された――。しかも、さっき黒羽は自分で「選択した」と言ったのだ。どういう意味なんだ。
体をよじって逃れようとする黒羽を放さず、俺は侵された黒羽のその場所へ指を忍ばせた。
黒羽が押し殺した悲鳴を洩らして体を戦慄かせる。
――生々しい陵辱の残滓。体内に残されたままの忌まわしく纏わりつく感触に、俺は鼓動を黒く焼き付かせた。
焦燥と衝動。黒羽の拒絶の言葉を唇で塞ぐ。その時、初めて黒羽の頬に涙が伝っていることに気付いた。
心も体も傷付いて、俺の元へと辿り着いた黒羽への思いがどうしようもなく膨らむ。

抱き締めた黒羽もろとも服を着たまま栓を回した。
シャワーの雨が丸ごと二人を打つ。
腕の中でもがいていた黒羽も、ずぶ濡れになるにつれ放心したように静かになった。
此処にいろ、と抱き締めたまま黒羽に囁いた。いてくれ、と。
黒羽の返事はなかった。ただ俺の腕の中で、微かに、いつまでも震えていた。





素裸になると、黒羽の傷は想像以上に酷かった。顔や手など目に付く場所へは軽く痣が残る程度なのに、腹や肩、腕、背中、腿のあたりは執拗に暴行を加えられた痕があり、よく立って歩いていられたと思うほどだ。陰湿で暴行馴れしたこんな危険な相手に日常付き纏われているとしたら放ってはおけない。被害届けを出すなら協力すると言ったが、黒羽は力無く首を振った。
どうなるかはわかってた。仕方がなかった、と低くつぶやいた。
どうして。俺は胸の奥に黒く巣喰う感情を隠しきれず声を荒げた。
――どうしても。
またあの暗い瞳。こんな黒羽の顔は見たくないのに。


俺が黒羽への想いを遂げたのは、これまで僅かに一度だけだった。俺を庇って怪我を負ったキッドを匿い、手当した。そしてキッドの正体が俺と同じどこにでもいる生身の、ひとりの高校生《黒羽快斗》である事を知った。
奴はこれまでにも人命に関わるような危機には自身の危険を冒しても身を挺して他人を救うような一面があった。ただの泥棒じゃない、俺は気になって――奴の目的が。正体が――そして素顔を初めて知った時、言い表せない感情に囚われて…
夢中で求めてしまった。
あろう事か、俺は探偵のくせに怪盗に心を奪われ……たぶん、恋というものに落ちてしまったのだ。

ずっと、逢いたかった。逢いたくて逢いたくて――しかし、ようやく逢えた想い人は、思わぬ傷を負っていた。
仕方がなかったと言った。
俺を庇った時のように、もしかしたら黒羽は他の誰かを庇ったのではないだろうか……。



ああ――。眠い。
ようやく気が付く。何故この場所へ向かってしまったのか。

俺はやっぱり工藤に会いたかったんだ。
そしてこうして工藤の温もりに包まれて、眠りたかった。

工藤の鼓動を確かめて目を瞑る。
今日は疲れた…。



すーすーと寝息をたてて、黒羽は眠ってしまった。俺の気も知らず。
傷付いた黒羽にこれ以上負担を強いる気はさすがに無いけれど、それにしても生殺しとはこういう事を言うのじゃないだろうか。
この華奢だが侮れない頭脳と瞬発力を隠し持った俺と同い年の少年が、世間を賑わす《怪盗キッド》だとは、頭では判っていても実感として伴わない。
それくらい、隣で眠る黒羽は無防備で――たとえようもなく魅力的だった。今さらだが、自分の思いの深さに戸惑うほどだ。寝顔を見つめるだけでいてもたってもいられないくらい鼓動が速くなる。

…眠れない。

俺も寝なけりゃ。明日はまた学校→
警視庁のハシゴなのに……と考えてからイヤイヤと思い直す。関わっていた事件は一段落したところだ。そして学校も――学校なんかクソクラエだ。黒羽が俺を頼ってきたというのに(そう解釈して問題ないだろう) 学校なんか行ってられるか。

俄然目が冴えてきた俺は黒羽を起こさぬようテーブルの上のiPhoneに手を伸ばし、ここ最近の近隣地区に於ける軽犯罪・強盗・強姦の未解決事件を当たり始めた。







明るい。何時だ。
「……わぁっ!」

黒羽がいない。
慌てて枕元の時計を見る。いつの間にか軽く10時を回っていた。
――なんてこった。
我ながら信じられぬほど落ち込む。
あああああ。バカ野郎オレ。こんな時に寝過ごすなんて。テンション激下がり。
重たくため息をつき、のろのろと起き上がって掌を見つめた。
いつもそうだ。あいつは、黒羽は、いつもこの手をすり抜けて消えてゆく。
「……………!」

