年明けのご挨拶もしないまま2月になってしまいました。もうしわけございません。
遅まきながら、今年も何とぞ宜しくお願いいたします。
お別れのストーリーボード《2/2》
カテゴリ★ファーストステージ
─────────────────────
「灰原さん…、コナンくん、もうご両親に会えたでしょうかねぇ?」
「大丈夫よ。今朝メールが入ってたわ。みんなによろしく、ですって 」
円谷くんの問いに応えると、小嶋くんと吉田さんも顔を合わせ、三人とも複雑そうな顔で笑った。
「そんな顔しないの。これから忙しくなるんだから、少年探偵団は」
「そうじゃぞ。何しろあの怪盗キッドをギャフンと言わせたんじゃからのう! テレビや新聞の取材依頼がたくさんきておる」
また顔を見合わせて、今度は三人とも少し照れたように笑った。江戸川くんを失った淋しさは、そう簡単に癒えそうにはないけれど。
───そう。江戸川くんは姿を消した。
翌日にリアルドラマとして編集されテレビ放送された『少年探偵団VS怪盗キッド』。怪盗キッドに盗まれた江戸川くんを少年探偵団が取り返すという、私と黒羽くんが秘かに演出したセレモニーは、駆けつけた工藤くんの幼なじみたちをも巻き込んで目論見通り成功したのだ。
すべては黒羽くん…いえ、“怪盗キッド” の臨機応変な手際と見事なマジックのおかげだけれど。
そして少年探偵団は一夜で全国区の人気者となった。その少年探偵団を強力にバックアップした博士の実用性に優れた発明品の数々は、テレビのワイドショーでも繰り返し取り上げられている。
怪盗キッドが少年探偵団に敬意を表し、礼を尽くして去っていくシーンの動画は、世界的なトレンドトピックにもなった。
少年探偵団だけでなく、博士のところにも鈴木財閥関連を含む複数の企業から発明を商品化したいというオファーが着始めている。ユニークな発明品の数々は、企業との契約によって人々のために役立つ様々なグッズに形を変え、普及するだろう。もちろんそれらの特許や知的財産権は博士のものだ。
このブームはしばらく続くに違いない。少年探偵団と博士の発明品は『怪盗キッドと江戸川コナンのこれまでのライバル関係』という伝説に連なる強力なコンテンツとなったのだ。
「吉田さん」
「あ、哀ちゃん」
「どうして小嶋くんたちと一緒に帰らなかったの?」
「ええと、う〜ん…。あのね…哀ちゃん」
吉田歩美は(私と違って)正真正銘の7歳の女の子だ。江戸川くんを好きで、怪盗キッドに憧れていた、普通の女の子。
だけど、いまその小さな女の子は、その幼さにそぐわぬ不思議な魅力を纏っていた。
「あのね、わたし…哀ちゃんにお話したいことがあったの」
「なにかしら。まあ、男子がいたら話しにくい内容ってことね」
「えっ。…うう〜ん、あの、その、そうなのかな」
少し俯いて、もじもじして頬を染める少女。私にすれば無垢で眩い天使のような存在だ。
「今なら博士も二人を送っていっていないし、二人きりよ。何でも聞くし、誰にも言わないわ」
「ほんと??」
「もちろんよ。女同士の約束」
小指を出すと、吉田さんはありがとう!と言って私の小指に自分の小指を絡ませて笑顔を見せた。
──あのね、あのね、哀ちゃんにだけおしえるけど、わたし…コナンくんが好きだったの。だからコナンくんがいなくなって、すごくかなしくて、さびしいんだ。
コナンくんがアメリカに行っちゃうって聞いたとき、おうちでたくさん泣いちゃった。おとうさんとおかあさんがびっくりするくらい、たくさんたくさん泣いたんだよ。
でもね、元太くんや光彦くんもおんなじようにさびしいんだってわかって、いつかまたコナンくんがもどってきたら、今よりすごい少年探偵団になってコナンくんをおどろかそうってみんなできめたでしょ。だから今日は泣かないでがまんしたんだよ!
でもね、怪盗キッドはどうしてコナンくんをさらったのかなあって思ったの。だって怪盗キッドは宝石しかぬすまなかったのに。
それでね、博士の家について、みんなでてわけしてコナンくんをさがしてたとき、わたしひとりのときに、怪盗キッドにあったんだよ。
キッドは…すごく、すごくかっこよくて、わたしを見てニッコリわらったの。
それからそっとしゃがんで、前みたいにわたしの手に “チュッ” とキスしたの…。
わたし、どきどきしたけど、コナンくんをとりかえさなきゃって思って、キッドに言ったんだよ。
コナンくんをかえしてください!って。
『少年探偵団の皆さんなら、すぐに見つけられるはずですよ』
『コナンくんは飛行機にのるから、いそいでるの!』
『わかりました。それではヒントを差し上げましょう』
『ヒント?』
『お嬢さん…どうか憶えていて下さい。皆さんの前から旅立っても、江戸川コナンくんはきっとお嬢さんたちの側にいます。いつでも』
『え? わかんない、どういういみ?』
『それから、どうか私のことも憶えていて下さいね』
『……』
『アデュー、小さなお嬢さん。秘密を守ってくださってありがとう。いつかまた───』
……わたしね、なんだかぼうっとしちゃって、キッドがなんて言ったのか、ホントはよくおぼえてないの。
ただ、少しのあいだだったけど、モノクルがすけて……キッドの顔がはっきり見えたんだ。
それで、わたし、もっともっとドキドキしちゃって、なにがなんだかわかんなくなっちゃったの。
気がついたら目のまえがまっしろになってて…キッドはいつのまにかいなくなってたの。
「……哀ちゃん、あのね」
「吉田さん、いいのよ言わなくて」
「えっ」
「“A secret makes a woman woman.”」
「??? 哀ちゃん、なんていったの?」
「女は秘密を持ってきれいになるのよ。吉田さん、あなたの秘密はあなただけのものよ。それを大事にすればいいわ」
「ひみつ…」
「そう。今話してくれたことも全部ね。私も誰にも言わないわ。さっき約束したもの」
「う、うん」
「ねえ、吉田さん。私からもお願いがあるの」
「なあに?! 哀ちゃん」
「これからも…私と友達でいてくれる?」
吉田さんは少し目を大きく見開いて、それからとても明るく笑った。
「うん! あたりまえだよ! ずっとずっとともだちだよ! 哀ちゃん、大好き!」
野暮な話はここまで。
あとは “彼ら” が “彼ら” の真実を取り戻し、再び出逢うところからまた始まるだろう。
今度こそ対等な相手として。
真に求め合う運命のピース(片割れ)同士として。
さよなら、江戸川コナン。
さよなら、怪盗キッド。
ここだけの話だけど…私も好きだったわ、あなたたちのこと。
でもそれはやっぱり私だけの秘密。
“A secret makes a woman woman.”───。
20210202
─────────────────
※これで途中経過を端折れたことになってるのか自分でもよくわかりませんが…一応、数回前のお話の回収になっています(汗)。企画&立案・哀ちゃん、演出&主演・怪盗キッド様、的な。カテゴリ★ファーストステージ、あとはエピローグで経過のフォローしつつ、やりたいことやっておこうと思います。(ハテやりたいこととは(^_^;)??)
お付き合いいただき、ありがとうございます。
●拍手御礼
「未明の道」「月光という名の真実」「punishment day」「お別れのストーリーボード」他、カテゴリ★交錯 各話へも拍手ありがとうございました!
[2回]