moonlight 新一×快斗

回帰（新一×キッド）
※新一視点
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十六夜(いざよい)が美しかった。

満月を過ぎ僅かに欠けた姿であっても月は十分に明るく、煌々と夜空に君臨する姿は溜息が漏れるほど美しかった。

やがて開け放った窓から、一陣の風が吹き込んだ。

庭に舞い降りる〝白い鳥〟。

待ち人が現れたのだ。

だが、すぐに動くことが出来ず、オレは立ち尽くしてその姿に魅入っていた。

蒼い光を纏い、朧に光るマント。
そのマントを靡かせた怪盗が静かに立ち上がる。

〝予告状の暗号は解いていただけたようですね、名探偵〟

シルクハットのつばを片手で抑え、怪盗が詠うように話しかける。
手とモノクルで隠れ、表情はよく見えない。

飾り紐に付けられたクローバーのマークだけがゆらゆらと揺れていた。月明かりを弾いて、煌めくように。

オレは漸く枷が外れたように駆け出した。
怪盗が消えてなくなる前に、捕まえなければならない。絶対に。

この一瞬が夢ではないことを──。

怪盗がシルクハットから手を離す。

オレは飛びつくように怪盗を抱き締めた。両腕ごと。抱え込むように。


確かに在る。

いま、オレ腕の中に。あの怪盗の息吹が。

ずっと夢見てた。

ずっとこうしたかった。

捕まえたくて、捕まえたくて。

だけど小さかったオレの手では、いくら伸ばしても届かなくて。


〝名探偵…〟

怪盗の声がする。すぐ側で。抱き締めた身体を通して。
どくん、どくん、と重なるように響いているのは何の響きだろう──。

〝名探偵…お放し下さいますか。取っておきのマジックを用意してきたのです。名探偵に披露したくて〟

少し躊躇う。
力を緩めたら、また消えてしまうのではないか。オレの前から。


〝…大丈夫です〟


オレの思いを察したかのように怪盗が囁く。

オレは恐る恐る…そっと手を離した。



───煌めく閃光。


眩しい。


「キッド──！！」








「キッドは消えた。もういないよ」


「……？！」


「はじめまして…でいいのかな。何度か会ってるっちゃ会ってんだけど」

「おまえは……」

「怪盗キッド、最後のマジックでした！ じゃーん。どうだよ、驚いたか」

「おまえは…、く、黒羽、快斗か」

「なんでえ、ばれてんじゃん。ちぇっ、詰まんねえの！」

「それじゃ…ほんとに…本当におまえが…キッドだったのか」

「まあな。だけどもうキッドは消えた。申し訳ないけど、怪盗は捕まるわけにいかねえからな」

「黒羽、快斗…」

「工藤新一！」

「黒羽…」

「快斗でいいよ」

「快斗」

言葉を交わしながら、オレたちはいつの間にか堅く手を握り合っていた。

やっと出逢えたのだ。

工藤新一として。

黒羽快斗として。

本当のオレたちの〝これから〟が、ようやく始まる。
昨日までとは違う、新たな物語を作っていくんだ。
ふたり、一緒に。






20200113
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※なんにしろ〝ハジメテ〟っていいですよね。てなわけで遅くなりましたが原点回帰で新年最初は書いてみました(^_^;)。

●拍手御礼
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