掠れた記憶2(新一×快斗)
※2012.11.19up「掠れた記憶」続編。お約束な感じです…(*_*;
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目が覚めると隣に工藤が寝ていた。
驚くと同時に、ホッとする。
なんかおかしいけど。
工藤と一緒にいて安心するって。
早朝の陽が差す天井をぼんやり見上げながら、自分にツッコミを入れてみる。
工藤は探偵で、俺は怪盗。宿敵だ。
追う者と追われる者。騙す者と解き明かす者。決して相容れることのない相手だったはずだ。
それなのに…。
ズキンと頭が痛む。目をぎゅっと閉じて、包帯を巻いた頭を指で押さえた。
……なのに、なぜか覚えてるんだよな、この視界。工藤の部屋を。
俺は知ってる。
確かに以前にも俺はここで────。
(!)
工藤が寝返りを打った。
吐息がさらに近づいて、妙に焦る。
昨夜、工藤は俺を〝一時的な記憶障害〟だと言った。落ち着いてくれば思い出すって。
……思い出すって、何を?
「どうだ、痛みは」
「えっ…」
工藤は目覚めていた。 息がかかるほど間近で話しかけられ、振り向けない。
「痛いけど、昨日ほどじゃない」
「吐き気は」
「…だいぶいい」
「よかった」
てか、この寄り添い具合、フツーじゃない。
ヤバいだろ、この距離感。
「快斗」
「…なに」
「思い出さないか。オレのこと」
「…………」
判らない。工藤が何者なのかは判ってる。判ってるけど、たぶんいま訊かれてるのはそういう意味じゃない。
俺を助けて、俺を匿(かくま)って。医者の往診の後は夕べからずっと二人きりだ。俺を見張っているのかというと、そんな感じでもない。ただひたすら優しくて、その工藤の優しさに懐いてる自分がよく解らない。
ふ、と温かいものが目元に触れた。
(あっ)
工藤が動く。どきんと心臓が鳴った。
工藤の手のひらに頬を包まれた───と思ったら、もう唇を覆われていた。
キス…?!
キスしてる……工藤と…!
温かく、二度、三度と唇を啄(ついば)まれて、湧き上がる熱にぼうっとする。
「………」
唇が離れた。 工藤の瞳に、まん丸に目を見開いた自分が映っている。
「…あ、あの」
「だめか」
「え…」
「んじゃもう少し」
「え…? おい、待て」
工藤が俺の上に乗っかってくる。
な、な。 もう少しって何すんだ、コラ。
金縛りだ。
動けない。まだ体があちこち痛い。
でも痛いから動けないんじゃない。工藤の目が。覆い被さってくる工藤の俺を見下ろしてくる瞳が真っ直ぐすぎて、顔が逸らせなくなる。
(わ…!)
腕を捕られ、唇が合わさった。だけでなく、今度は工藤の舌先が俺の唇を辿ってくる。
・・・工藤~っ (@@)!!
むぐぐともがくと、工藤は唇を離してまた俺の目を覗き込んだ。
「……どうだ?」
「どう…って」
「思い出さない?」
「…………」
「困ったな。オレが保たなくなってきた」
溜め息を付いた工藤の体が熱い。パジャマ越しに硬くなった工藤を感じて、俺も全身硬直する。
「やっちゃおうかな…。そうすれば思い出すかも」
「ヤメロ」
「なんで?」
「と…とにかく、ヤメロ!」
内心ドキドキしながら突っ張った。
ここまで来たら、さすがの俺も気が付く。まさかと思ったけど、そうなんだ。俺と工藤はデキてんだ。しかも工藤が上!?
「もしかして思い出せない振りしてるんじゃないだろうな」
「バ、バカ言うな、振りなんかするかっ。 テメーこそ人を惑わすんじゃねえ!」
「元気出てきたな。よかった」
またチュッとキスを落とされた。カアアと俺の熱もさらに上がる。なんなんだ、この甘々な感じは!?
「どけよ! ベタベタすんなっ」
「なんだよ…、もしかして、またイチから始めなきゃなんねーの?」
ちょっと淋しそうに、そして嬉しそうに工藤は微笑んだ。
『イチからって何だよ』とは、もう訊けなかった。恥ずかしすぎて。
思い出せそうで思い出せないもどかしさと、思い出すのを躊躇ってる自分がいる。
思い出したら動けなくなる。ここから逃げられなくなる。それが分かったから。
ずきん。
「てっ…」
「どうした」
「頭が痛い」
「さっき大丈夫って言っただろ」
「テメーが変なことすっからぶり返したんだよ、バカヤロウ」
精一杯の憎まれ口をきいて、そっぽを向く。
溜め息をついた工藤に包むように寄り添われて、俺もでっかい溜め息をつき返してやった。
もう少し時間をくれよ…。そう呟いたオレの心を見透かすように、工藤は俺に囁いた。
〝いいけど、逃がさないぜ〟と。
20130112
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※うーむ、書き始めた時は勢いでR18になるかも?と思ってたんですが、快斗くんがケガしてるのを思い出して控えてしまいました。やりたかった気もするんで、不完全燃焼ですっ…(*_*;
[11回]