言伝─ことづて─《2/2》(新快前提 白馬×快斗)
カテゴリ★インターセプト2
※引き続き白馬くん視点。
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しかし、黒羽は捕まらなかった。
彼がいつ姿を消すかと思うと、気が気ではない。
僕はいよいよ本気で彼を捕まえることにした。そうでもしないと黒羽と話が出来ないのだから。
屋上で話を聞いてから三日目。金曜の放課後だった。僕はクラスの生徒に頼んで黒羽を呼び出した。先生が職員室で呼んでいると偽って。
廊下を曲がってきた黒羽の背後に近寄り、首に腕を回した。アッと黒羽は一瞬身を硬くしたが、僕と気付くと諦めた眼をして大人しくなった。
他の生徒達が笑いながら行き過ぎる。ふざけ合っているくらいに見えただろう。
待ち伏せていた談話室に入るよう促した。
渋々といった様子で黒羽が従う。
「……先生の呼び出しってテメーの嘘だったのかよ。ったく、まわりくどいことしやがって」
「君が逃げ回るからでしょう!!」
「おめーがみんなの前でズカズカ近寄るからだろ」
「君はねえ…! あんな事を言うから、僕は気になって」
「俺、なんか言ったか? おまえに」
ダン!と僕は談話室の机を力任せにグーで叩いた。犯人に自白を迫る刑事のように。
「君は、いったいこれから何をするつもりなんですか」
「別になにも」
「白々しい。もし何か危険な事をするつもりでいるなら──────僕は君を捕らえて、一月でも二月でも閉じこめて外に出しませんよ」
「あほか。なに言ってんの」
「本気ですよ、僕は!」
壁際に立つ黒羽の制服の襟に、僕は掴みかかった。
「離せよ」
「僕の質問への答えは?」
「何の質問だよ。しらねーよ」
「ではなぜ〝戻ってこなくても心配するな〟などというふざけた言伝を僕に託したんです!」
「そんなこと言ったっけ」
「言ったでしょう、屋上で! まったく…なんなんですか、君はいったい。僕をこんなに……」
こんなに。
こんなに心配させて。惑わせて。
だが、見下ろした黒羽は平然とした顔で激高する僕を見つめていた。ますます頭にくる。
「……工藤新一は、知っているんですか」
「は?」
僕が出した名前を聞いた黒羽の表情が、僅かだが強張った。それがさらに僕の激情を煽る。
何だろう、この異様な焦りは。
なぜ僕はこんなに怒っているのか。
いや…違う。
僕は嬉しかったのだ。
黒羽に密やかな言伝を託されたことが。
黒羽にほんの少しでも頼られたことが。
だが、あれがもし黒羽が〝日常〟から逸脱するために残す言葉なのだとしたら……あまりに簡単すぎやしないだろうか。
僕や、幼なじみの彼女や、先生や、多くのクラスメート達を置き去りにして、いったいどこへ向かうというのか。
「白馬……」
「………」
ふと我に返ると、僕は黒羽の背を壁に押し付け、抑え込んでいた。
黒羽は真顔で、ただ僕を見上げている。
一つ息をついてから、僕は言った。
「…下手に抵抗すれば、僕がますます逆上すると思っているんでしょう」
「分かってんなら早く放せよ」
「来週ちゃんと登校しますか」
「たぶん」
「たぶん、ね……。もし君がやむを得ない事情でどこかへ旅立つと言うなら、いつなのか教えて下さい」
「わからない」
「これだけ言っても話してくれないのですか」
「……………」
黒羽の瞳。近かった。
黒羽の唇に目を奪われる。
とくん、と鼓動が跳ねた。
狭い部屋を不意に意識する─────。
僕の気配の変化に黒羽も気付いたようだ。僕自身も驚いていた。
そうか…。
僕は黒羽に惹かれているのだ。
だからこの場に関係ないはずの工藤新一の名を出し、それに反応した黒羽に思わず逆上した。
つまり……嫉妬だ。
僕はゆっくり黒羽に顔を近づけた。
黒羽は動かない。意地っ張りめ。
息がかかるほどに顔をよせて、僕はもう一度囁いた。
「黒羽くん、君をこれ以上危険な目に遭わせたくない」
「これ以上って?」
「怪盗として、白い翼で標的になりながら飛び回ることです」
「なんのことだか……」
僕は黒羽に口付けた。
唇を押し当てている間じっと息を潜めていた黒羽だが、僕が舌を忍ばせようとするとハッとしたように顔を背けた。
「黒羽くん、君は……工藤新一とは」
「どけ、バカやろうっ」
もがく黒羽を僕は抱き締めた。
制服の下の華奢な体躯を感じて思わず腕に力がこもる。深く抱え込んで黒羽の髪に顔を埋めた。
「あーもう、放せっ。わかったからっ」
「本当ですか…。危険な事は極力しないと約束して下さい。そうでなければ、僕は君をこのまま拉致します」
「んなこと言われても……。もう…なんだよ、テメーは。人選誤ったよ」
「申し訳ないですね。では人選誤りついでに、僕に君からのキスを下さい」
「な…、調子に乗んじゃねえや!」
「お願いです。君からのキスが欲しい。僕は今やっと気が付いたんです。僕は、君のことが」
「バカ、言うな」
僕の告白を遮るように、黒羽はチュッと啄むようなキスをくれた。
本当は放したくなかったが、僕は腕を解いた。黒羽が息をついて後ずさる。
「おめー、学校に物騒なもん持ってくんなよな」
「ばれてたんですか」
「最初ポケットに手を入れてただろ。分かるっつの」
僕がスタンガンを懐に忍ばせていた事に気付いていたのか。さすが怪盗。
「だから無理に抵抗しなかったんですね」
「気ぃ失ってる間に何かされちゃたまんねーからな…わっ」
バチバチ!! 電気の衝撃音が鳴る。
「ひっこめろ、アブねー!」
「いまからでも、これで襲って僕の家に連れ帰るという手もあります」
「冗談に聞こえないからヤメロ」
「ジョークは言いません。特に心の内を本当に見たい相手にはね」
結局、僕は黒羽からはっきりした答えは得られずじまいだった。
ただ…無闇に危ない真似はしない、必ず戻るという黒羽の言葉を信じるしかなかったのだ。
そんな出来事があってから、一週間、二週間と過ぎた。
表面上は穏やかで賑やかな、変わりない日常が続いていた。黒羽は元気に登校を続けている。
僕は黒羽に託された言伝を忘れてしまっていいのかもしれない。その用はなくなったのかもしれない。多分に願望を込めつつ、そう考え始めていた。
僕は黒羽のことを、知らなすぎた。
あんな言葉を信じようとした僕は、本当に甘かったのだ。
そして、その日は唐突に訪れた。
黒羽快斗は消えた。
僕の前から。みんなの前から。
江古田高校の日常から、彼の姿はある日突然消えてしまったのだ。
20130413
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※白→快、過去にupしたものと描写が被り気味(@@;)ですが、このブログのベーシックということでご容赦を~。
※そして話的にめっさ途中ですみません(*_*;
タイトル・場面を変えて、近日また続けます…。
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