トラベル/温泉宿《3/3》
(新一×快斗)R18
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酔いのせいだ、きっと。
そうでなきゃ、このテンションおかしい。
工藤の指先が俺を探って肌を辿る。ゾクゾクと背筋を戦慄が駆け抜けた。
浴衣(ゆかた)の袖から腕を抜こうとしたが、絡まって半分工藤と自分の下敷きになってて抜けない。
身動きできなくてもがいていると背中を覆っている工藤が気付いたらしく、俺の耳元でフッと笑った。
「快斗」
「…な…んだよ」
背中が熱い。
「浴衣、似合うぜ」
耳を舐めるように囁かれてますますカッとなる。
――似合うって…オカシイだろ。両腕に絡まってるだけで、帯も抜かれて、もうほとんど裸だ。
「!!」
腿の内側を工藤の掌がゆっくり這いあがる。またゾクゾクと震えが走った。脚の付け根に近いところをグッと掴まれて危うく声をあげそうになる。
「そのままでいいよ」
「え…」
「脱がなくていい」
目を細めるような工藤の笑みが見える気がした。
(あっ)
左肩を掴んで引き起こされ、上体を半分だけ返した不自然な姿勢で唇を塞がれる。
(んん…!)
深く捕らわれ、強く吸われて…苦しくて呻いた。
上体を支える腕が圧迫されて痺れる。体勢に無理がある。苦しくて首を振って逃れると、髪を掴んで頭を抱え込まれもっと濃いキスに見舞われた。
――気が遠くなる。
「……あ、はぁっ…はっ」
キスから解放されると顎からボフンと布団に突っ伏した。鼓動が激しく胸を打つ。工藤も俺の背に重なって息を乱している。
さっきからずっと頭の中でカンカン鳴り響いている警鐘。このままの勢いでいったら…マジでやばい。
――あっ。
後ろに押し当てられる熱の感覚にハッとする。思わず体を転がして逃げてしまった。背にかかっていた工藤の重みが消える。
ベッドだったら床に転がり落ちてしまうが今は和室だ。畳の上の布団の上だ。だから転がろうが布団からはみ出ようが、どうってことはない。
工藤が体を起こす前に、工藤に抑え込まれる前に、逆に工藤を抑えこんだ。工藤の上に乗っかって――。
工藤が、俺を見上げている。
枕元の灯りに照らされて陰影のついた工藤の表情が…その目が笑っていた。めちゃくちゃ嬉しそうに。
う。しまった。
思わずとってしまったこの体勢は、どうやら工藤の思う壷だった。
「…色っぽいぜ、快斗」
「ば、ばか言ってんじゃねえ」
浴衣を羽織っているだけで暑い。脱ごうとすると工藤に止められた。
「だめ。そのまま」
「暑ちぃよ」
「いいから。和室…侮れねぇな」
「え…? あっ」
仰向けに寝転んだ工藤が俺の胸に手を伸ばす。俺の両胸に左右の掌をそれぞれ充てて…俺の鼓動を確かめるように、指を広げて。
どくん。どくん。どくん、どくん……。
「いつでもいいぜ」
「な…なにが」
「してくれんだろ?」
胸の突起を指先で弾かれる。
(イテッ!)
慌てて工藤の両手首を掴んで胸から離した。
それでも。
魅入られたように、工藤の上から動けない。
俺を見詰める工藤の瞳から。
そうしているだけでじわじわと体中が熱くなって、じっとしていられなくなる。
――情けないほど求めてる。工藤と重なり合い、溶け合うことを。体も心も望んでる。苦しいくらい、俺も工藤を求めてる。
「あっ」
前を工藤が煽る。我慢できずに震えだしてしまう。
「あ、あっ、く…ど…っ……!」
「影が…すごい」
(……?)
