窮地(新快前提 白馬→快斗)
カテゴリ★空耳
※昨日に続き2012年6月末のイベントにて発行したコピー紙に載せたものです。
やはり描写等過去UPしてるお話とかぶってますが……;;快斗くん視点にて。
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背中を衝かれて前のめりに倒れた。
頭が痛い。後頭部を殴られたからだ。
何か重い…砂のような物が固く詰まった、殴っても傷跡を残さない危険な凶器で。
動けない。逃げられない。目が霞んで〝相手〟が誰かも判らない。
なぜ自分が襲われるのかも――当然判らない。
『!』
口にガムテープを貼られた。
とてつもなくヤバい。
懸命に目を開けた。
男が三人。…いや、四人。知らない顔だ。歳は俺と大差なさそうだが、見るからに荒んでる。なんで…どうしてこんな奴らが?
『身に覚えがねえって顔だな』
一人が冷ややかに哄いながら俺に話しかける。
『アンタになくてもオレらにはあるんだよ。この前ケーサツにチクってオレらの先輩たちを逮捕させたろうが』
制服のボタンが外される。体が竦む。動けない。
……思い当たるのは、例の犯罪グループとの一件だけだ。あの時現場にいた連中は全員現行犯逮捕され、公判の最中のはずだ。だとしたら、こいつらはあのグループの残党?
『思い知らせてやる。先輩たちの分まで』
両腕両脚をそれぞれ抱えられ体を持ち上げられる。
ドスンと腰からマットの上に落とされた。ここは……こいつらのアジトなのだろうか。手馴れた悪事の手順が身に付いた腐った連中だ。
しかし鈍器で殴られたショックが驚くほど深く、気を確かに保とうとするのだが頭の芯が重く痺れてどうしようもない。抑えられた腕を跳ね返す力も出ない。口を塞がれて息苦しい。眩暈がして…気を失いそうだ。
バン、と音がして、熱い衝撃に朦朧とする。頬を殴られたのだ。抵抗できない。おかしい。もしかしたら――ここに連れ込まれるまでに薬でもかがされたのか。
ベルトが外され、ズボンのジッパーが下ろされる感覚にぞっとする。しかし全く動けない。半分夢の中にいるようだ。こんな状況なのにどうしようもないなんて。
――このままいいようにこの連中に犯されるのか?
いやだ。
そんなのは…いやだ……!!
目の前が暗転した。
額に何かが触れる……。
不思議といやな感じはしない。
ふわりと体が浮いた。
どこかへ運ばれる。
助かったのだ。
そう…思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目覚めたのは白い部屋のベッドの上だった。
ぼんやり天井を見上げながら、ここがどこか、自分がどんな状況なのかを考える。
そうだ。はっとする。
思い出した。自分にのしかかろうとしていた男たち。心臓がギュッとなり、冷や汗が滲む。
恐る恐る体を動かした。
……異常は感じない。なんともない。
胸をなで下ろし、深く息を付いた。
でも、危なかった。
どうして助かったんだろう。それとも…あれは夢だったんだろうか? だとしたら、どこまでが現実でどこからが夢だったんだろう。
コンコン、とノックの音がした。
ドアがスライドし、顔を見せたのは中森警部だった。
「大丈夫かい、快斗くん」
「……」
返事をしようとしたが声が出ない。思わず喉を押さえた。
「無理しちゃいけない。大丈夫、少しすれば元気になるから」
近付いた警部がベッド脇の椅子に腰掛け、俺の額に手を当てる。
……さっきの掌とは違う。あれは…ではいったい誰だったんだろう。
「熱は下がったようだね。快斗くんが無事で本当に良かったよ」
「……」
「今夜はここでゆっくり休みなさい。警察病院だ。ここなら安心だから」
父親のような穏やかな眼差しで見られて少々胸が痛む。欺いている相手だ。幼なじみの父親であり、かつ〝初代怪盗〟の頃からの仇敵。
俺が目で問うと警部は小さく肩を竦めた。
「快斗くんを拉致した連中は逮捕したよ。とんでもない目にあったね。しかし、もう二度とこんな事はないから」
俺は頷いた。目を閉じる。
こんなに怠いのは……声が出ないのは、鎮痛剤でも打たれたからか。
しばらくウトウトして目を開けるとすでに消灯時間を過ぎたのか病室は暗く、中森警部の姿もなかった。
個室だった。何時だろう。建物全体がひっそりしているようでなんだか心許ない。こんな気分になるなんて弱っている証拠だった。手探りでライトの明かりを灯した。
「…あ」
声がでる。一安心するとトイレに行きたくなった。個室内に別のドアがある。俺は体を起こした。
フラフラする。まだこんなにダメージが残ってるなんて。用を済ませてベッドに戻ろうとすると、前を遮られてハッと立ち竦んだ。誰かが目の前にいた。
白馬、探…?!
