バースデー・トラップ(新一×快斗)
※単独パラレル・新一 バースデーネタです(*_*;
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「真実はいつも一つ!! 」
「ギャッハッハッハ!! 黒羽、似とる! そのムカつく感じ、ホンマ工藤そっくりやで!」
「そうですねえ。しかし、指の角度はもう少し上じゃないでしょうか」
「おまえらナァ。人の決め台詞で遊んでんじゃねえ!」
快斗がオレの物真似して、服部が大受けしてる。白馬は紅茶を啜りながらにこやかにダメ出しなんかしやがって。
「へへへ、これ以上やると工藤がキレそうだからおしま~い」
玄関で物音がした。とたんに機関銃のような(互いに被せ合う)女子トークが聞こえてくる。
「青子と紅子と蘭ちゃんと和葉ちゃん、戻ってきたぜ。お~い、ホールのケーキ買えたのかぁー?」
快斗がスリッパをパタパタさせて出迎えに行く。
「それにしてもGW真っ只中の誕生日とは、今さらながら面倒なやっちゃで」
「知るか。オレが5月4日を選んだわけじゃねーし」
「致し方ありませんね。毎年というわけにはいきませんが、幸い今年は皆のタイミングが合ったわけですから」
「合わせてやったんだよ! 去年はチビ探偵の姿だったから誰にも祝ってもらえなかったーーってグチってたもんな、工藤」
四角いケーキの箱を掲げて戻ってきた快斗がイヒヒと笑う。
「べ、別に…、パーティーやって欲しいとか言ってねえし…。ら、蘭たちは?」
「そのままキッチンに行ったよ。まだケーキの箱開けちゃダメだってさ」
オレがもごもごしてる間に、服部、白馬、快斗の手でリビングがパーティー仕様に変えられてゆく。
なんというか、コソバユくてどんな顔してればいいのか分からない。
もちろん自分の誕生日を祝うために集まってくれてるのだから有り難いと思っている。思っているのだが、とにかく照れくさくて困っているのだ。
「へー…、ほんとだ」
「え?」
快斗がオレの横顔を見て感心したように頷く。
「〝新一って本当に嬉しいと襟足の毛がいつもよりたくさん跳ねるのよ〟って、蘭ちゃんが言ってた」
「ええ?!」
慌てて襟を抑え、ガラス窓に映る自分の後ろ髪をチェックした。
「ひゃっははっ、んなわけないだろ! マジでそーとー舞い上がってんな工藤」
「か…、快斗っ、テメーッ!!」
ああもうコラコラ、危ないから絡まないの! テーブルひっくり返したらただじゃ済まさないわよ! と、お菓子やサラダのトレーを持って部屋に入ってきた青子ちゃんと蘭から同時に注意される。
服部は和葉ちゃんに指示されてキッチンに取り皿を取りに行った。白馬の奴はちゃっかりロング丈のワンピースを着た紅子さんの姿を目で追っている。
「よろしくて? では始めますわよ」
皆さんソファに座って目を閉じて下さいな。
中央に立つ紅子さんが何かを唱え始める。江古田高生以外のオレたちは、何が始まるのか分からないまま言われたとおり目を閉じた。
───オギャア!
───有希ちゃん、偉いぞ、よくがんばったな!元気な男の子だ!
───優ちゃん~疲れたぁ~、ウフフ、もっと褒めて~♪
…これは…?
快斗の声帯模写か?
どきんと胸が鳴るのを覚えて焦る。
まるで自分の生誕に立ち会っているかのような錯覚。
───あぅァー、マゥマァー。
───まあ新ちゃん!見て見て優ちゃん、新ちゃん歩いてるわ!!
───おっとと、新一、大丈夫か? すごいぞ、新一。転んでも泣かないで我慢できるなんて、強くなったなぁ。
…あれは、いつ?
憶えてないはずの記憶が、まるで甦ったかのようだ。周りにはみんながいるはずなのに、なんだか心許ない。
『目を開けてはダメ! 戻ってこられなくなりますわよ』
紅子さんが誰かを(オレを?)注意する。快斗、白馬、これはいったい何なんだ? 紅子さんは──。
───よぉ、ボウズ。
ハッとする。
今のは…あいつの声だ。
───怪盗はあざやかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが、探偵はその跡をみて難癖つけるただの批評家に過ぎねーんだぜ。
「……!!」
舞い降りた怪盗。
小さな体で、手を伸ばしても届かなかった歯がゆさ。
「待てっ、怪盗キッド!!!」
ガターン!!
