目撃
※『純黒』&『執行人』余波。
風見さん独白。地味です(-.-;)
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───僕には、僕より怖い男が二人いるんだ。一人はまだ高校生だけどね。
降谷さんはそう呟くと、落とした睫を微かに震わせた。
久しぶりに21時台に職場を後にした。
まだバスも電車もある。
飲んでいこうと同僚に声をかけられたが、軽く手を振って辞した。
駅までの道を街灯が映す自分の影を見ながら歩く。
短い影が歩を進めるごとに伸び、別の灯と交錯した影が交じり、また縮んでゆく。
気が付けば駅を通り過ぎ、首都高と堀に挟まれた街に置き去りにされたような暗い歩道を歩いていた。
自分は──何を考えているのだろう。
甦るのは普段厳しい降谷さんが垣間見せた、どこか哀しげな、淋しげな横顔。
降谷さんが怖いと言う二人の男。
ひとりは、おそらくあの高校生探偵だろう。我々公安に対しても全く臆すところない堂々とした推理力、行動力、毅然とした潔い瞳。
では、もうひとりは…?
歩きながら苦笑する。
そんなもの、自分に解るはずがない。
降谷さんは素性を隠し、世界的に暗躍する危険な組織への潜入捜査を続けている。そのうえ公安の激務もこなしているのだ。
自分の働きなど遠く及ばない。
降谷さんにはとてもかなわない…。
「?」
前方50メートルほど先にスポーツタイプの車が停まっていた。赤い車。エンジンがかかっている。
この一帯は停・駐禁だ。通りすがりにドライバーに注意しようと思いながら、その脇に立つ人影に気付いてハッとした。
降谷さん…!
往来するタクシーのライトに明るい髪色が照らされ、その様子から降谷さんが赤い車のドライバーに向かって何か話しているのが判った。
思わず街路樹の陰に隠れ、様子を窺う。
───赤いマスタング。
この前の事件で、降谷さんの白のRX7と張り合うように犯人を追い、首都高を疾走する赤い車の映像を思い出す。
偶然居合わせた走り屋にすぎない。その車について記録に残す必要はない。捜査の優先順位を間違えるな。
降谷さんはそう言い、赤い車についての確認作業は結局行われないままだった。
あの時の赤い車。間違い無い。
何故か息を潜め、赤い車と対峙する降谷さんの横顔を離れた場所から自分は懸命に見つめていた。
降谷さんが怒っている…?
何か怒鳴っている。
だが風に揺れる木々の葉のざわめきでかき消され、降谷さんが何を言っているのかは聞き取れない。
降谷さんが一歩下がった。
赤い車の扉が開く。
中から背の高い男が姿を現した。
黒っぽい服装でよく見えない。
男が手を伸ばし、降谷さんの腕を掴んだ。
そこから見ていない。
数人の通行人が背後から近付いてくる足音がして、降谷さんから目を切らしたのだ。
逆方向に歩くふりをして通行人をやり過ごし、振り向いた。
バン、と音がしたのは車のドアが閉まる音だった。
歩道にはすでに降谷さんの姿はなく、赤い車がエンジン音を轟かせ走り出ていくところだった。
降谷さんは赤い車に同乗したのか。
赤い車の男はいったい何者なのか。
いや───迂闊な推察はやめた方がいい。そう自分に言い聞かせた。
単独で難しい捜査をしている降谷さんの行動を詮索しても、始まらないのだ。
それでも…。
もしかしたら、と思った。
降谷さんが『僕より怖ろしい男』と言ったあと一人は、あの男ではないだろうか…。
時に非情とも思える降谷さんのような切れ者を、まるで振り回しているかのように見えたあの男が──そうなのかもしれないと思った。
男を睨む降谷さんの遠い横顔。
頭の中の残像は風に背を押されて霧散した。
歩道に映る自分の影を見つめ、再びゆっくりと歩き始めた。
20180503
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※あれ…もうちょい展開させるつもりで書き出したんですが、風見さんの独白だけで終わってしまいました…しゅみましぇん(-.-;)
●拍手御礼
「拉致」「ノープラン~ヨコハマ・デート」「加虐実験 」「睡魔」「アブノーマル」「怪盗の香り」「囚人」「恋人以上・謎未満」「掠れた記憶」「迷いのアプローチ」「秘密は秘密」「5000メートル」「当てずっぽうのバースデー」「怪盗の香り」「誤認恋愛」「浮気」、カテゴリ☆噂の二人 ☆硝子の欠片 ★トラベル の各話へ 拍手ありがとうございました~(^_^)ノ
拍車コメント御礼●(もうひとりの)ぽこ様へ
コメントいただきありがとうございます。お名前被りとのこと、そういうこともありますよね。このところよくコメント下さってたぽこ様はどちらかというと新快派?で、こちらのぽこ様は白快推しとのこと(^_^)ゞ 私も当初は新快オンリーに近かったんですが白快沼もかなり深く…どっち書こうか悩んだりします(笑)。それもこれも快斗くん&キッド様が素敵過ぎるからです!可愛いって罪!
来年映画楽しみです!
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