部屋の扉が開いた。
トレーを持った黒羽の顔が覗く。
「…く、く、くろ、ば!」
「腹減ってるだろ? 適当にキッチン使わせてもらった。あの…これ借りてる。今、制服乾かしてるから」
俺は鳩が豆鉄砲くらったように口をパクパクしながら、微かにはにかみ近づいてくるTシャツとハーフパンツという俺の部屋着を身に付けた黒羽を見つめた。
夢じゃない。
旨そうな朝食。美味そうな黒羽。二者択一。答えは出ている。
トレーをサイドテーブルに置いた黒羽の腕をもどかしく掴んで引き寄せた。驚いた顔をしたが、黒羽は抗う事なく俺の胸に収まった。

「あ、あのさ、先、食えよ。冷めちゃうから…」
「我慢できない」
「でも、俺……」
――輪姦されたばっかだぜ、と呟く。
「…そんなん、やだろ」
接した黒羽の肌が熱い。
(ま・わ・さ、れた――?)
言葉が一拍おいて浮かれていた俺の脳にようやく届く。意味するところに気付き、頭から冷水を浴びたような感覚に襲われた。
黒羽は口を噤んだままだが、何者かに襲われ、犯されたらしいことは傷痕からも解っていた。だが本人の口から直接状況を想像させる言葉を聞かされるのは、やはりショックだった。

「い…、一緒にすんなよ…!」
「そんなつもりじゃないけど…」



学校の帰り道、女の子が数人の不良に裏道へ引っ張って行かれるのを見かけ、助けたのが始まりだった。
校章を見られ、学校を突き止められた。何度かやり過ごしたり、裏をかいたりして避けているうちは良かったが、連中は恥をかかされた逆襲から目的を俺自身を襲うことに変えて、狩りのようにそれを愉しみ始めた。
そしてとうとう昨日待ち伏せされ、罠に嵌まり人気のない場所へ追い込まれた。――それでもまだ、逃げられなくはなかった。しかし壁一つ隔てた道の向こうから少女たちの話し声が、明るく笑いながら歩く声が聞こえて、それが幼なじみの少女を思い起こさせた時に――俺は諦めたんだ。この執拗な連中の気が済むようにしようって。こんな馬鹿らしい追いかけっこ続けるほど俺も暇じゃないんだから。そう自分に言い聞かせて。

連中は捕らえた俺をいたぶって愉しんだ。こうしたリンチに馴れていた。傷が目立つ顔はたいして殴られなかったが、ボディーブローの急所は心得ていた。致命傷は避けたが、それでも最後は身動き出来なくなった。身動き出来なくなった俺を数人で抑えつけ、羽根を毟るように肌を暴き、制裁のレイプが始まった。わかっていた事だった。

硬く瞼を閉ざして黙り込んだ俺の頬を、工藤の掌が包んだ。
俺も工藤に抱いて欲しいと思っている。そうして一刻も早く昨日の記憶を遠くへ追いやってしまいたい。だが、昨日の今日で不安も感じてる。
叫び出してしまわないだろうか。工藤の姿に連中の記憶を重ねてしまわないだろうか。それが、恐い。
まだ半日しか経ってないのだ。あまりに記憶が鮮明で、生々しすぎる。


「わかった。今は止めとく。惜しいけど」
「え…」
「めちゃくちゃ抱きたいけど、そんな顔してる黒羽を抱けない。抱きたくて堪らねぇけど、抱けない。すっげぇ抱きたいけど」
しつこい。我ながら。
「工藤…でも、俺、……あの…」
言いよどむ黒羽の切なく震える長い睫毛にヤラれる。悩殺モノだ。こんな状況でも、俺は黒羽にめろめろだった。黒羽には言わず、夜中のうちに実は行動を開始していた。黒羽を傷つける奴らは俺が絶対に許さない。俺の黒羽を、よくも――

「いんだよ。約束してくれれば」
「約束って…?」
「きまってんじゃんか。元気になったら抱かせてくれ」
「………」
返事がないので俺も言葉に詰まる。
黒羽の肩が小さく震えた。傷つけるような不用意な発言をしてしまったか。どきりとしたが、黒羽は笑っていた。
「あはは。名探偵、さすがだな」
「は? え? 何が?」
俺としては最高に真摯に、最高に紳士的に、最高に理性的に想い人のことを尊重したつもりだった。
「ううん。いや、ありがとう。工藤の気持ち嬉しいと思って。ホントにありがとう」
微笑む目許に涙が溜まっていて、これまた心臓を鷲掴みにされる。

「…バカやろー!」
なんて言えばよいのか。とにかく俺は黒羽を目一杯抱き締めた。
痛てぇ、と黒羽が呻くので慌てて力を加減する。

「…工藤んとこ来てよかった」
黒羽は静かにそう言った。
「あんな格好で…他に行くとこなかった」
「黒羽…」
「俺を捕まえてくれてありがとう。やっぱ名探偵だな。意地張って殴ったりしてゴメン」

そうして――黒羽は俺の首に腕を回し――柔らかく、囀(さえず)るような
甘い甘い、とろけるようなキスをした。




つづく

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