シルエットロマンス《2/2》(コナン&快斗)
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「オイおまえら、しってっかよ! 昨日ばくはつした東都タワー、怪盗キッドのしわざらしいぜ!」
「ボクもテレビのニュースで見ました。なぜ爆発物をしかけたのか、キッドの目的がわからないとかで」
「ヤダ、ちがうよ光彦くん、元太くんも! キッドはばくだんなんかしかけないもん! 歩美、キッドをしんじてるもん!」
だけどよ~キッドは泥棒だぜ、とか。確かに怪盗紳士と呼ばれるキッドが爆弾を使うなんて考えにくいです、とか。とにかくキッドはゼッタイそんなことしないもん!とか。
阿笠邸に集まった少年探偵団のデコボコ三人組がキッドの話題で盛り上がっていた。話の内容はさておき、怪盗キッドが久々に白い翼で都心の夜空を駆け抜けた映像は、それなりに報道され世の歓心を買っているようだ。
警察にはコナンくんが工藤新一の声で電話して『爆弾とキッドは無関係』だと根回ししてくれたようだけど────。
「タワーを大きく損壊する程ではなく、最上階のスタッフルームと、その近くの非常口付近だけが吹き飛ばされたとか?」
「へー、そうなの?」
「飛び散った破片類は下の展望台の屋根に墜ちて、地上には落下しないですんだそうだから…不幸中の幸いだったわよね。ね、黒羽のお兄さん」
意味深に哀ちゃんにチロリと見られる。
俺はえへへと愛想笑いした。なんか見透かされてるみたいだ。バレてんのかなぁ、俺がキッドだって……。
昨日の事の始まりはこうだ。
博士が出品した発明品展示会の会場で、コナンくんが〝黒の組織〟のメンバーを見つけ、博士が止めるのも聞かず単独で尾行を始めた。そもそもそれが無茶だった。
途中で尾行に気付かれて東都タワーに誘導された可能性が高い。挙げ句に捕まって監禁され爆殺されるところだったんだから、本当にシャレにならないっつの。
ちょうど俺が工藤んちに着いたとこに哀ちゃんが連絡くれて、予備のレーダーをすぐ貸りられたから良かったけど。間に合ったから良かったけど。
だけど、けっこうギリギリだったじゃん。けっこう、危なかったじゃん。
なのにアイツときたら────。
もし俺が駆けつけなかったらどうする気だったんだよ、と訊いたらコナンくんはニヤリと笑ってこう言った。
『決まってるさ。残り30秒になったらコードを引き抜くつもりだった。ただ爆発を待つよりは望みがあるだろ』
まったく懲りてない。
『でも心配してなかったよ。探偵バッジがちゃんと作動してたし、きっと灰原や快斗が俺を見つけてくれると信じてた』
ほんっとーに懲りてない。
テレビで流れたキッドの映像は一般人が撮影したぼけぼけ動画だったけど、解析したら俺が腕にコナンくんを抱いているのが判るかもしれない。
コナンくんが助かった事を、昨日の犯人が知ったら。もしコナンくんが工藤新一だと、黒の組織にすでに知られてるんだとしたら……。
なんだか、不穏だ。
コナンくんの周りがどんどんヤバくなってる気がする。
「快斗」
「ああ?」
いつの間にか俺の横にコナンくんが立ってた。
「早く来いよ。みんな先に喰ってるぜ」
「え」
あーっ、俺が差し入れたアイスケーキ! げっ、最後の一切れ、元太に喰われる!!
アブねえッ!! 俺は間一髪で残りの皿を元太の前からかっさらった。
「んだよお~。見習いのくせにセンパイの横取りすんなよな!」
「オメーはもうたらふく喰っただろーがっ! 口のまわりベットベトにしやがって」
歩美ちゃんと哀ちゃんに笑われた。ふう。
ソファーに座りなおして、俺はアイスケーキをスプーンですくって食べた。んんん、やっぱんまい♪
「…………?」
俺の横にちょこんとコナンくんが座る。
「ん…? なに?」
「いや。何でもない」
「一口ならあげるけど?」
「いいよ。食えよ」
「そ?」
ぱくん。んん~、んま、んま(^^)。
「快斗」
「ん?」
「オレ、先に家に戻ってるから」
「え? じゃ俺も帰るよ」
「ゆっくり食ってから来いよ。じゃな」
「う、うん…」
コナンくんが博士に声をかけて出て行く。
────なんだろ。変に優しいコナンくんの目。なんかどきどきした。
アイス食べ終わって、子供たちと一緒に後片付けを手伝って、みんなとバイバイして俺も阿笠邸を出た。一瞬塀を乗り越えちゃおうかと思ったけど、やめといた。
「ただいまー! コナンくん?」
あれ? どこ?
バスルームかな。
洗面所を覗いたけどコナンくんはいなかった。バスルームにもいない。
「おおーい、コナンくん、どこ?」
二階に上る。
工藤の部屋。…俺たちの部屋のドアを、ノックした。
「コナンくん」
しーん。
「………」
ちょっと考えた。もしかして。
「…工藤?」
すると、〝入れよ〟と中から声がした。コナンくんの声だったけれど。
「た、だ、い、まー…」
ドアを開けると、部屋は暗かった。
小さな体のコナンくんの工藤新一が、ベッドに座ってこっちを見ていた。
「コナ……工藤」
呼んだら、工藤がぱっと飛び降りた。
────昨日と同じだ。
気が付いて、俺は膝を着いた。
コナンくんが、いや……工藤が俺に飛びついてくる。軽い体を抱き締めた。
「…どした。工藤」
「昨日さ…」
「ん…?」
「キッドが…来てくれた時、オレ……」
「…………」
黙って待ったが、工藤は言葉を途切らせたまま口を噤んでしまった。
「なんだよ」
「ううん。ありがとうって、ちゃんとキッドに言わなきゃと思って。それから」
「それから?」
「それから、みんなと仲良くしてくれてありがとう……快斗」
……あ。コナンくんの姿の、工藤からのキス。
なんだかちょっと切ない。唇が小さくて。
重ねた温もりが儚くて。
俺たちは、しばらくそうしていた。
灯りも点けずただ抱き合って、お互いの温もりに顔を埋めていた。
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光の中に現れた怪盗のシルエット。
まるで初めて逢った時のように、胸が高鳴った。
オレにとって……震えるほど、泣きたいほど懐かしい記憶だ。
飛びついて抱き締められた時、それが夢でないことが嬉しくて、本当に嬉しくて、たまらなかったんだ。
キッド。快斗。愛してる────。
愛してる……。
20130111
[10回]