ポアロの客《2/2》(新快前提 赤井×安室)
※書いてるうちに迷ってしまい、カテゴリ分けしにくい内容になってしまいました。純黒余波パラレル(*_*;
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この少年は、ただの〝ポアロの客〟ではない。
確かめる必要がある。この少年が、ぼくの何を探りに来たのかを。
「お待たせしました」
ハムサンドと珈琲をテーブルに置き、ぼくは〝どうぞ〟と微笑んだ。
あくまで無愛想を貫くかと思った黒衣の少年は(本当に腹が減っていたのだろう)、意外にもハムサンドを目の前にして微かに瞳を輝かせた。
珈琲の良い香りも食欲をそそっているに違いない。このブレンドも〝なかなかのものだな〟と赤井に褒められたものだ。
「……」
何を嬉しがっているのか。こんな時にまでいちいち赤井のことを思い浮かべるなんて。
振り払おうとして余計に赤井の顔がちらついてしまう。
心底、腹立たしい。
どんな時にも落ち着き払っている赤井が。敵わないと解っているのに、それを認めたくない自分の青臭さが。誤魔化せないほど赤井に惹かれてしまっている自分が。
少年がハムサンドを頬張り始める。
いい食いつきっぷりだ。
咀嚼しながらカップを手に取り、少し熱そうにしながら一口、二口と珈琲を飲み込んだ。
さっきまでの剣呑な雰囲気は気のせいだったか…些か見誤ったかもしれないと思うほど、少年は無防備に食事に集中している。その姿は見た目の年齢相応のものだ。
──まあいい。危険な薬を使ったわけではない。何事も〝念のため〟だ。
「お下げしてよろしいですか?」
空になった皿に手を伸ばしつつ様子を窺うと、そろそろ少年の瞼が重くなってきているのが分かった。
「珈琲のおかわりをお持ちしましょう。閉店前なので、サービスしますよ」
緩やかに頷いた少年は、座席の背もたれに寄りかかりキャップのつばをさらに少し深くした。欠伸をかみ殺している。
効いている。睡くて堪らないだろう。
「お客様…」
少年は腕を組んで動かなくなった。キャップに隠れて見えないが、寝入った様子だ。
他愛ない。
ぼくはエプロンをほどき、店内の照明のほとんどを落とした。
万一に備え、出入り口の扉の前に衝立を寄せておく。これで通行人が店内を覗いても中は見えない。
静かだ。閉店時間の23時はとうに過ぎた。階上の毛利探偵事務所の気配も今夜はない。
ぼくは隣の席の椅子を持ってきて、少年の脇に腰掛けた。
まだあどけなさを残す横顔を見ながら、静かに問い掛ける。
「キミ、未成年だろう。いつもこんなに遅いのかい?」
「……」
「ぼくを知ってるのかな。以前どこかで会ったことがあったっけ」
「………」
少年が微かに頷く。
「どこで? どこでぼくと会ったんだい」
「……ツリー……こう…で」
「ツリー?」
まさか、ベルツリー急行のことか。
「キミはベルツリー急行に乗っていたのか? いったい、いつぼくと… ──!」
ブブブ、と懐のスマホが突然振動し、ぼくはハッと体を起こした。
めったに鳴ることのない公安の携帯。非常事態か。しかも非通知。
「誰だ」
──やあ、零くん。
・・・?!!
思いも寄らぬ声に、ぼくは驚愕した。
甘いテノール。落ち着き払った声音。
この声は。
「赤井! 何故、この番号を」
───ご挨拶だな。教えてくれたのは零くんだろう。連絡はこの番号へと。
「そんなはずあるか! どうやって盗んだっ」
───おや、本当に覚えてないのかい。数日前、酔いつぶれたキミを送っただろう。その時に…
「なんだと。さては謀ったな、赤井!」
思わず取り乱したぼくに対し〝ボウヤだからさ〟…とは赤井は言わなかった。
変わりに電話の向こうで〝ホー〟と嘆息をつく。
───止めたのに、強い酒ばかり立て続けに飲んだのはキミだろう。まあ、飲みたくなる気持ちも解らんではなかったがな。
なにが。なにが〝解らんでもない〟だ。
そうだとも…自分でも嫌になるほど解っている。
赤井の実力を知るにつれ一目置くようになり、やがてそれが憧憬に近い感情へ変わった。
だからこそ仲間をみすみす死に追いやった赤井が許せなかった。
赤井であれば、仲間を死なせずに救うことができたはずなのに。
それなのに、どうして。
ぼくを巻き添えにしないためだった、とでもいうのか。
もし赤井がそんな事を少しでも言っていたなら、ぼくはその場で赤井を打ち倒していたかもしれない。
だが赤井は何もいわなかった。 今に至るまで。
だからぼくは怒りを向ける矛先を失ったのだ。ことあるごとに赤井に助けられる自分が赦せなくて。
赤井に───自分を認めてほしくて。
「日本はぼくら公安が守る。FBIは去れ!」
───仕事の話は抜きだ、と言ったはずだが。そろそろ解ってくれてもいい頃ではないかな、零くん。
「なにがだ…馴れ馴れしいぞ赤井。さっきから名前で」
───逢いたい、と言っている。束の間の休息を君と過ごしたい。理解して欲しいものだな。
「……」
何を言ってるんだ、こいつは。
数日前の〝あれ〟は、酔いつぶれたぼくの、単なる不覚に過ぎない。それを望んでいたとでも勘違いしているのか!
