原点(新一×快斗)
※快斗くん視点、軽め短めを目指したんですが…(+_+)。
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工藤がまた突拍子もないこと言い出した。
「なぁ、快斗…実は不満だったりしてねえ? 」
「なにが」
「いつもされるばっかで」
「………………」
ん? と、工藤が目でもう一度訊ねる。
どうして真顔でこんなこと訊けるのか神経がわからねぇ。
「…べつに」
「無理すんなよ」
なんて返事してほしいんだよ。
「な。今夜試してみねえ? 逆バージョン。一度くらいやってみてもいいぜ」
一度くらい、いいぜ。かよ。
「いい」
「なんで」
「なんででも」
「でもさ」
「うっせーな、べつにテメーのことなんかヤリたかねーよ!」
「なんでだよ」
工藤がムッとした顔する。自尊心傷つけたかな?
…考えたことねーし。
「快斗がいいならいいけど。気ぃ使って言ってやったのに」
この。恩着せがましい言い方しやがって。
「言っとくが俺はなぁ!」
「おれは?」
――俺は。
考えたことない。
工藤を抱く、なんて。
「快斗」
「なんだよ」
「顔赤いけど」
「うるせーな、もう」
「言いたいことあんならはっきり言えよな。そーいう曖昧なとこ、おまえホント弱点な」
くそ。アタマにきた。シカトだ。
俺は工藤の前をすり抜けた。
二階のベランダから外に出て手すりに足をかけ、屋根に飛び乗る。
「快斗!おいっグレんなよ、戻ってこいっ」
「グレてねーよ。 先に風呂入れよ、俺少し月見てっから」
……風呂行ったかな。部屋から気配がなくなった。
おぼろに霞むお月様にグチる俺。
ふん。ばかやろ。俺はなぁ。
もともとオトコが好きなわけじゃねえ。オトコとセックスしようだなんて考えたこともなかった。
そんなこと言ったら、そもそもなんで工藤が俺を求めてくんのかわかんなかったし。
俺は、ただ……
ただ、こんな無神経ヤローだってのに――好きなだけなんだ。
工藤が。
工藤だから、応えてるだけなんだ。
だけどそんなこと工藤本人に言えるわけない。言ったらすげえバカにされそうだし。ハズカシーこと言われて笑われそうだし。
ホントにほんとのこと言ったら、セックスしなくたっていいんだ。そばにいるだけで。ちょっと触れ合って、体温を…生きてるって確かめられれば、それでいいんだ。
いつまで側にいられるかわからないから。だからいられるあいだ、なるべく側にいたい。
それだけなんだ。
カツン!
「?」
ハシゴ……。えっ?
快斗ぉ。と声がして、下から工藤が登ってくる。
「ば……なにやってんだ工藤!」
「いま行くから逃げんなよー」
ばか。危ねえよ。月見てるだけって言ってんのに。
「やめろっ工藤、危ねーって 」
「大丈夫大丈夫。対快斗用に用意しておいた秘密兵器だから」
ハシゴが? アホかい。
「ばぁ」
顔を覗かせた工藤がフザケた声を出す。
「ばあ、じゃねえよ」
「中に入れよ快斗。一緒にいたくて呼んだんだから」
「…………」
また真顔でコイツは。
上半身だけ屋根の上に見せて、工藤が手を俺に伸ばす。
誰かに見られるとなんだし…仕方ない。工藤の方に近付いた。
その時。
ふ、ふえっくしょ! と、工藤がくしゃみをした。
え…。あれ。
スローモーションのように工藤がゆっくり遠ざかる。伸ばした手が――。
って、、やばい!! ひっくり返る!!
アホー!!!!
「ひー」
「……ったく、ひー、じゃねえよ。なんでくしゃみなんかすんだよっ」
「仕方ねえだろ、出ちまったもんは」
「でかい声だすなっ。こんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ」
なんとか工藤を屋根に引っ張り上げた。
「ああー、びっくりしたぁ。ハシゴは?」
「向こうの木に引っかかってる」
「やべ。手が震えてら」
俺も震えてた。ヒヤリとした。もし工藤が落ちてたら……。
「ハシゴなんか持ち出しやがって。もうすんなよ! 怪我どころじゃねーぞっ」
「そりぁ快斗しだいだろ」
「人のせいにすんなよ、なんでも」
屋根に着いた手が触れあってた。
工藤が俺の手を握る。
「屋根の上がいいなら、しょうがねえな」
「バッ、バカッ。降りるよ!」
「最初からそう言え」
まったく。全然反省してねえし。
二人で屋根から工藤の部屋のベランダに降りた。
「やっぱ身軽だな、さすが怪盗」
「褒めるとこかよ」
なんだかおかしな晩だ。
それもこれも、工藤がヘンなこと言い出すからだ。
部屋に戻ってキスをしたら、少しホッとした。
「じゃ、今夜はヨロシク」
「まだ言ってんの? やだよ」
「なんでだよ。オレに魅力がないってことかよ」
シツコイ。
俺はやっぱりまた逃げ出した。次はバスルームに籠城してやる。
逃げる俺。追う工藤。いつもどおりだ。
一緒にいて楽しければいい。
二人の夜なんだから――。
20120503
[6回]