シンデレラ・コンプレックス(新一×快斗)
※年明け5日目にこっそりup…(; ;)
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快斗は判りやすいというか、何でも顔に出るタイプだ。少なくともオレよりは。
その判りやすい快斗が〝あのミステリアスな怪盗〟であることが、実は未だにオレは納得できていない。
ぐきっ。
「ぎゃ!」
いきなり両頬を掌で挟まれ、首の向きを変えられた。
「なっ、なにすんだバ快斗! 首がおかしくなんだろ!」
だってぇと快斗が口をとがらせ不満気な声を出す。
「さっきから何考えてんだよ」
「べつに」
快斗のヤツ、むーと押し黙ったと思ったら、プイッとそっぽを向いて立ち上がった。
「帰る。またな」
え、なんで? と言かけたけど、快斗の態度にムカッときたからオレも素っ気なく頷いた。
「そうか。じゃな」
快斗はコートを掴むとオレに背を向け、そのまま無言で部屋を出て行った。
「・・・」
バタバタと階段を降りる気配がし、続けてバタンと玄関のドアを閉める音が響いた。
なんだよ。快斗のヤツ、本当に帰ったのか?
大晦日に帰国した親父とお袋が正月三が日を過ごして今朝ロスに戻った。
これからがやっと自由時間。楽しく過ごすつもりだったんだ。快斗と。
それなのに…。
なんだよ。
もやもやっと訳の分からない感情が膨れる。
立ち上がって窓を開け『快斗、待て!』と呼び止めたいのをなんとか堪えた。
だってオレは何にもしてねーし何にも言ってねえ。快斗が勝手にむくれて出てったんじゃねーか。
オレが折れる必要なんかねえ。
オレが快斗の機嫌をとらなきゃなんない理由もない!
手元にあったクッションを掴み上げてギューッと両手で押しつぶしてから足下に投げつけて、それでも収まらなくて踏んづけたら滑ってバランス崩して尻もちを付いた。
「痛ってえ!」
必要以上に大きな声が独りの部屋の壁に跳ね返った。
そのまま大の字に寝転ぶ。
…なんでこうなった?
ついさっきまで、晩飯はどうするかとか初詣はいつにしようかとか話してたのに。
話してて──。
楽しくてドキドキしてた。
快斗の笑顔が生き生きしてて。
キラキラ光る大きな瞳とか。ちょっと火照った赤いほっぺたとか。アハハと笑う声の明るさとか。
やっぱり怪盗とは結び付けられなくて、不思議でたまらなくて。それで怪盗キッドのことを思い浮かべたんだ。
キッドの涼やかな声や眼差しを。
すっと伸びた姿勢の美しさ。
風にたなびく長いマントに見とれて動けなかったこと。
細いうなじや、手袋とシャツの間からちらりと覗く素肌の滑らかさを思い出して。
それで…声だけ聞いてみたらどうだろうと思って目を瞑ったんだ。
そしたらいきなり〝ぐき!〟って。
だってぇとか甘えた声出しやがって。
ムッと膨れっ面した快斗はどう見ても怪盗とは結び付かなくて──。
ズキンと突然胸が痛んだ。
あれ、オレ、なにやってんだ?
快斗はオレに会いに来たんだ。だけどオレが他のことを考えて(怪盗キッドを思い浮かべて)たから…。
ズキン、ズキン、とまた胸が痛んでイテテと唸った。
オレは跳ね起きた。
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陽が暮れてきた。
風がヒューッと音を立てて吹き過ぎる。
「さぶっ!」
手の甲で触れたら鼻先がメッチャ冷たい。小さな公園のパンダの遊具に跨がって、俺は情けなくため息を付いた。
工藤の素っ気ない声を思い出して泣きたい気分になる。
楽しみにしてた残りの冬休み。
工藤といられると思ってクラス仲間の誘いも幼なじみんちの新年会も寺井ちゃんとこのパーティーも全部断ったのに…。
「なんですぐ痺れ切らして帰るとか言って出てきちゃったんだろ、俺」
工藤が呆れるのも無理ねえか。工藤にしてみりゃ来たと思ったら急にへそ曲げて帰るとか、ワガママなガキンチョにしか見えねえだろうな。クールな怪盗とは程遠い。
幻滅するのも無理ないか…。
──ビュウウウ!!
「って寒む! まじ寒む! 風邪ひいちまう!」
凍えるような冷たい風だ。遊具から降りてポケットの手袋を探った。
あれ?片っぽしかない。あれ?
「まじかよ…無くした?」
工藤んちに着くまでは両手にちゃんと嵌めてたのに。
情けなくて本当に涙が出そうだ。
((快斗))
「………」
風の音。工藤の声に聞こえるなんて重症だよ。
いま戻れば…赦してくれるかな。
なんて謝ろう。
もしかして怪盗キッドになってけば喜んでくれたりして。
だけど、もしそれで工藤がメチャクチャ喜んだら、俺もう二度と黒羽快斗として工藤に会いに行けない気がする。
黒羽快斗じゃ名探偵に興味持ってもらえないって認めんの、悲しすぎる…。
「ブツブツなに言ってんだ、快斗」
「へ?」
風の音にしては長い台詞だ。
俺は顔を上げた。鼻水出そうになる。
「……くどう」
「落とし物」
「あ」
手袋の片っぽ。
「これ、どこに」
「門を出てすぐ右にあった。帰るって言ってなんで駅と逆方向なんだよ、シンデレラかおまえは。帰るぞ」
「シンデレラ?」
「いや、落としていったの硝子の靴じゃないけどさ」
工藤がモゴモゴ言う。
「こんな毛糸のじゃなくて、怪盗のシルクの手袋の方が良かったか…」
「何言ってんだ。おまえは怪盗じゃなくて黒羽快斗だろ」
その言葉にハッとして工藤を見ると、なんともいえない照れくさそうな顔をして工藤は目を泳がせていた。
「工藤?」
「なんだ」
「顔……真っ赤だぜ」
「快斗だって赤い」
「俺は木枯らしのせいで」
「いいから。ほら」
工藤が革の手袋嵌めた手を俺に差し出す。
ちょっと躊躇ったけど、俺はその手に毛糸の手袋嵌めた自分の手をポンとのっけた。
ぎゅっ。
「いて!ばか、工藤」
「痛かったのはこっちだ。首傷めたらおまえのせいだぞ」
「ゴメン」
「このまま初詣行っちまうか」
「ああ、そうすっか」
「行こう!」
手袋して繋いだ手はそれほど抵抗なくて。
冷たかった鼻先も心もポカポカしてきて。
気が付いたら一緒に笑ってた。
工藤と二人で、笑いながら走っていた。
20170105
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※お粗末様です(>_<)。昨年末は更新らしい更新ができないまま終わってしまい…たまに様子見に来て下さっていた方、申し訳なかったです。
引き続き、以前ほどの更新は出来そうにないかもですが、今年も細々ブログ続ける所存です。遅れましたが本年も何卒よろしくお願いいたします。
次は具体的にイチャイチャした話を書きたいです~。ご無沙汰なので(^-^;
★拍手御礼★
「七色の月」「蹴撃」「危弁」「チビ新快」「ハニームーン」「特別な響き」「白昼夢」
京極さんとのお話へ貴重な拍手、ありがとうございました~!(^^)!
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