海色の瞳(新一×キッド)
※キッド様視点にて(*_*;
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海上を飛行するヘリの様子がおかしい。コントロールを失っている。
グライドして近寄ってみると、中で二回、何かが光った。発砲…?!
扉がスライドする。姿を現したのは工藤新一だ。
こっちを見た工藤が、躊躇なくヘリから飛び降りる。
────って、エエッ?!!
パラシュート背負ってねえ!
「馬鹿かっ、アイツ!」
《《 ドオーン!!》》
落下する工藤を追尾し始めた直後、頭上でヘリが爆発した。
爆風に弾き飛ばされ錐揉みしながら翼を閉じ、墜ちる工藤に追い縋る。
工藤は俺を見上げて体を開き、落下速度を抑えていた。
追い付いて、ひっつかまえる。
「キッド離せ、おまえも墜ちるぞ」
「馬鹿ヤロー! じゃなんで飛び降りて俺が追い付くの待ってんだよっ」
「爆死よりマシかと…それに」
「なんだ!」
「最後…おまえに逢いたかった」
ふざけんな。
腕の中で体を捩る工藤に叫ぶ。
「じっとしてろ!! 」
ヘリの破片が脇を掠め、ひやりとする。
翼をやられたらお仕舞いだ。翼を閉じたまま自由落下に身を任せる。
墜ちてゆく。
工藤と二人、真っ逆様に。
「聞こえるか工藤、合図したら翼のボタンを押せ! 」
「キッド、オレはいいから、おまえだけでも…」
「うるせえっ、怪盗なめんな!!」
真下に海が近付く。
海だから落下しても助かるかも…なんてのは甘い。工藤だって解っている。加速したまま叩きつけられたら、コンクリに墜ちるのと変わらない。即死だ。
みるみる迫る海面。
風向きは…わかんねえ。やるしかない。
落ちながら視界に入る陸地を探した。
飛ぶぞ。二人分の体重をコントロールして、あの浜まで…!
再び爆裂音が響いた。ヘリが海に墜ちたのだ。しかしそれを確かめる余裕はもうなかった。
「押せ、工藤────!!」
腹と肩にかかる重量。一瞬の浮遊感のあと、右手一本でバンクをコントロールした。
工藤は少しでも風の抵抗を減らそうと俺の体にくっつくようにしがみついている。俺も工藤の背に左腕を回し、工藤のベルトを掴んでいた。
「キッド」
「しゃべんな」
「もう落としても大丈夫だよ」
海面から三メートルほどの高さを、ようやく安定して飛行していた。
海風がいい感じに吹き付け、おかげで失速を免れたのだ。
「あっそ。んじゃな、名探偵」
「わわっ、ウソだって!」
「どっちだよ…もう」
でかくなった探偵ともランデヴーする羽目になるとは。やれやれ。
「たく、無茶しやがって。この馬鹿探偵……?」
視界が暗くなる。あれっ、前が見えない。
ぼやけた視界に工藤の眼差しが映っていた。
(……え?!)
頭の中に、心臓の音が響いていた。
風の音も海の音も消えて。
唇が…重ねられてる。
温かな吐息が────。
バシャン、と音がしたときには波に沈んでいた。
二人して抱き締め合ったまま、海の中で口付けを繰り返す。
なぜ、と考える間もなく、互いの熱を探し求めていた。
「…ぷはっ!」
息苦しくなって顔を水面に出すと、工藤も顔を出していた。立ってなんとか肩が出るくらいの深さ。
「あっ」
モノクルとシルクハットがない。咄嗟に工藤から顔を逸らした。
浮かんでいたシルクハットを見つけ、急いでそばまで行ってすくい上げる。
モノクルは…沈んだか?
「モノクルならここだぜ」
「……返せ!」
工藤の手に、モノクルが握られていた。
右目を手で隠して工藤に近付く。
左手を伸ばすと、工藤はスッと避けて笑った。
「返すよ。返すけど、これと交換だ」
モノクルの代わりに工藤が差し出したのは、海色のビッグジュエル。今回の元凶〝メドゥーサの瞳〟だった。
「夜になったら、月に翳すんだろ?」
「…………」
「犯人はオレを道連れに自決しようとしたんだ、〝メドゥーサの瞳〟もろとも。身内に裏切られ、破産して自暴自棄になってた。メドゥーサに魅入られたせいだと自嘲してたよ」
俺は工藤に手渡されたジュエルを見つめた。〝手にした者は石と化す〟…そんな災厄を伝えられる禁忌のジュエル。だが、その美しさは本物だった。
このまま海に落としたら溶けてしまう。そして二度と見つけられない────そんな儚い輝色をした涙型のビッグジュエル。
災厄の言い伝えは、もしかしたらこの儚いジュエルを護るためのものなのではないか。持ち主が次々と身を滅ぼすのは人の身勝手さのせいに過ぎない。ふと、そう思った。
「……可能性は少ないが、返せない場合も有り得るぜ」
「いいさ。だとしても、おまえはモノクルを取りに来る。今夜、オレの部屋へ」
俺は吹き出した。
「なんだそりゃ。デートのお誘いみたいだな」
「悪いかよ」
ザァッと波が立ち、体が浮き上がる。
こいつには冗談が通じない。
ただひたすら真顔で見詰めてくる工藤の瞳が、宝石のように輝いていた。
テトラポッドの山を越え、俺はやっと黒羽快斗に戻った。 怪盗の衣装のまま泳いで、砂地をずぶ濡れで歩いて、さすがにバテた。
くそ、何だってこんな目に。憶えてろ馬鹿探偵っ!
パトカーのサイレンが聞こえてくる。 長居は無用だ。あとは工藤が辻褄合わせて警察に話をするだろう。
ビッグジュエルは海の藻屑と化したのか。それとも怪盗キッドに持ち去られたとでも言うのか。
「…………」
どちらでもない気がする。
怪盗よりも狡猾なあの探偵は、もっと上手い言い訳を考えるに違いない。
俺が返す場合の事を考えて伏線を張り、ビッグジュエルは行方不明と偽って警察を納得させてしまうのだろう。
それにしても。
謎なのは工藤の方だ。
工藤は最初から俺がヘリを追って現れると踏んでいたのだろうか。
ジュエルを追う俺のために、あえて犯人と共にヘリに乗り込み、危険な賭に出たのだろうか…。
まさか、ね。
一歩間違えば命を失っていたかもしれないのに。
覆面パトカーが二台連なって目の前を通り過ぎて行った。
俺はへとへとだった。月が昇るまで、まだあと八時間以上ある。とにかくひとまず帰って休もう。
バッグに詰めた怪盗の衣装は濡れて重く、ポケットのビッグジュエルはまるで熱を発しているかのように熱かった。
20130814
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※え、えーと、書き逃げショートのつもりで書き始めたんですが…補足説明的なところを足したら、なんだか余計中途半端になっちゃいました~(*_*;
●拍手御礼!「不思議な夜」「ホスピタル」「退院祝い」へ、拍手どうもありがとうございました(^^)/
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