月光リフレクション《蜜月2/2》(キッド×新一)R18
カテゴリ★インターセプト2
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「では、どうかお許しを…名探偵」
俺は工藤を見詰め、工藤を支えるように手を着いた。
工藤─────。
「…?!」
しかしその瞬間、突然工藤が跳ね起きた。
押し退けられた俺は背中からシーツにひっくり返った。
「キッド!!」
真っ赤な顔をした工藤が、俺を逆に抑えつけてくる。
「名探偵… 何をなさるんです」
「キッド…。オレは…オレは…!」
工藤は思い詰めた目をして吐息を震わせている。
俺は怪盗の眼差しを崩すことなく工藤を見上げ、フッと微笑みかけた。
「手をお放し下さい、どうか」
工藤がうううと唸る。
「まさか、この期に及んで約束を反故に…? 私に名探偵を愛させては下さらないのですか」
うう、と工藤はまた唸ると目を閉じて首をぶんぶん左右に振った。そして、がばっと覆い被さるように俺に抱きついてきた。
工藤の肌が熱い。ずきんと胸が鳴った。
「キッド…、オ、オレ…」
「…名探偵?」
「いや…、いや。守る、守るよ約束は。でも」
工藤が俺を抱き起こす。
そして俯いたまま、ひとつ大きく息を吐き出した。
「キッドも……裸に…なってくれるか?」
「え?」
「オレだけ…裸で、イヤなんだ」
「………シャツ」
「ぬ、脱ぐよ、これも。だからキッドも…一緒に裸になってほしい」
早口でそう言うと、工藤は俯いたまま唇を噛んだ。
俺は前をはだけただけで、シャツもスラックスも完全には脱いでなかった。
それが工藤に抵抗を覚えさせていたとは思わなかった。工藤がここまでナーバスになっていたとは。
俺は俺で、モノクルまで外させたのだし、多少なりともキッドらしさを残しておこうとしたのだが。どうやらそれが逆効果だった。
いくら体の負担を思いやっても〝心〟の不安を取り除くに至ってなかったということか。〝約束〟という思いが工藤にとってプレッシャーになっているのかも。
「名探偵がそうお望みなら」
「キッド…」
自分でタイを外すと、工藤が手を伸ばしてきて俺のシャツを剥いだ。俺も工藤が羽織っていたシャツを脱がせた。最後に俺が下肢を覆う衣類を取り去ると、工藤は本当に嬉しそうに笑った。そして俺にキスをした。
二人とも裸になって抱き合って、何度もキスをして笑い合った。
やがて工藤は意を決したように自分から横になった。〝好きだ…キッド。快斗も、キッドも、どっちもオレの大切な恋人だ〟と─────そう言って。
深く穿つと、工藤は苦しそうに眉を寄せ、俺を探すように宙に手をさまよわせた。
その手をたぐり寄せ、指を絡める。
キッ、ド、 …と工藤の唇が動く。
俺は頷いて、ゆっくりと体を揺らし始めた。
工藤。
好きだよ。
俺は知って欲しかったんだ。
俺の想い。
俺がどんな想いでおまえを受け入れ、おまえを感じ取っていたのか。
どんなに切なく心震わせ、どれだけ狂おしくおまえの鼓動を覚えていたのか。
おまえに知っていて欲しかった…。
工藤。
俺の恋人。俺の片割れ。
俺だけの。唯一人の。想い人…。
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どこか儚い快斗の横顔に胸を衝かれ、ぐいっと肩を引き寄せた。
「ん…なに? もっかい?」
「快斗になってるぞ」
あ、と快斗は自分の顔をパチンと叩いた。
「もう一度ご所望でしょうか?名探偵」
オレは吹き出した。
「遅い。どうやらキッドは逃げて行っちまったようだな」
「ちぇ」
膨れる快斗の頬を包んで持ち上げ、オレは快斗に今夜何十回目かのキスをした。
「工藤、体…大丈夫かよ?」
「訊くな」
もぞもぞすると、快斗は声を出して笑った。
「な…工藤、始め俺がいこうとした時、おまえ急に起き上がって邪魔しただろ。あれって…」
「う…いや、それは…その」
あの時、恐怖と羞恥が極限に達して(つまりビビッた)オレは思わず跳ね起きてしまった。そして位置関係がキッドと入れ替わった時、このままオレがキッドを抱いてしまえば…などと姑息な考えがしつこく脳裏をよぎったのは確かだ。
だが、それは現実には出来ることではなかった。
今夜が〝特別な夜〟だという事は、オレだってよく解っていたから。
「ひでえ。マジで俺をやるつもりだったのかよ」
「ち、ちょっと思っただけで、出来ない…出来なかったよ」
「ふうん? 本当かねえ」
「本当だよ。もうあの時…オレ、キッドに…メロメロだったもん」
「ほー。じゃあなんで」
「それは…ま、暗示というか…思わずというか…習性というか」
快斗はひじを着いてオレを見て、どんな暗示だよ、と言って笑った。
また次の機会には、オレは今夜の貴重な経験を生かしてもっと深くもっと大事に快斗を愛するんだ。
そう思いながら、オレは快斗に寄り添って眠った。
夜明けに目覚めると、すでに快斗は消えていた。
キッドも快斗も本当に逃げ足が早い。
少し淋しかったが、オレは快斗の温もりを思い出してもう一度眠った。
夢に見るのはキッドだろうか。快斗だろうか…。
いや、どちらも同じ…オレの恋人だ。
間違いなく。同じなんだ。
一週間後、例によって連絡がつかない快斗に呆れ、オレはメールを打ちまくっていた。
さらに二日後。メールがエラーになって戻ってきた。
オレは時間をおいて何度もメールを送り直した。
その度にメールはエラーメッセージとなって戻ってくる。
オレは電話をかけた。嫌な予感がした。
〝この番号は現在使われていません…〟
深夜、機械的なメッセージを遠く聞きながら、オレは自室の窓を見上げて立ち尽くした。
冴えた月明かりが、窓ガラスに反射して光っていた。
20130521
[12回]