遠い春
カテゴリ★ファーストステージ
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快斗が“快斗”として初めて此処へやってきた時───待ち構えていたのが江戸川コナンではなく工藤新一だったことに、アイツはさぞびっくりしただろう。
「入るぞ、灰原」
「工藤くん? こんな夜中になに?」
コナンの姿でいても、周囲に(博士以外)誰もいなければ灰原はオレを“工藤くん”と呼ぶ。
その灰原は、博士の研究所でひたすら研究を続けていた。毒性を排除し、副作用を抑え、APTX4869 の本来の開発目的である “人にとって夢の万能薬” の完成を目指して。
「あー…、あのさ、オレを元に戻す解毒剤の件だけど…」
「黒羽くんにも言ったけど、100パーセント保証はできないわよ。ま、そうは言っても使うでしょうけど。でも今すぐはまずいんじゃない? 色々根回ししてからじゃないと、江戸川くんが急にいなくなったら大騒ぎになるわよ」
「………え?」
「なぁに、その顔。黒羽くんに聞いてきたんじゃないの?」
「え? ええ…?!! 灰原…なん…えっ?! ちょ、まっ、エエッ?!!」
「落ち着いて。工藤くんが急げ急げって言うから頑張ったんじゃない」
「で、できたのか!? げ、解毒剤が!!」
「まあね。100パーセント保証はできないけど。同じこと言わせないで」
「なんで真っ先にオレに知らてくんねーんだよ!!」
「だから、いきなり江戸川コナンが消えたら騒ぎになるでしょ?! まったく…同じこと言わせないでって、二度目よ」
かーっと頭に血が上る。
戻れる。
今度こそ、本当に。
工藤新一に、戻れるんだ!!
「灰原、ありがとう!」
「はいはい。言っとくけど、飲んで無事工藤新一に戻ったとして、今度は二度と江戸川コナンになれないのよ。…まあ、厳密に言えばなれなくはないけど、これ以上の変化は避けたほうがいい。あなたはこれまでとんでもない負担を体にかけてきたんだから」
「わかってる」
「本当にわかってるの?」
「もちろん!」
嬉しくて体が震えてる。
この小さな体になって、どれだけ苦労したか。どれだけ周囲に嘘付いて、どれだけしんどい目に遭ったか。
本当のオレに戻れたら。
本当に本当のオレでいられるんだ。あたりまえの生活に戻れる。高校年のオレに!
今度こそ、快斗とずっと一緒にいられるんだ!
「黒羽くんは江戸川くんに会えなくなるの、さびしいみたいよ」
「え?」
「毛利さんだって、吉田さんだって、円谷くんや小嶋くんだって、江戸川くんがいなくなったら淋しがるだろうし、帰ってくるのを待つと思うわ」
「え…? いや、だってさ…」
コナンが消えたら───。
「…そりゃ少しは淋しがってほしい気もするけど、しばらくすりゃ忘れるよ」
「そんなに簡単に忘れてくれるかしら。あなた、江戸川コナンとしてどれだけ彼らと過ごしたと思ってるの。仮に全部打ち明けたとしても、信じてもらえるとは限らないし、伝わらない気がするわ。あなたの正体をわかってるはずの黒羽くんでさえ動揺してたもの」
「快斗が? 動揺?」
「そう。二度と江戸川くんに会えないのよ、って言った時の彼の顔。不意をつかれたみたいに茫然としちゃって。彼にとってこれから工藤くんと過ごす年月と、これまでの江戸川くんと過ごした時間とは、簡単に一つに繋がるものじゃないのよ。他の人たちだって、きっとそう。あなたたちが同一人物だと知らなきゃなおさらでしょ」
「………」
そんなこと言われても。
そんなこと言われたって、オレの元に戻りたい気持ちは変わらない。当然だ。
だが、灰原が言う意味もわからなくはない。
オレにとって江戸川コナンは最初から仮の姿だったが、少年探偵団や蘭やおっちゃん、園子たちにすればコナンは一人の “人間” “仲間” なんだ。
「わかるけど、どうしろってんだよ!」
「面倒くさがらない。ちゃんと始末してから戻りなさい。春休みまで待って、それまでにキチンといなくなる理由を準備して説明して、みんなに別れを言うの」
「春休みまで?! そんな先かよ!」
「うるさいわね、下手に捜索願なんか出されたら困るでしょう」
「お、おまえだって同じだろ。宮野志保に戻るなら」
「私は戻らないもの。これからも灰原哀よ」
自分だけ灰原哀でいくのかよ。
心のなかで一人ブツクサ言いながら、オレは家に戻った。今後の事は時間をかけて考えると灰原に約束させられて。
快斗は明日早いからと、夕食後すでに帰っていた。
どうして快斗が不安定な様子だったのか、今さらだが理由が解った。
そういう事だったのか…。
快斗は灰原から何をどう伝えられ、何を吹き込まれたのか。
確かめておかないと、何だか心配だ。
工藤新一に戻れるのは本当に嬉しいが、事はそう簡単には進められない。
コナンがいなくなる。
考えてみれば、それは確かに小さな出来事ではなさそうだった。
嬉しいはずなのに、気が重くなる。
みんなに別れを告げるのか…。コナンとして。
江戸川コナンは消えるんだ。
仕方ないことなんだ…。
20200830
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※カテゴリ★ファーストステージ、こちらも久方振りの追記でした(-_-;)。カテゴリとしてちゃんとまとめたい気持ちはあるのですが、更新ペースがかなり落ちている現在、今回のような “つなぎ” の話はつまんないですよね〜スミマセン! もう一回続けて、少しでも話を前進させたいと思います。←自分の首締めてる感(-_-;)
●拍手御礼
「月光という名の真実」「朧月」「激情」「5000メートル」「真贋」「雨音の回想」「紅い霆」「異形の者」
拍手コメントありがとうございました!
●雫水様
いつもコメントありがとうございます。キッド様を久々?イジメられて私も楽しかったです(^_^;)。
●名無し様
以前upしたお話も時々読み返してくださっているとの事、とても嬉しいです。ありがとうございます。快受け、やはり世間では少数派なので、これからも細々ですが快受け増やしていきたいと思います!
●うりゃ様
コメントありがとうございます! 意地っぱりな快斗くんと頑ななキッド様が大好物なので、今後も責めていきたいです。よろしければまたお訪ねください。ありがとうございました!
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