パスワード(コナン/新一×快斗)
カテゴリ★ファーストステージ
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いつの間にかウトウトしてしまっていたらしい。工藤の部屋の…コナン君と俺のベッドに突っ伏して。
起きて部屋を見渡したけど、耳を澄ませて家中の気配を感じ取ってみたけど、コナン君は戻ってなかった。
――あンの不良小学生。
もう12時を回るというのに、なにやってんだ。本人はあくまで高校二年生の工藤新一のつもりで行動しているのかもしれないが、それにしたって。
まぁ、こないだまで俺も人のこととやかく言えるよーな生活してなかったけど。
しかしお子さま状態のアイツがこんな深夜までどこでどうして何やってんのか。聞いても適当なこと言いやがって食い下がってもいつも言い負かされちまうけど……でも、どんな正当っぽいこと言ったって今夜はもう許さねえ。あのガキ説教だっ!
カッカしてきた。
だって。せっかくの週末だってのによ。
そうだよ。こっちはいろいろ都合をやりくりして少しでも側にいたくてココに来てんのに。なのになんでアイツはこうも他を疎かにして謎に夢中になっちまうのか。
目が冴えてしまった俺は体を起こした。どうするかちょっと考える。
このままおとなしく待つのか。
探しに行ってみるか――。
どこにいるかも分からないが、俺だって怪盗やめて間もないんだ。その気になりゃ名探偵の居所くらい探り出してみせる。
机の引き出しにしまってある工藤のタブレット。ちっこい鍵穴があって案の定開かないようになってるけど、こんなんワケない。
別の引き出しからクリップを見つけて伸ばして先っちょだけちょっと曲げてから差し込んで引っかけて、ハイ開いたー。
中から工藤のタブレットを取り出して立ち上げる。げ、パスワード? あんにゃろ。んんーと……。
えっ、と思わず声を出した瞬間、家の空気が振動した。車だ。帰ってきた!
慌ててタブレットをOFFにして元の引き出しに戻す。俺は部屋を走り出た。
「あれ、快斗来てたのかよ」
「来てたのかよ、じゃねえ! この不良コドモ! 何時だと思ってんだっ」
「事件が片付いてホッとして帰ってきたとこなんだぜ。もっと優しく迎えてくれよな」
むくく。微妙に恋人ゴコロをくすぐるような言い方しやがって。
コドモサイズのくせして、こんな時のコナン君はふっと目を細めて笑う感じが子供に見えない。子供じゃないけど。
「早く帰って来いってメール入れただろ、見てねえのかよ?」
「ん?……あー、ちょっと電波のワリィとこにいたからな」
「どこで何してたんだよ」
「犯人追いかけてた」
「一人で?!」
「博士とかバックアップしてくれてたし、警察もちゃんと呼んだよ」
「本当かよ…。無理すんなよな」
俺の目の前をトコトコ駆け抜けてコナン君がバスルームに向かう。
ふっと鼻を突くきな臭い匂いに気が付いた。
「わっ」
じたばた足を振り回すコナン君を抱えてリビングに連れてってソファに座らせた。
「風呂入んだからっ、放せよ、バ快斗」
俺を押し退けようとするコナン君の細い腕を掴んだ。
コナン君の目が、工藤のものになる。
「――放せって言ってんだ」
「このきな臭い匂い、何だよ」
「き…?」
「服! 至近距離で撃たれたんじゃねえのかよ?! 拳銃持った犯人と直に接触でもしなきゃ、こんな硝煙の臭い付くかよっ。なに危ないことやってんだよ、子供のくせにっ」
「コドモじゃねえ。放せって!」
頭に来てコナン君の両手首を掴んでソファに押さえつけた。
――こんなに、非力なくせに。
「俺の力も跳ね返すことができねーくらい小さな体で、なに無茶してんだよ!!」
コナン君の目が、工藤の目が怖ろしいくらいの光を放って俺を睨む。負けっか、こっちだってアタマにきてんだっ!
しかし、ほんの数秒で俺は根負けした。ダメだ。この強情な瞳。何を言ったって……。
手を離すと、コナン君は俺に強く握られて赤くなった自分の腕を見て冷ややかに俺に言い放った。
「快斗、覚えとけよ」
「何をだよ」
「俺が元の体に戻ったら、倍にして返してやっからな」
「………」
「抑えつけてひん剥いて泣かせてやる」
「……なんでそうなんだよっ」
〝ひん剥いて〟は余計だろーが!
やっと落ち着いて眠れる。
コナン君がバスルームに入ると、俺は安心してベッドに横になった。
引き出しの鍵、元通りかけといたけど開けたのバレるかな。
……でも、タブレットのパスワードが解けちゃったのは、言わなきゃ分からないだろう。
〝kaito1412〟
あんなん入力して開けちゃったんだから、驚くのはこっちだよ…。
俺は決めた。
今度からマジで探偵のアシスタントするんだ。
コナン君が風呂から出てきたら言おう。謎解き、俺にも手伝わせてくれって。俺も少年探偵団の一員にしてくれって……頼むんだ。
助けになりたいから。
コナン君の側で。側にいて、少しでも名探偵を助けたい。
護りたいから。
20120626
[15回]