───五分後に着く。ポアロの戸締まりをして待っていてくれたまえ。
「おいっ、勝手なことを…」
「お互い、マイペースな恋人には苦労させられますね」
「・・・?!」
不意に覚えるヒヤリとする気配。
赤井との会話に完全に気を取られていたぼくは、背後で寝入っているとばかり思っていた少年がいつの間にか姿を変えていたことに、ようやく気付いた。
「たいへん結構なハムサンドと珈琲でした」
「お…おまえは…」
黒いキャップが白のシルクハットに、黒のシャツとジーンズは純白のスーツと長いマントに変わっていた。
「怪盗キッド!!」
「こんばんは。ご挨拶が遅れ、失礼いたしました。実は工藤探偵と敵対する組織の一員であるはずのあなたが、いまだにポアロにいる理由が知りたくてお訪ねしたのです」
「な…」
「安心しました。あなたが公安の潜入捜査官だったとは…。工藤探偵もそこまでは明かしてくれなかったものですから」
あまりのことに言葉が出ない。
さっきまでの少年が、怪盗キッドだったのか?
キッドは、工藤新一とはライバルではないのか。キッドの言葉の意味は。
マイペースな恋人には苦労させられる───だって?
不意に顔が熱をもつ。
キッドは、ぼくと赤井が恋人だと言っているのか。
「違う!」
「ふふ。私も初めは否定しました。そんなわけはない、相対するライバルに惹かれるなんてあり得ないと」
微笑む怪盗のモノクルに狼狽える自分が映っている。
「…なぜ、ぼくをバーボンと」
「ベルツリー急行でご挨拶して下さったでしょう。〝バーボン、これがぼくのコードネームです〟とね」
「なに…?」
弾いた指先をキッドがカウンターの方へ向ける。目で追った先の柱の一部が光っていた。
鏡。いつからあんな場所に?
まさか、あれでカウンターの中のぼくの手元を見ていたのか。珈琲に薬品を垂らすところを。
「あっ」
煙幕に覆われる。
〝御馳走様でした〟という怪盗の声が響いた。
テーブルにはキッチリ代金が置かれていた。
そうだった。ベルモットが言っていた。ぼくがベルツリー急行の中で会ったシェリーは、どうやらキッドの変装だったらしいと…。
なんてことだ。赤井を意識するあまり、キッドの前であっさり自分の素性を明かしてしまった。
探るつもりでいたぼくの方が、まんまと怪盗に探りを入れられていたのだ。
それもこれも…。
「くそっ、全部赤井のせいだ!!」
もちろん自分のミスだと承知している。
だがそのミスを誘発したのは、やはり赤井にほかならない。
こうして今夜もぼくは赤井に対して反感を募らせる。独り相撲だと解っていても。赤井への慕情が強くなればなるほど、意地を張ってしまう。
赤井が工藤新一をいまだに〝ボウヤ〟と呼ぶのも気に食わない。それが嫉妬の感情だと気付いているから、なおさら苛ついてしまう。
言い訳は溢れるほどあったが、怪盗の残した煙幕の甘い香りは薔薇の媚薬のようにぼくの頭を痺れさせ始めていた。
こんなに頭にきているのに…数分後、ぼくはきっと赤井の車の助手席に座っているのだろう。赤井にとって、怒気をはらんだぼくの貌はせいぜい拗ねている程度にしか映らないに違いない。
鼓動が速くなる。赤井への悪態も一頻りつき終えると、ぼくは洗い物を手早く済ませ、明かりをすべて落とし、ポアロの扉の鍵を取り出した。
交差点を曲がる赤井の車のエンジン音が聞こえてくる。
今夜最後のポアロの客に背中を押されたように、ぼくは近付くヘッドライトの中へ一歩足を踏み出した。
20160515
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※わぁ~すみません(@@); 快斗くん=キッド様を脇役扱いにとどめてしまいました。過去upのバーボン→快斗『黒の鎖』と丸被りしてしまいそうで、ちょっとギアを入れ替えたと申しますか…赤安色を強くした内容にしてしまいました。直球安快を待たれていた方には申し訳ないです(; ;)。そして睡眠薬は中和剤的なものを快斗くんが用意してあったということで;;
※昨日ズートピアと純黒を連続ハシゴして、さらにコナンくん新OPショックで頭がプチ崩壊気味です。あの中にキッド様がちらりとでも掠めてくれてれば文句なしだったんですが…←ゼイタク(*_*;
●拍手御礼
「藪蛇」「新月 new moon」「十八夜夜月」「ハッピー・スゥイート・ニュー・イヤー」「潜行」「バースデー・トラップ」「フェロモン」、さらにカテゴリ★インターセプト へ、拍手ありがとうございました(^^)/
拍手コメント御礼!
★彌爲様、ありがとうございます。やっと終わらせられました~インセプ(冷汗)。お訪ね下さり感謝です。しかし今日の後編ではさぞガッカリされたのでは(@@)…申し訳ないです。いずれまた、赤井さんにも安室さんにも快斗くんを襲わせたいです!
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