暴発《1》
カテゴリ★インターセプト4
※ウォッカ視点
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競りのテンポが落ちた。そろそろ決着がつくかと思ったその時、異変は起きた。
一人の客が手にした杖を強く床に打ち着け、声を上げたのだ。
「その〝二つ目のパンドラ〟、わしが買うた!」
客たちが声の主を探し、いっせいに振り返る。
その視線の先──最後列に陣取っていたのは、頭巾で顔を覆った和装の老人と秘書らしいスーツ姿の仮面の男。
オークションが始まった時にはいなかった客だ。
大半が匿名での参加だけに、当然入場には入念なチェックがある。もっとも匿名とはいえ招待状を送っているのだから、内々には素性は割れている。だが、あの客には覚えがなかった。
「お客様、レートを」
「ふん。50でどうじゃ」
「──50億。よろしいですか」
会場全体が息を呑む。本気か。
「他にお声はございませんか?!」
オークショニアが問う。
会場は水を打ったように静まり返った。
「ございませんね。それでは〝二つ目のパンドラ〟は50億レートにて…」
───ふざけるな!
オークショニアがハンマーを打とうとした瞬間、突然一人の男が立ち上がった。
───〝パンドラ〟は俺がさっき競り取ったんだ。〝パンドラ〟は全部俺のものだ!
「ご静粛に。規約を守られないお客様はすべての資格を失います。先ほどの御成約も含めて。よろしいですか」
───なんだと?!
───もういい、俺の〝パンドラ〟をよこせっ、今すぐ!!
激高して壇上に向かおうとした男が、不意にかくんと崩折れた。そのまま床に倒れ込む。すかさず会場の隅から数人の黒服が現れ、動かなくなった男を担ぎ出してゆく。
イヤホンの向こうから『ククク』というキャンティの忍び笑いが聞こえてきた。
『やれやれ…詰まんないねぇ。こんなのがアタイたちスナイパーのシゴトだなんてさ』
「遅いぞ、キャンティ。客に勝手に喋らせるな」
バルコニーから下を眺めつつアニキが応える。
『あの世逝きの前に言いたい事くらい言わせてやろうってお情けさ』
「面白がりやがって。マァ確かにそろそろこの茶番にも飽きたがな」
その間アニキは頭巾の客をじっと見詰めていた。いや、その脇の仮面の秘書をか。
もしかしたら…あれがS財閥相談役と、付き従っている仮面の男が───。
『ベルモット、どこにいる』
今度はコルンの声だった。
誰も応えない。
〝K〟が発するGPSの表示は会場隅で点滅している。だがその周辺にプラチナブロンドは見当たらなかった。
「客の手にいったん渡った〝パンドラ〟を〝K〟に盗ませるってベルモットの話は信用できねえ。いつでも〝K〟を撃てるようにしておけ。ベルモットもな」
『ベルモットが死んじまったら、そりぁ不幸な事故ってことだね』
低く嬉しそうなキャンティの声が響いた。
「それでは続きまして最後の〝パンドラ〟です!」
再び会場がどよめく。しかしさっきまでと違い、客たちはすっかり退いている様子だ。
やはり〝パンドラ伝説〟は不幸を呼ぶ。そんな囁きが漏れ聞こえてくるようだ。
オークショニアは調子を変えず説明を続けていた。
「一つ目はホープダイヤモンド。二つ目はゴールデン・ジュビリー。そしてこの三つ目のレッドサファイヤも先の二点に劣らぬサイズ、ディスパーション(内反射)。この三つのうちに本物の〝パンドラ〟があるのか。確かめることが出来るのは今宵一晩のみです!」
「まどろっこしいわい」
二つ目のパンドラを落札した頭巾の老人が立ち上がる。
「三つまとめて150! 文句はあるまい」
老人の自信に漲った大声とその破格値に、他の客たちは完全に諦めた様子だ。
オークショニアがモニターを確認しながら忙しくキーを叩く。老人が本当に150億レートを仮口座に預けているのか、最終確認をしているのだろう。
「──おまたせしました。確認がとれましたので、いまのお申し出通り、三つの〝パンドラ〟は、すべて…」
オークショニアが今度こそハンマープライスを告げる。
しかし、その声は途中で途切れた。
爆音、振動。
会場が揺れ、悲鳴が飛ぶ。
入り口の両扉が開いた。
炎を背に現れた何者かが、狂ったように嗤っていた。
───おれだ! 怪盗キッド! 姿を現せ!
怪盗キッド…?
あの男は、まさか。生きていたのか。
───出てこい!貴様がここにいるのは分かってるんだ。てめえを殺るのはこの俺、スネークだ!!
20150908
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※ひー、いろいろ描写が不十分&テンポがわるくてスミマセン。つづきます~(*_*;
●拍手御礼
「条件反射」「四つ葉のクローバー」「ミラクル・キッド」「怪盗キッドと探偵諸君」「空耳」「妄想」「羨望」「蹴撃」「身代わり」ほか&カテゴリ★インターセプト へ、拍手ありがとうございました(^^)/
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