夢が覚めたら
(コナン&キッド&哀+Kコ?)
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(ね……、起きて)
………………
(しっかりしてちょうだい…キッド。あなたにはまだやることがあるはずよ……)
……だれ?
…俺に………話しかけてるのは………。
まぶしい―――。
「あら、起きちゃった」
「…………え?」
「博士、江戸川くん呼んできて」
おお、わかった、と少し離れた所から声がして、全体に丸い雰囲気のおじさんがドアから出て行く。
「残念。引っかからなかったわね。人間は覚醒するときが一番無防備なものだけど」
な…に……?
「博士にはあなたがキッドらしいって事、まだ話してないわ」
「……キミは」
小さな女の子。だけどそうとは思えない達観したような眼差しで俺を見つめている。白衣まで身に着けて。
「私、この阿笠博士の家の同居人で、江戸川くんの同級生よ」
「……てか、これなに? 病院でもないのに……」
俺の腕には点滴の針が刺さっていた。なにやら透明な液体がポタリポタリと落ちている。
「だって、この数日まともに食事してなかったでしょ。おまけに脱水症状。服も体も特に汚れてもないから、監禁されてたとかじゃなさそうだし。怪我もない」
「…………」
呆気にとられる。なんだ、この子は。
「もしかしてストレスが胃にくるタイプとか。まさか拒食症じゃないわよね? 一番疑わしいのはそれだけど……まあ細いことは細いけど、ガリガリってこともないから、一過性のものかしらね。とにかく十分な睡眠と栄養をきちんと採ること。わかった?」
『おいおい、あんまりびっくりさせんなよ』と、今度は別の子供の声がする。
声の方を振り向いた女の子が『自分の体調にもっと注意を払うよう忠告してただけよ』と言っている。
……へいへい、わかりましたよ。
「じゃね、江戸川くん。もう遅いから私たち失礼するわ。明日遅刻しないようにね」
女の子は終わりに近づいていた点滴の針を俺の腕から抜き、テキパキと撤収すると『いきましょ博士。江戸川くんは彼と二人で話したいみたいだから、邪魔者は退散しましょう』と言った。
〝博士〟と呼ばれたさっきの丸いおじさんはドアの近くでいくらか心配げな顔をして立っていたが、そう言って促されるとこちらを気にしつつも女の子と一緒に部屋を出て行った。
「さーて。やっとじっくり話せるな」
名探偵がメガネをキラリと光らせる。
「――な、キッド」
「あ」
「なんだよ」
「夢に出てきたコドモ、あれ、ボクだったのか」
「んだよ、今頃」
「いや、夢じゃなかったのか…」
――なんだか……切ない夢の記憶。夢は夢だ。現実に戻ればやがて忘れる――。
「おいキッド、おまえ怪盗の衣装どこだよ」
「は? ボク、さっきから何言ってんのかな?」
「ちっ、この期に及んでシラ切るつもりかよ。おまえが飛行してたのずっと追ってたんだからな」
「寝呆けてるのかな? 夜中だし、ボクももう寝た方がいいと思うよ」
俺は名探偵をベッドの上に抱き上げた。
「お、おいっ」
「何もしないよ。それじゃ一緒に寝ようか」
「ばかキッドてめえ」
「俺はキッドじゃないよ」
腕の中でジタバタする軽い体を抱きしめて寝ころんだ。
「ばかっ、はなせよっ!」
……あれ。赤い顔しちゃって。
「なんだよ。男同士だろ。照れなくても」
「べべつに」
顔を寄せると、名探偵の赤い顔がさらに真っ赤になった。
そんな気はなかったのに、なんだかイタズラ心を刺激される。名探偵がこんなに純情だとは。
上になって名探偵の肩を押さえると、名探偵はビックリしたように目をぱちぱちさせて、言葉も出なくなった。
……からかい過ぎかな。かわいそうか。
ぎゅっと目を瞑った名探偵のオデコにキスした。
俺が離れると、息を止めてたらしい探偵がぷはっと息を吐き出した。
「……へー、かっこいい腕時計してるじゃん」
「あっ! テメ、いつの間に!」
俺は名探偵から拝借した例の腕時計を指先でいじくった。
「ここのボタンは? おっなんだこれ」
「勝手にさわんな!! かえせっ」
「すぐ返すよ」
慌てた声で飛びついてきた名探偵の膝頭に照準を向けた。
ぷしゅ。小さな射出音がして、名探偵が眉をひそめる。
「く…、テメ……やりやがったな……」
「おやすみ、ボク。おかげで元気になったよ。さっきの彼女にもよろしくな」
俺の声は名探偵の耳に最後まで届かなかったかもしれない。
ぽさ、と音を立ててベッドに倒れ込むと、名探偵はすぐにすやすやとあどけない顔で寝息を立て始めた。
「……こうしてりゃかわいいのになァ」
俺はベッドから抜け出し、近くに掛けてあった自分の上着とキャップを手に取った。
「おやすみ、ボク。……名探偵」
阿笠邸を出ると、どこからか視線を感じた。
暗くて見えないが、おそらくあの女の子だろうと思い、当てずっぽうで上の窓に向かって手を振った。
……そうか。
もしかしたら、あの子も名探偵と同じように〝子供の身体〟になってしまった大人の〝女性〟なのではないだろうか。
名探偵のサポート役である博士の元に身を寄せて、彼女も名探偵の活躍に一役買っているのかもしれない。
おやすみ、名探偵。
今夜はありがとう。
俺が一番参っていたのは〝独りでいること〟だったのかもしれない。だけど、おかげでずいぶん癒された。
早く戻ろう。
公園のベンチの裏の植え込みにとっさに隠した大事な父さんの片身の衣装を早く引き上げなきゃ。
俺は軽くなった体で走り出した。
大丈夫。夜明けまではまだ間がある。
明日になれば――夜が明ければ、今夜のことはやはり夢だったのだと思うだろう。
きっと――。
20120209
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コナン&キッド&哀ちゃん、さらにイレギュラーで初の〝Kコ〟?入りましたー! 流れでちょこっとですが… (^^;)。
一応先日アップした『休息』のつづきの内容になってました~。m(_ _)m
[10回]