絶え間なく急かされて会話どころじゃない。キーンと耳の奥で金属音が響いて頭の芯まで痺れる。
工藤に扱われてると思うだけで……見られていると思うだけで、おかしくなる。堪えようとするほど堪え難い快感に襲われて、喉から叫び声が飛び出てしまいそうだ。
「快斗が……部屋いっぱいに、おまえの影が揺れてる…。すげえ」
言ってる意味は解った。
行灯の明かりに下から照らされてるからだ。何倍にも膨らんだ俺の影が壁や天井に暗く拡がって、おかしくなった俺と一緒に悶えている――。
「和室すげぇ。浴衣最高」
くるくると撫でられ、さらに追い込まれて堅く閉じた目の奥に閃光が走る。激しい到達感に意識が飛ぶ――。
全身の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを工藤に支えられた。
工藤の胸に手を着いて肩で息をしてたら、腰を掴まれて我に返った。
「…こいよ」
待ちきれなくなったんだろう。工藤が俺の腰を両手で持って促す。
拒めない。
恐る恐る腰を持ち上げると、待っていたように工藤が俺の脚の間に手を滑らせた。
奥に指が当てられ、その周囲を弄り始める。
強い羞恥にたまらず目を瞑った。分かっていてもだめだ。
「もっと力抜けよ。明日歩けなくなるぜ」
この。
工藤の物言いに、プチと何かが弾けて俺は開き直った。
ええい、わかったよ。やるよ。やってやる。
そんかわり、よすぎて腰抜かすんじゃねーぞっ。にやけやがって…もしテメーの方が明日カクカクしてたら思いっきり笑ってやるかんなっ。
ようし、い…いくぞ……。
持ち上げた腰を、工藤を感じながら自分で沈めていく。……ゆっくり。ゆっくり。
(くっ…)
しかし始めたものの、思うように力を抜くことができず、なかなか進めていけない。工藤がいつ焦れて突き上げ始めるかと思うと、それも怖くてまごまごしていられない。
工藤に支えられながらなんとか体を落としていった。少しずつ。
「あ…あっ…」
「快斗、もう少し」
『や…ってるよ!』
チクショウ、声が出ない。涙目で睨んだ。工藤はやけに落ち着いた顔で俺を見上げてやがる。
意識が灼かれる。自分から…なんて。ここまでドツボな状況になるなんて、一時間前には想像もしてなかった。
(アア…!)
圧迫されて苦しくなる。体が鈍く重くなって、動こうとしても動けなくなる。楔のように工藤を穿たせ、自分を捕らえるその感覚に。とても正気じゃいられなくなる。
「うあ――!」
最後は工藤がぐいと俺を引き下ろした。
体重を預けてしまうと力みが抜けて繋がりがさらに深まった。工藤が少し体を動かすだけで、侵されている息苦しさと体の中を衝かれる切なさにどうしようもなくなる。
ベッドみたいに揺れの反動がなくて良かった。
――と思って油断してたら急に工藤が激しく突き上げ始めた。
(ア、ア…、アッ!)
噛み締めた口から悲鳴が漏れる。
叫んだらマズイ。隣も客室だ。
なのに工藤のヤツお構いなしだ。
こんの、バカやろーっ!
あ、あ、もうだめだ。
マズイけど、もう。そんなん、されたら…っ!!
「く、くど、うっ、ああ、あっ!」
「……かいとっ、手…!」
工藤が差し出す両手に、両手の指を絡めて合わせた。強く握り合う。
「ん、あ…あっ、ああ!」
必死に声を抑えているつもりだったが、実際はとんでもない声を上げ続けていたに違いない。
ぐらりと頭が揺れて眩暈がしたと思ったら、いつの間にかひっくり返って――工藤に抱えられて俺が下になっていた。
工藤のヤロウ…俺が堪えようとしてんのにわざとキツく責めやがって。
追い込まれて、焦らされて。どうしようもなくなった。
浴衣の袖だけは律儀に最後まで腕を通していた。暑くてつらかったけど。
嵐のあとの切ない疼きにぼうっとして、さざ波のように工藤に抱かれ揺られていた。
眠い。ようやく浴衣が取り払われ、横になった。痺れて……もう、動けない。
工藤にくっついて眠った。気を失ったって言った方が近いかもだけど。
ホントに……わけ分からない。
ただもう…動けない。
おまえの腕の中から。
心も。体も。全部囚われて。
動けない。
動きたくない。ずっと。
このまま……。
やけに無言な帰り道。
あんなに激しく愛し合ったのに。
……愛し合いすぎて、逆に恥ずかしいのかな。いつもは平然として俺をからかう工藤も、なんだか今日はらしくない。
宿を出るまで恥ずかしくて仕方なかった。誰かに夜中の声聞かれてたんじゃないかって。昨夜の自分の痴態を思い浮かべて冷や汗かく。
電車に乗って、ようやく俺から工藤に話しかけた。
「土産物屋で何買ったんだよ」
「ああ…、これ。おまえに」
「俺に?」
厭な予感がして俺は工藤をジト目で睨んだ。
「あ、わかった? 浴衣だよ~ん♪」
「だよ~ん、じゃねえっ」
「日本っていいな。温泉、また来ような!」
トロンとした目でほっぺた赤くして笑う工藤が妙に子供っぽく見えておかしくなって吹き出した。
なんだかおかしな具合に盛り上がってしまった温泉旅行だったけど、楽しかった。
すごく疲れたけど。足腰だるくて仕方ないけど。ものすごく眠たいけど。
電車に揺られて、いつの間にか二人して爆睡していた。肩寄せて。
互いの息吹を感じて、ガタンゴトンと揺れながら。
20120601
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今回はなるべく端折らずに温泉宿の〝夜〟を書く。というのが目標でした…って、どんな目標やねん(@@)!
トラベル・シリーズ、次はトラブル編を予定してます…あくまで予定ですが。(*_*;
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