秋の音(新一×キッド)
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大学から警視庁へ直行し、解決した事件の調書作成に協力してから帰宅すると、すでに辺りは真っ暗になっていた。
本当に日が短くなったと実感する。
窓を開け、部屋の明かりは点けずに椅子に座って目を閉じる。背もたれに寄りかかってぼんやりしてると、鈴虫の音が不意に大きく鳴り出した。
あの夜もこんな風に鈴虫が鳴いていた…。
キッドは今どこでどうしているのだろう。
ぼんやりしている時、独りになった時、頭に浮かぶのはいつもアイツのことだ。
オレが工藤新一に戻り、怪盗キッドが姿を消してから二年が経つ。
探そうと思ったこともあった。だが。
二年前の夏の終わり、突然この部屋に現れたアイツは、去り際オレに別れは言わなかった。
『じゃあな、名探偵』
それだけ。
『あばよ』とも『またな』とも言わなかった。
もしも引き止めていたら、どうなっていたんだろう。
だが、あの時オレは───アイツにはアイツの世界があって、そこへオレが入り込むことは出来ないのだと───漠然と自分を納得させてしまった。
そして想いは残ったまま、今もここに在る。
「あ~あ…情けねー」
一度は確かに掴んだ想いを、オレは手放してしまったんだ。時が経てばやがて薄れると思い込もうとして。だがそれは自分への欺瞞でしかなかった。
オレは、オレは今もずっとアイツを───。
「くそ」
目が開けられない。
目を開けたら涙が零れる。
別に泣いたって構わないんだ。一人なんだし。
「バカやろう…」
どうしてあの晩、オレのところに来たんだよ。
なのにどうして何も告げずに行っちまったんだよ。
夢なんかじゃなかった…。
強く強く抱き締めた時の、アイツの息吹を憶えている。
互いの鼓動が共鳴し合い、大きく響いた瞬間を。
モノクルを外したアイツの素顔を。
自分の〝半身〟が確かに此処に在ると知った歓びを───。
「ちくしょ~っ」
目を閉じたまま机に突っ伏した。
「なんでぇ、また泣いてやがる」
「・・・・」
「泣き虫探偵」
「・・・・?」
───ガタ!!
心臓が跳ね上がり、机が揺れて音を立てた。
誰かいる。
そんなバカな。
ここはオレの部屋で。
帰宅して、窓開けて、それからずっと一人で───。
「風邪引くぜ。こんな格好でうたた寝しやがって」
「………」
夢か。
夢でなかったら侵入者だ。
だけど、この声は。
「起きろよ。狸寝入りしやがって。聞こえてんだろ」
「………」
そんな…バカな。
───キッド?!
「泣き虫」
「…ないでねぇ」
掠れていたが、声が出せた。
だけど目が開けられない。
これが夢だったらと思うと怖くて。
声を上げて大泣きしてしまいそうで。
「ホント、久しぶりに来たってのに全然変わってねえな工藤。前に来たときのまんま」
「…うるへぇ、誰のせいだよ!」
オレは立ち上がった。体がギクシャクする。
さっき帰ったばかりと思っていたが、どうやら突っ伏したまま寝込んでいたようだ。
腕が痺れているし、体がカチカチに冷えてしまっている。
「どこだよ、キッド!」
「目の前だよ。目ぇ開けろよ」
「………」
それでも目が開けられずに、オレは痺れたまんまの手を声がする方へ伸ばした。
腕を動かす。
やっぱり体が冷えてて肩が痛い。いったいどのくらい眠り込んでいたんだろう。
だが、いくら動かしても何にも手に触れない。
「いねえじゃねえか、バカやろー!」
「ここだよ」
はっとする。
後ろから耳にかかる吐息。
いたずらな声音。
「へへへ。嬉しいぜ名探偵。また逢えて」
「キッ…ド…」
「前に来た時に言っただろ。あの時が最後の怪盗キッド。今はしがない売り出し中のマジシャンさ」
オレは振り向いた。そしてやっと目を開けた。
蒼い月明かりが、見覚えのある顔を照らしていた。
その頬が濡れ、煌めいている。
「なんでぇ…そっちこそ泣いてんじゃねえか」
「もらい泣きだよ。イケメン学生探偵が、顔ぐしゃぐしゃじゃねえか。ざまねえの。ほら拭けよ」
───ポン!!
「うわっ」
差し出されたハンカチを取ろうとしたら、ハンカチが弾けた。
キラキラ光る銀の紙吹雪が部屋中を舞い踊る。
月明かりを映しながら、蒼く煌めいて───。
「ばか、掃除が大変だろうが!」
「あははは」
キッドが笑いながらオレに抱き付いてくる。
「朝になったら掃除手伝うよ」
「んなこと言って、どうせまた消えるんだろ」
「消えねえって。頑張って武者修行終えて、やっと日本に戻って来たんだぜ」
キッドの声も掠れて震えていた。
「言っとくが、今度こそ逃がさないからな」
「逃げねーし。これからはずっと」
工藤の側にいるから───。
そう聞こえた。
幻聴でなければ。
これが夢でないのなら。
「キッド…、お帰り」
間抜けだが、こんなセリフしか出てこなかった。
キッドはオレにくっついたまま、またハハハと笑った。
「もうキッドじゃない。黒羽快斗ってんだ」
「くろば…?」
「明日から工藤と同じ大学に通いながらプロとしてデビューする、新人マジシャンさ。よろしくな、工藤」
こんな嬉しい夢なら何度見てもいい。
夢でないと解ってもなお、そんな事を考えていた。
もう絶対にこの手を離さない。
秋を告げる涼やかな虫の音が再び大きく鳴り響いていた。
20160925 ※再up20161001
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※このブログ初期に書いたお話のなんとなくな続きでした。数年後という〝未来〟の話を書くのは実は初めてだったかも…(^^;)。
★拍手御礼
「閃光(改)」「Third time lucky」「ペガサスの翼」「5000メートル」「チビ新快2」「結論」「始まりのKiss」、さらにカテゴリ★交錯 へ 拍手連打いただきました。ありがとうございます(^_^)ノ
《拍手コメント御礼》
ゆたぽん様★この九月からご来訪いただいているとのこと…よくぞこの辺境ブログへ見つけて下さいました(^_^)ノ 私のひとりごとの身内話へも丁寧なお悔やみを頂戴し感謝です。『快斗の可愛く明るくかっこよく、そしてピリッとした緊張感とプロフェッショナルな様が好き』←ハイハイハイハイ同感です! 自分が褒められてるみたいに嬉しいです(o^^o)。
このところ本当にやることが多くて更新がままならないのですが、また時々覗きに来て下されば幸いです!
更新出来てないのにチロチロ拍手いただけてて嬉しいです。皆様ありがとうございます!
今回も十日以上前に書き始めてたのですが、仕上げられないままupがずるずる遅れてしまいました~;;
そうそう、コナンくん原作! ものすごい進展がありましたよね。かなりびっくりしました。点が一気に線につながったって感じです。引き続き目が離せません。そしてキッド様原作も是非!進展をお願いしたいです~(^_^)ノ
#SMAP25YEARS
[13回]