焔―ほのお― (新快前提 白馬→快斗)
※しばらく前になりますが9月8日アップ『逢魔が時』の続編的内容です。
新一快斗はまだ出逢って日が浅く、思いを通わせて間もないという設定です。
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黒羽が倒れた。俺の目の前で。
貧血を起こしたのだ。
俺が倒れた黒羽に手を伸ばそうとすると、黒羽の側に屈み黒羽の脈を看ていた白馬に手を弾かれた。
「君が付いていながら」「君には黒羽は任せられない」――白馬はそんな言葉を吐き捨て冷ややかに俺を一瞥すると黒羽を抱き上げ、くるりと俺に背を向けた。
気を失った黒羽が白馬に連れ去られる。待て、と叫ぼうとしたが出来なかった。
俺ではダメなのか…本当に。迷いは叫びをかき消し、俺は白馬と白馬に抱かれた黒羽を茫然と見送った。
ただ、茫然と立ち尽くして――。
「……あ…れ」
「気が付きましたか、黒羽くん」
「白馬…? ここ…どこだ」
「僕の部屋です。君は貧血を起こして倒れたんですよ。覚えていませんか」
体を起こそうとしたができない。全身が鉛のように重い。昨夜血を流しすぎた。
「…………工藤は?」
「忘れなさい、彼のことは。彼には君は守れない。彼にも伝えました」
「なに言ってんだよ……。別に守ってもらう必要なんかねーよ」
「これでもですか」
油断していた俺の腕を掴むと、白馬が俺の制服の袖をさっとめくった。手を引こうとしたが遅かった。
「……こんな傷を負っても君は怪盗をやめる気はないのですか」
「放せよ」
「放しません。君も思い知るべきです。自分の弱さを」
掴んだ俺の腕を抑え、白馬が俺に迫る。
「他者を傷つけることが君に出来ますか」
「……どけ、白馬」
「どかせてごらんなさい。出来ますか。君には僕を――殺してでも逃れようとする意志がありますか」
「バカ言うな」
「前に一度警告したはずです」
「…………」
「逃れたければ、逃れてみせなさい」
そう言うと、白馬は俺の上着に指をかけた。
「白馬っ」
「拒むなら本気で拒みなさい。さもないと……このまま僕は君を」
貰いますよ――と、白馬は低い声で俺に告げた。
白馬は本気だった。ボタンが外され、上着の前が開かれる。
俺はかろうじて一枚忍ばせていたトランプのカードを取り出して白馬の前に翳した。
「やめろ、白馬。このカードは…引けば切れる。おまえが危ぶむほど俺は弱くない」
白馬は、フ、と微笑むとカードを持つ俺の手を掴んで自分の頸動脈にカードの鋭利なヘリを押し当てた。
「どうぞ。やりなさい。僕は今ここで君に殺されても構わない」
冷めた声で発せられる白馬の激しい言葉。
「さあ……!」
柔らかな髪が頬に触れた。
黒羽が僕の胸に体を預けてきた。
僕は不覚にも一瞬戸惑い、掴んでいた黒羽の手を両方とも放してしまった。
黒羽が自由になった手で僕の背を抱く――。
「白馬が言うように……俺が怪盗キッドだったら、やるさ」
「……だったら、とは」
「でも俺はキッドじゃねぇ。おまえのクラスメートでダチの黒羽快斗だ」
「まだ…そんなことを」
「本当さ。黒羽快斗がダチに怪我させるわけないだろ。今のはハッタリさ」
思いつめていた僕の毒気は瞬時に抜かれ、黒羽は僕の手を離れた。
部屋から出る前に黒羽は一度立ち止まると『ごめん白馬……ありがとう』と言い残した。
何が『ごめん』で、何が『ありがとう』なのか。
立ち去る黒羽を窓から見ていると、どこからかもう一つの影が現れ、黒羽に寄り添った。工藤新一だった。
ふたりは短く抱擁しあい、足元の覚束ない黒羽を工藤が支えながら去っていった。
僕はそれを一部始終見ていた。燃え盛る黒い焔に胸を灼かれながら……。
20111205
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あとがき
完全に三角関係にハマりました(汗)。
先月中旬以降にアップした『月無夜―傍観者―』『ホスピタル』『ユクエフメイ』と続けたせいでしょうか。
冒頭シーンの場所がどこか、昨夜何があって快斗が傷を負ったのかは説明くさくなるのでバッサリはしょってます(いいわけです;スミマセン)。
そして今回こそ白馬君に最後までさせちゃおうという案もあったのですが、結局させられませんでした…。
白馬君の「~しなさい」という命令口調に萌えてる自覚が出てきたところで、今回はやめときました。今回もごめんね白馬君!(*_*;
(補足の蛇足)
完全別枠扱いのつもりだったダークサイドのお話『ブラックジョーク』が、今回の話の後だったら有り得るかも的な気がしてきました……。まだご覧になってない方でコワい白馬君でも怖くないという方いらしたら、そちらも合わせてご覧ください。
2011年10月16.17日アップ分です。
[10回]