奇跡の月と運命の彗星《5》
カテゴリ★インターセプト4
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俺とバーボンがいるヘリの位置から10メートルほど手前でジンたちが立ち止まる。
和装の老人の肩を抑えていたウォッカが、老人の頭を鷲掴みにするやいなや、老人の頭巾を引き剥いだ。
(寺井ちゃん!!)
そんな。まさかと思っていたのに。
頭巾姿の老人に扮していたのは、やはり寺井ちゃんだった。
───千影さん、どうして寺井ちゃんまで…!
いや、悪いのは俺だ。寺井ちゃんをこんな目に遭わせちまうなんて。
「何モンだ? このジジイ…招待客じゃねえな。なァ、K?」
低く哄うシニカルなジンの声。どこからか照準を合わせているはずのFBIの銃弾を怖れている素振りは、全くない。
「さっきの弾道を…見ていたんだ。死角に…何か遮るものが、間に、あるんだろう」
バーボンも同じことを思っていたようだ。だが呟く声がさっきより切れ切れで小さくなっている。このままではバーボンも危ない。
「そんなとこに這いつくばってねぇで出てこい、K」
ジンが俺を呼ぶ。寺井ちゃんと目が合った。
「ついでにスーツケースを持ってこい。這いつくばったまま死にてえなら、そこにいて構わねえがな」
「貸して。スーツケース」
手を出した俺を、バーボンが見つめる。
「…〝貸す〟だけだよ。残念だがぼくは動けない。今はキミに託すしかないようだ」
ヘリの下から出て、立ち上がった。
吹く風に潮の香りが混じっている。
「ゆっくりこっちへ歩いてこい、K。バーボン、貴様にもあとで訊くことがある。それまで生きてられたらだがな」
俺はジンの数メートル前まで近付き、バーボンを隠すように立ち止まった。
「その爺さんを放せ。無関係だろう」
「フッ、本当にそうか? だったら殺しても文句ねえだろうな」
ジンがサイレンサーの銃口を寺井ちゃんの頭に押し当てる。
「よせっ。素人を楯にするなんてカッコ悪いぜ、ジン」
「Kっ、てめえ、兄貴にタメ口きいてんじゃねえ!」
激高したウォッカが寺井ちゃんの肩を掴んだ手に力を込める。寺井ちゃんの顔が歪んだ。
──その時。
寺井ちゃんと目があった。
じっと俺を見る寺井ちゃんの目が〝どこか違う〟ことに俺は気付いた。
》》プッシュシュシューーッ!!《《
「うわあっ?!」
突然、寺井ちゃんの和服の袖や襟から大量の煙が噴き出した。ウォッカが驚いて寺井ちゃんから手を離し、後ろに下がる。
ただの煙じゃない。吸っても害にならず、完全に視界を奪う。俺と寺井ちゃんとで精製した特製煙幕だ。
こういうことだったのか。やるな寺井ちゃん!
ジンの姿もウォッカも寺井ちゃんもあっという間に煙に包まれて見えなくなった。
こうなればジンは発砲しない。無駄撃ちはしないはず。バーボンもこの状況を逃さず身を隠すだろう。
だが、同じくジンたちにとっても好都合だ。長距離ライフルでここに照準を合わせているFBIも、これでは撃ちようがない。
とにかく、このアタッシュケースを一刻も早く開けたい。
鍵はバーボンが持っているに違いないが…、何か…、何か針金のようなものがないか。
もたもたしていると煙が散ってしまう。
急がないと───
「!!」
ぐっと腕を掴まれ、俺は立ち竦んだ。
さっきまでの目視距離を頼りに屋上出入口へ向かおうとした俺の腕を、煙の中から伸びてきた誰かの手が掴んでいる。
その腕を見た。
ウォッカでも、バーボンでも、もちろんジンでもない。寺井ちゃんとも違う。
誰だ!
「捕まえたぜ、快斗」
「…?!」
「急げ、煙が風に飛ばされる。視界が開けるぞ」
20160202
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※つづきます! いい加減スピードアップしないと;この際反故は恐れず((汗))勢いに乗りたい…希望…です(*_*;
※映画館で『純国の悪夢』予告編見ました! カッコイイ!そして焦る!
※仮アップ時に書きましたが、意図せず画面を長押ししてしまい、間違って20160112up『刻印』を一度削除してしまいました;;元データから再upしたものの、せっかくいただいた拍手履歴(5拍手)が無くなってしまったですー(T_T)すみません~(泣泣)
●拍手御礼
「トラベル・トラブル」「確率」「囚人」「幻の境界」「5000メートル」カテゴリ★インターセプト へ、拍手ありがとうございました(^^)/
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