「…はっ」
目の前に快斗。
てか、オレの下に快斗がいる。なんで?
「工藤くん…、黒羽くんが驚いているじゃないか。早く起き上がりたまえ」
白馬の声が低い。腕を組んだ紅子さんは呆れ顔でオレを見下ろしている。クスクス笑ってんのは蘭たちだ。
「え…、えっ?」
どうなってんだ? あれ(☆☆)?!
「おおーい東の高校生探偵くん、こちらのお姉さまナァ、催眠術が使えるんやって。それにしてもようかかりまんな」
服部の言葉を反芻する。
催眠術…? あれが?
「それじゃあ…聞こえていたのは…」
オレだけだったのか? お袋や、親父の声も?
どうせ寝不足で目をつぶってたからウトウトしちゃったんじゃない? 紅子さんは〝ハッピーバースデー トゥー ユー〟って繰り返してただけよ。
蘭に言われてボンヤリ思い返す。
いや、そうじゃない…耳に届いていたのは…。
はーい、それじゃみんなで歌おうよ! せーの、と青子ちゃんが音頭をとる。
みんなにハッピーバースデーの歌を歌ってもらい、ケーキに立てられた18の数字を象った蝋燭の火を吹き消して、オレはみんなから誕生日の祝福を浴びた。
・・ー・・・・・ー・・・・・ー・・
「紅子、おまえ工藤に何したんだよ」
先に失礼するという紅子を送るために白馬が車を呼びに行った隙に、俺はやっと紅子と二人になって話しかけた。
「特に何も。深層に刻まれた記憶を蘇らせただけよ。彼の記憶の中の何が蘇ったかは解らないわ」
「…ったく。でも、まぁ、今日はわざわざ来てくれてサンキューな」
「ふふ」
紅子は妖しい笑みを残し、玄関前で白馬家の車に乗り込んだ。白馬が俺を振り返り、軽く片手を上げる。
俺は白馬と紅子が乗る車を見送った。
・・ー・・・・・ー・・・・・ー・・
「まだ腑に落ちない顔してんな」
「快斗」
仲良くなった青子ちゃん、和葉ちゃん、蘭に引っ張られるようにして服部もさっき帰った。
リビングのテーブルとソファを元の位置に戻して、二人で座り込む。
「紅子、〝魔女〟だからさ。現実主義の探偵には理解できない現象が起きたかもしんねーけど、一応お祝いだったらしいから…そんなにヒドいもんじゃなかっただろ?」
魔女。
催眠術を使うという意味の〝あだ名〟なのか。白馬も青子ちゃんも紅子さんのそうした不可解さには慣れているようだった。服部と和葉ちゃんはオレにも(私にも)何かかけてみて!と紅子さんにねだっていたが『主賓のためのプレゼントだから』と言われて諦めていた。
「ああ…ひどくはなかった。ただ、不思議だったんだ…」
オレが生まれたときの、そしてオレが初めて歩いた時の、父さんと母さんの会話。記憶に残っているとはとても考えられないのに、やけにリアルで。
それに。
「普通あの流れだと、次は入学式とか出てきそうなもんなのにな」
だが、次に甦ったのがキッドとの邂逅の記憶だったとは。
「とにかく不思議で楽しいバースデーだったよ。セッティングありがとな、快斗」
「へへ。まぁ、そう言ってくれて一安心だぜ。ヘンにこのあと難癖つけられちゃたまんねーからな」
難癖、か。
怪盗として出逢った宿敵が、今こうして一番身近な相方として側にいる。
誕生の奇跡と、出逢いの不思議。
そんなことを考えながら、オレは快斗を抱き締めた。
ふふ、と笑う紅子さんの声が聞こえた気がした。
20160504
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※最初カテゴリ★デジャヴ、次に★3/4組にしようかと思っていたんですが、進めるうちに内容が変わっていってしまい、意味不明結末になってしまいましたー(汗)。そしてこのブログは新快メインのため女子キャラの皆さんには申し訳ありません~(; ;)。
●拍手御礼
「噂の二人」「春花」「ドリームキャッチャー」「帰還」へ、拍手ありがとうございました(^^)/
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