パッシングショット
カテゴリ★インターセプト3
※白馬くん・新一視点。
(末尾に拍手コメント御礼あり♪)
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僕に出来ることはないのか。
ただ手を拱(こまね)いて、〝彼〟が戻ることを念じる以外に────。
もっと工藤と密に連携を取り、協力し合わなければならないことは分かっている。工藤だって承知している筈だ。
しかし、僕らの間には依然として互いを隔てる深い溝が横たわっている。
飛び越えるには段差がありすぎ、声を掛けても届いているのか判らない。
工藤に、近付けない。
もどかしい。こうしている間にも黒羽の身に何が起きているか知れないというのに。
黒羽くん───君に言伝を託された時の風の音を、僕は昨日のことのように憶えている。間近に向かい合った君の眼差しを。微かに震えていた君の息遣いを…。
思い出すたび僕は自責の念に駆られ身動きがとれなくなる。なぜなら、あの段階で君を止める事が出来たのは僕だけだったのだから。
あの時、言葉にするだけでなく、本当に君を攫(さら)ってしまえば良かった。握った手を放すのではなかった。
たとえ恨まれても。
たとえ君の心が永遠に手に入らないと、解っていても。
・・ー・・・・・ー・・・・・ー・・
昨夜のベルツリータワーでの出来事を消化できないまま、オレは学校を欠席した。
朝から警察に出向いて聴取を受け、中森警部と会い、さらにそこへFBIが現れて一連の経緯の説明と情報の提供を求められた。
FBIがついに動き出したのだ。これまで泳がせていた黒の組織のメンバーを発見次第逮捕する方針を固めたらしい。
オレも意を決した。黒の組織と戦うには警察とFBIの力は絶対に必要なのだ。
自分も捜査に加えて欲しいとオレはその場で願い出た。当然はじめは却下されたが、これまで培った警視庁との繋がりと、自分が当事者である事実を訴えて粘りに粘った。最後は見かねたジョディと中森警部が口添えしてくれ、なんとか捜査の末端に加えてもらう事を許された。
陽が傾き始めた午後になってようやく警視庁を後にしたオレは、その足で今度は鈴木財閥相談役のもとを訪ねた。〝パンドラの秘宝作戦〟の協力に対する礼と、ベルツリータワーの展望台を破壊されてしまった事について謝罪しに行ったのだ。
しかし、償いを申し出ると相談役は豪快に笑って手を振った。
『何を言うか、若造が。わしがそんなセコい爺ぃに見えるか』
『おまえさんにはこれまでどれだけ助けられたと思っておる。今後も協力は惜しまん。遠慮は無用じゃ、おぬしの望む結果を必ずや持ってくるがよい』
事情を詮索することもなく、相談役はニッと片髭を持ち上げ最後にこう付け加えた。
『礼なら…そうじゃ、あの小賢しい怪盗をひっ捕らえた暁には、きゃつの素顔を真っ先に拝ませてもらおうかの。わしの冥土の土産にな。ワッハッハ!!』
・・・・・・・・・・・・
「〝Pandora〟に関して一つ気になる記事を見つけたわ、工藤くん」
日が暮れてから白馬研究所にたどり着くと、灰原は前置きもなくオレに切り出した。
「ネットか」
「ええ。月、パンドラ、怪盗キッド、その他ビッグジュエルの名前をいろいろ組み合わせてこれまでも検索を繰り返してたんだけど、今日はじめてこれが引っかかったの」
「今さらって感じだが…」
「そうなんだけど、なんとなく予感がしたのよ。海上で墜落したヘリ、どこの所属か判った?」
「いや。機体番号は虚偽で、乗員は少なくとも二名いたはずだが行方不明だ。昼の情報だけど」
灰原の小さな背中越しにPCのモニタを覗き込む。
〝命の石、パンドラ〟
〝太陽系にボレー彗星近付く時、満月にパンドラを捧げよ。さすればパンドラ命の滴を流さん〟
〝パンドラの滴を飲み干したもの、解き放たれし永久の時を手に入れん〟
「永久の時…」
「つまり不老不死ってことじゃないかしら」
「まさか」
「でも、これって APTX4869 と符合してると思わない? それにボレー彗星ってもうすぐ地球に最接近するのよ」
「………」
「この記事をアップしたのが誰なのか気になるわ。例の〝pandra〟の羅列とは別人よ。ネットやPCにさほど詳しい者の仕業じゃない。元記事は簡単に削除できたし。これはキャッシュからPDFに保存し直したものなの」
「削除した?」
「真偽はともかく、なんだかあまり曝しといちゃいけない気がして」
「なぜそう思う」
「キッドには元々〝敵〟がいたわけでしょ? その組織がパンドラを巡って黒の組織と何らかの繋がりを持ったと考えれば──どちらかの組織内に反故が芽生えて、その中の誰かがリークしたんじゃないかって」
「………」
キッド。パンドラ。黒の組織。
灰原の話を懸命に考え、判断しようとするのだが、頭が全く働かなくなっていた。
「工藤くん?」
目の前が暗い。ぐるぐると視界が回っている。灰原の声が遠く聞こえた。
「寝てないのね。少し横になれば? もうすぐ白馬くんが───」
……白馬が…なんだって…?