「あっ」
抱え上げられて――感覚が甦る。
あの時、乱暴されそうになっていた俺を救い出したのは……。
ベッドに横たえられ、シーツに手を着いた白馬に見下ろされる。ライトの灯りの中で、白馬は厳しい顔をして俺を見つめていた。
助けてくれたのが白馬なら…礼を言わなければ。だが、どうして分かった? どうして俺が拉致された場所を知ったんだ。
「君は危なっかしくていけない」
白馬がつぶやく。俺の頬に掌を当てて。
――やっぱりそうだ。この掌。あの時、俺の額に触れたのはやはり……白馬だ。
「君が堤防の近くで男たちの車に載せられるのを、君の幼なじみが目撃していたんですよ」
「……」
アイツが?
今日は別々に帰ったのに。いや、下手に一緒にいたら巻き添えにしてしまうところだった。…俺だけで良かった。本当に。
「さすが警官の娘、車のナンバーと色や形をしっかり父親に通報し、そのあと僕にも連絡をくれたんです。僕が探偵で、僕の父は警視総監ですから、君を心配するあまり念には念をと必死だったんでしょう」
「…………」
「鈍器で殴られた上、ハーブを香がされていたようですね。連中が持ち歩いていた脱法の」
─── ハーブ。そうか。そう言えば何かで顔を覆われた。香りが……。
急に襲われた時の感覚が甦ってぞくりと震えた。
一歩間違えば、どうなっていたか分からない。
過去に受けた凌辱の記憶が堅く栓をしていたはずの蓋の隙間から溢れ出る。
何人にも体を押さえつけられ…その場にいた全員に輪姦された。逃げるよりそうする事を選んだのは自分だったけれど――。
「黒羽くん」
名を呼ばれて我に返り目を開いた。
目を開けた瞬間、不覚にも涙が目尻から伝い落ちた。
『あっ…?!』
唇を───塞がれていた。白馬に。
首を振るが逃れられない。長いキスに思わず呻くと、舌先が忍んできて咥内を辿られる感覚に気が遠くなる。懸命に腕を突っ張った。しかし手首を掴み取られ、なお深く絡め取られる。
「……やめろっ、はく…ば…!」
唇が放され、辛うじて拒絶したものの、声が震えてしまっている。白馬の顔が見れない。
顎に手を添えられただけで、びくりと怯えが体に走るのを隠せなかった。
「君は…工藤新一とはどういう関係なのですか」
唐突な質問に思わずかっとなった。
「なん……、ふざけんな! 知るかよ、そんなヤツ。関係もなにも」
「僕に隠しても無駄ですよ。君たちは〝探偵〟と〝怪盗〟という相反する立場にも関わらず、想いを通わせ契り合った仲だ。違いますか」
「誰が〝怪盗〟だよ」
「強情ですね。いいでしょう」
白馬が覆い被さってくる。寝間着の下に差し込まれた白馬の指先が肌を探って蠢く。
「や、めろっ、何すん…!」
首筋から耳の後ろまで舐めるように唇が這い、悲鳴を上げそうになる。
「……大声出すぞっ。どけっ!」
ふふ、と白馬は笑った。
狼狽える俺をどこか淋しげな眼差しで見詰めて。
「仕方ありませんね…。今夜のところは、やめておきましょうか。君は今日の出来事にショックを受けている。ここで君を抱くのは容易いですが、それでは工藤くんに対してもフェアではないですから」
「なにが……、たやすい…だ」
悔しいが、強がっても声も体も震えてしまっている。
白馬が言うとおり、白馬が本気だったら今の状態ではとても抗い通す自信はなかった。
「では失礼しますか…。おやすみなさい、黒羽くん。どうぞお大事に」
「……」
白馬の顎に疵があった。よく見ると目元にも。
俺の視線に気付いたのか、俺の両目を隠すように白馬の掌が当てられた。
パチンと音がし、ライトが消される。白馬がベッドサイドを離れ、出て行く。
「……白馬!」
白馬が無言で振り向く。半分開けたドアの向こうから差し込む薄明かりに透けて、シルエットしか分からない。
「ありがとう……助けて、くれて」
まだ混乱はしていたが、礼だけは言っておきたかった。
警察の情報網から的を絞り最初に駆け付けて俺の窮地を救ったのは、おそらく白馬だったのだ。
白馬は何も応えなかった。
ほんの少し、立ち止まったが、そのままドアを出て静かに去っていった。
混乱していた。
ただもう疲れてそれ以上何も考える気力はなく、俺は重い気持ちを抱え込んだまま深い眠りに引き込まれていった。
夢は見たくない。なんにも煩わされずに、深く深く眠りたい。そう願いながら、体を丸めて枕に顔を埋めた。
20120610
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2012/6/24 Comic City東京124 黒羽快斗・怪盗キッドの生誕祝プチオンリーイベント「Happy Kaito!」にて発行・小冊紙より
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