予見(新快前提 白馬→快斗)
カテゴリ★業火の向日葵パラレル
※映画『業火の向日葵』前段階のプチパラレル。ネタバレ気味なのでご注意を(*_*;
※白馬くん視点。
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夏休み直前、黒羽の様子が目に見えて変わった。
明らかに寝不足が原因と思われる腫れぼったい目。もとより華奢なうえ、さらに痩せて細くなった頸。
しかし、ふとした折りに窓辺に佇む横顔は普段とは別人のように冴え、遥か遠くを望む眼差しは鋭く輝いている。
間違いない。
彼は何かに思惑を巡らせ、集中している。そう、今の黒羽は姿は高校生でも、心は〝獲物を追う怪盗〟になっているのだ。
「やあ、黒羽くん。随分と勉強熱心だね」
夏休み初日。世界中の美術資料を網羅した都心の某図書館の閲覧用個人スペースに、黒羽はいた。
僕が声をかけると、黒羽はハッとしたようにパソコンの画面を切り替えた。
「白馬…! テメー、なんでここに」
舌打ちして僕を一瞥し、黒羽は手元の分厚い資料類をバタバタと閉じた。
「それはこっちのセリフです。僕はここの会員ですから。君こそ珍しい。Webでは調べがつかない資料が必要でしたか」
僕がチラリとデスクに積まれた書籍に目を向けると、黒羽はどん、とカバンを置いて僕の視線を遮った。
「あっちに行け。馴れ馴れしく話しかけんじゃねーよ」
ここまであからさまに敵意を向けられるのは初めてだった。少なくともクラスメートとして同じ教室で過ごしている時、これほど鋭い目で黒羽が僕を牽制してくることは無かった。
「そう怖い顔をしなくてもよいでしょう。失礼しました」
僕はいったん退くことにして黒羽のそばを離れた。
特殊な専門書を多く扱っているこの図書館内は、咳払いひとつにも気を使うほど静寂が支配している。僕らは係員から注意を受ける一歩手前だったのだ。
ゴーギャン、ゴッホ、ゴヤ。〝G〟のイニシャルが名につく画家は案外多い。
さっき黒羽がデスクに積んでいた百科事典の項目に、僕は腑に落ちぬ思いを抱きながら黒羽が表に出てくるのを待ち伏せしていた。
〝怪盗キッド〟は主にビッグジュエルばかりを狙ってきた筈だ…。しかしさっきの専門書は絵画や洋画家、それに関わる歴史等を扱ったものばかりだったようだ。
彼がここしばらく心を奪われている〝獲物〟とは、もしや絵画なのだろうか?
いや、しかし…何故。
「───あっ!!」
いきなり後ろから体当たりをされ、僕はつんのめって前に転び、派手に膝を着いた。
「…く、黒羽くん!」
「ヘヘッ、ザマーミロ。あばよ~(>, <)//」
アッカンベーをして黒羽がタタタと駆け去ってゆく。
やられた。僕は迂闊にもまさか黒羽の方から突っかかってくるとは予想していなかった。
「黒羽くん、待ちたまえ! 君に訊ねたい事がある」
陸上の選手さながら、僕もすぐさま立ち上がり追い掛けたが、残念ながら脚の速い黒羽に追い付けるわけもない。
ここで黒羽と出会ったのは僕なりの推理(勘に近かったが)の結果だった。しかしそれがビンゴだったにも関わらず、僕はあっさりと彼に置き去りをくらってしまった。
暫く追いすがって走ってみたが、黒羽の姿は完全に街に消えてしまっていた。
はぁはぁと息を切らし、脚に手を置くと、さっき転ばされたせいで膝や手のひらがヒリリと痛んだ。
おそらく───少なくとも僕は黒羽をヒヤリとさせる事には成功したのだろう。だからこそ黒羽は僕の裏をかいて密かに立ち去るのではなく、後ろから体当たりをするなどという乱暴な真似をした。
これは〝嗅ぎ回るのは許さない〟という、怪盗からの警告に違いなかった。
この夏、怪盗キッドは何を仕出かすつもりなのだろう。
黒羽と秘かに想いを通わせているあの工藤新一は、黒羽の動きを知っているのだろうか。
工藤と黒羽の顔を思い浮かべ、僕は首を振った。微かな胸の痛みと同時に覚える不可思議な優越感。
工藤は知るまい。黒羽がこうして何事かを調べ、企てているだろうことを。
怪盗がこの夏に巻き起こす事件がどんな成り行きを見せるのか。それを予見しているのは僕だけなのだということに僅かに溜飲を下げ、今回は第三者として君を見逃すことにしよう。
教室の窓辺で見た君の横顔を…遥かに向けられた君の眼差しが美しく澄んでいたことを、僕は知っているのだから。
20150426
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※お粗末様です。あまり新快前提ぽい描写ができませんでした(汗)。白馬くんもちょっと絡ませたかったな~という願望の妄想でしたー(*_*;
●拍手御礼
「身代わり」「そう遠くない未来~君のバースデー」「想定外」「こういうこと」「未明の道」「成功報酬」へ、拍手ありがとうございました(^^)/
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