訊き返そうと思ったが、ソファに座って寄りかかると、オレの意識は瞬く間に闇に吸い込まれていった。
快斗……。
闇に浮かぶシルエットが、オレに背を向けて去ってゆく。
なぜだ?
行くな、快斗────!!
………
話し声に気が付き、ゆっくりと覚醒する。
水面に浮かび上がるように。
誰かが…しゃべっている。
誰だ?
───大丈夫や、品行方正やさけ。ちーと休んだかてモンダイあらへん。
この声…。
服部。
あれ…? いま、いつだ?
「…………」
目を開けた。
アイボリーの壁、上部に連なる小窓。
白馬研究所の中だ。
オレは寝込んでいたソファーから体を起こした。
掛けられていたブランケットをめくって床に足を着く。まだクラクラしたが、大分ましになっていた。
───そうだ、パンドラの話の途中だった…!
「灰原!!」
大声で呼ぶと、隣の部屋に繋がるドアが向こうから勢い良く開いた。
「灰原、さっきの話、もう一度…」
「やっとお目覚めかいなー、東の高校生探偵・工藤クン!」
えっ。
「えらいお疲れのようやから、今夜はもうお家に帰った方がええんちゃう?」
「は・・・服部…!!」
灼けた肌に白い歯。夢じゃなかった。聞こえていたのは本当に服部の声だったのだ。
「な、なんでおまえがここに?」
「僕が呼んだんです。現状打開のために力を借してほしいと」
服部に続いて、白馬も姿を現した。
「〝パンドラの秘宝〟に仕掛けた発信器、失敗かと思ってましたが先刻から微かな信号を発してます」
「えっ!」
あの発信器が……。
それじゃ、奴らの潜伏先が掴める?!
「発信元はどこだ!?」
「まだ判りません。あまりに微弱で、確認には時間を要します」
「まずはちゃんと休めや工藤。ホンマひっでぇツラやで」
「うるせえ、服部こそ帰れ。これ以上他人を巻き込むわけには」
「ハァ? 誰が他人やて? そら確かに血ィはつながっとらんけどな……、俺ら親友やないんかい、工藤!!」
「服部…」
白馬。服部。オレ。
三人で、向き合った。
灰原は隣の部屋から黙ってオレたちを見つめている。
インターホンが鳴った。
《探さん、お客様です》
「応接に通してくれ。いま行く」
オレは驚いた。
「客ってなんだ、白馬。正気か!? このうえ誰を」
「落ち着きたまえ工藤くん。僕らの目的はただ一つ。そのために打てる手は全部打ちます。それに来訪者は歴とした関係者だ。怪盗キッドの件で僕らに話を聞いてほしいと、自ら連絡をくれたんです」
「関係者? キッドの…!?」
「黒羽っちゃう女性や。エエからおまえは寝とれ。ホンマ聞いてた以上にぐずぐずやん」
呆然としているオレを残し、白馬と服部は部屋を出て行った。
灰原が、黙ってオレにマグカップの珈琲を差し出してくれた。
20140816
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※パッシングショット=流れを変える、という意味合いのつもりです(‥;)。今回は補足と説明の詰め詰め回でした。一息入れて次は快斗くんサイドの話を予定してます。
●拍手御礼
「キッチン」「ハッピー・スウィート・ニュー・イヤー」「ヒント」「想定外」「雲の切れ間に」さらに 京極さん祭り各話、『ひとりごと』へも拍手連打いただきましてありがとうございました♪
おおーキッチン?! もしかしてミスクリック? …いーんです。読んでいただけただけで十分ウレシイんです~(^_^)ゞ
★1412様、応援コメント感謝です!
これまでupした全て、ひとりごと含め読破してくださったそうで…(☆☆)、本当にありがとうございます。貴重な新快・快斗受仲間に煩悩を共有していただくことができて感激です(TvT)!!!
スネオヘアーの『共犯者』いいですよね♪ 私もカラオケに行くと、映画難破船の『Over Drive』共々しょっちゅう歌ってます。最近のコナン君ED「君の笑顔がなによりも好きだった」「REIN MAN」もマイブーム中です~!
そして10月からコナンくん直前枠にて『まじ快』の新たなアニメ放映ということで、完全キッド様仕様の新OPとか新EDとか作ってくれるわけですよね?! それだけでテンションMAXです~。
これからも宜しければ引き続きお訪ね下さいませ。またお気軽にメッセージいただけましたら本当に幸いです!(^^)!
★葉さま、つい先ほどメール受け取りました! 長文メッセージ嬉しいです。ありがとうございます~。「想定外」、せっかく思い立ったんですから本当はもうちょい白馬くんのピンチシーンを書きたかった…というのが実は本音でした(^o^; しかしそこまで白馬くんに無体を働く勇気がなく…宿題として取っておきました! いつ書けるか分かりませんが(汗汗)。
ところで秋からの新アニメまじ快、コナンくんと製作会社が違うんですか? キッド様が素敵なら文句言いません、絶対素敵にして下さい~///
[13回]