憶測(白馬くん視点)
※100万ドルの五稜星余波  手直し中
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それは唐突な思い付きだった。
いや、飛躍した発想だった。
					
					 
												
						
そんな訳が、あるはず無いと。
しかし、幾度否定しても僕の中からその “憶測” が消えることはなかった。
確かめたい。
絶対違うと。
怪盗キッドと、工藤新一に、具体的な共通点がある───などという事が。
その日、僕は警視庁に立ち寄った。
某事件解決に貢献した工藤が、学校帰りに聴取協力のために訪れると知っていたからだ。
僕は偶然を装い、廊下で出会った工藤に声をかけた。工藤は僕を見て少し驚いたようだったが、僕の父親が警視総監であることを思い出したのか、僕がいることを特に訝しむ様子もなく立ち話に応じた。
そこで工藤は道警の川添刑事を知っているかと僕に聞いてきた。
⋯北海道警の?
先日函館を賑わした一連の事件の担当刑事の一人か。
⋯さあ。道警に知人はいますが、僕は北海道へは行っていませんし、その名前は初耳です。
嘘だった。事件には関わらなかったが、事件解決の当日、負傷した中森刑事が入院している病院に僕は行ったのだ。
そして短い時間だったが、病院の外で黒羽に逢った⋯。
そして川添刑事が、当該事件の際に実は別人が変装していたという驚きの事実も、その知人から情報を得て知っていた。が、それは道警の秘密事項だから知っていても知らないと工藤に答えた。
話をしながら、僕は工藤の髪か、爪か、何でも───彼の身体に関わる物的なものを欲していた。
どうやったら手に入る?
立ち話だけでは手に入らない。
どうする。
どうしたら───。
そこへ『工藤くん』と言いながら駆け寄ってくる刑事がいた。
工藤や毛利探偵とよく関わっている高木という刑事だ。
『工藤くん、これ、飲みかけの持っていったら?』
『あー、いいです。残してすみませんが、捨てておいてください』
『わかったよ』
工藤は高木刑事との簡単なやりとりを終えると引き揚げ時とばかりに僕にも『じゃあ』と軽く手を挙げ背を向け去っていった。
そして僕の手には、高木刑事から受け取った工藤の飲みかけのペットボトルが残った。
捨てておきますよ、と僕が高木刑事に声をかけると、『えっ』と一瞬躊躇したあと、高木刑事は『申し訳ない、お願いしていいかな。召集がかかっていて』と申し訳なさそうに僕にペットボトルを渡したのだ。
僕は何に対してこんなに緊張しているのかと思うほどその時ドキドキと心臓が跳ねていた。
まさかこんなにうまく工藤の『DNA』が手に入るとは思っていなかったのだ。ぶつかるふりをして手をひっかくとか、頭に触って髪を抜くとか、かなり無謀なシチュエーションしか考えていなかったのに⋯。
──これで、確かめられる。
白馬研究所には以前手に入れた怪盗キッドの身体資料が保管されている。
警察とは無関係な私立研究所なので、証拠として採用されることは(僕が証拠として警察に申請しない限り)まずない。
そして、このペットボトルから工藤のDNA型を調べ、そこでどんな結果が出ようとも、採取の方法が非合法であれば、それはやはり何の証拠にもならない。
わかっているが、それでも僕は確かめたかった。
確かめずにはいられなかった。
怪盗キッドと工藤新一の “関連性” 。
怪盗キッドは何度か工藤新一に変装している。
その際、間近で接した毛利蘭さんの証言では、『怪盗キッドの素顔は新一にそっくり』だというものだった。
変装はキッドの十八番(おはこ)だが、頬を抓っても、鈴木財閥の誇る高額な人体スキャナーを使用しても、工藤新一に変装したキッドを炙り出すことは出来なかった。
それはなぜなのか。
本当に、似ているから⋯?
しかし僕自身は工藤と話していて工藤がそこまで黒羽に似ていると感じたことはなかった。
タイプが違いすぎる。
これも思い込みなのだろうか。
だがこれではっきりする。
他人の空似なのか。
まさかと思うが、もし彼らに “血縁関係” があったりしたら⋯。
いや、まさか、だ。
そんな偶然、あるものか。
探偵と怪盗として出逢った彼らが、互いにシンパシーを覚えていたとしても。
他者が立ち入れない不思議な絆のようなものが彼らの間にあったとしても。
いくら何でも、あり得ない憶測だ。
その憶測から僕は早く抜け出したい。
だから、これから確かめる。
密かに。
誰にも知られず。
どんな結果が出ても。
誰にも決して明かさない。
20251104
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※『100万ドルの五稜星』ラストの衝撃事実にいまだに動揺続いている私です。
●拍手御礼
「俺たちの夏」「黒の鎖」「月光にさらされて」
拍手ありがとうございました!
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