見習い《2/2》(コナン&快斗)
カテゴリ★ファーストステージ
──────────────────────
うとうと、浅い眠りに微睡みながら目を開けた。
くすぐったい。素肌に触れる細い指先。
え……? え…??!!
膨らみ始めた快感が背筋をゾクゾクと駆け上がってくる。
やばい。まずいっ。
俺はコナンくんの細い手首を掴んで自分から引き剥がした。だが。
今度は温かくて柔らかくて湿ったものが固くなったところに纏わりついて、俺は悲鳴をあげて全身を硬直させた。
〝パン!〟
───気が付いたら、俺はコナンくんを叩いてしまっていた。
明け始めた空の蒼い光に照らされ、痺れた自分の掌と俯くコナンくんを交互に茫然と見つめる。
我に返って、慌ててシーツで体を隠した。
「───むきになることないだろ」
「………」
「素直に任せればいいのに」
「……ば…、か…言うな」
「なんで? オレがコナンだから?」
コナンくんが顔を持ち上げて俺を見る。しかし、陰になって表情は判らなかった。
「オレは工藤新一なんだぜ」
混乱する。
───なんて返事すればいいんだよ。
分かってるよ。そんなの分かってる。
だけど…今はコナンじゃないか。
たとえ心は俺と同じ17才でも、身体は7才になったばかりのコドモじゃないか。
そんなことすんなよ。
俺はそんなこと望んでないよ…!
「人を、なんだと思ってんだよ」
ようやく絞り出した自分の声は情けないほど小さくて震えていた。
「からかうんじゃねーよ。いつも…人を笑いやがって」
「快斗」
「俺は……俺はな!」
情けなくて、恥ずかしくて、居たたまれない。
こんなのはいやなんだ。
こんなふうにして流されたくはないんだ。
「おまえと一緒にいられて、俺はすっごく嬉しいんだよ。 これ以上望めないくらい、幸せなんだよ……。なのに、ふざけた真似すんなよ。バカにすんなよ。俺をオモチャみたいに扱うんじゃねーよ…!」
こんなこと言うつもりはなかったのに、混乱したまま言葉が噴き出してしまう。言葉にすることで余計に混乱して、自分の吐く息の熱さにたまらなくなって両手で顔を覆った。
「勘違いすんなよ」
コナンくんの声も、小さく掠れていた。ぎくりとして胸を突かれる。
「オレがしたくてしてんだよ」
「………」
「快斗のいい顔、見たいんだよ。声が聞きたいんだよ」
「………………」
「からかったりするつもりねーし、オモチャだなんて思ってねえよ」
「………………」
手を放して目を開けると、半分を明け方の光に照らされたコナンくんの顔が目の前にあった。
工藤の瞳をして、俺を見詰めていた。
その頬を叩いてしまったことを思い出し、とんでもない罪悪感に囚われる。
コナンくんの軽い身体を抱き寄せて、ぎゅうと抱き締めた。
「……ぶってゴメン」
「コドモコドモ言うくせに、思い切り打ちやがって。児童ギャクタイだぜ」
「ゴメンってば」
コナンくんの───工藤の吐く息も熱かった。
工藤が苦悩してないわけないのに。
元に戻れず懊悩しているのは工藤の方なのに。分かっていても、俺にはどうすることもできない。
ベッドに座り込んだままコナンくんを抱きしめているうちに、ようやく落ち着きを取り戻してきた俺は、漠然と心配していたことを口に出した。
「工藤……ちゃんと戻れるまで、無理すんなよ」
「無理?」
「解毒剤、未完成なんだろ。やたらに使うなよ」
「…………」
「無理すんなよ。俺……待つから」
工藤は無言だったが、俺の肩に回した指先がぎゅっと握り締められた。
人の体を変化させる信じられないような薬。どれだけ体に負担がかかるか想像もつかない。何度も繰り返すのは絶対よくないに違いない。だから……無理してほしくない。
部屋に射し込む光は青から白へと変化しつつあった。
穏やかな朝の光に包まれて、俺たちはもう一度横になった。はだけたパジャマをそのまま脱いで、裸になって。
互いの素肌に触れて、安心しあって───もう一度一緒にうとうと微睡んだ。
「おーい。行ってくる!」
「・・・・どこに?」
「ガッコ。もうすぐ8時だぜ」
ぼうっとして考える。今日はいつだっけ。
「───うわあっ、なんで起こしてくんねーんだよ!!!」
平日じゃん! 俺は飛び起きた。
「起こしただろ」
このやろ。オトナのジョークにしても人がワルいっ。
「工藤テメーッ、帰ったらぶっとばすからなっ!」
部屋を出ていこうとする工藤に怒鳴ったけど、真っ裸でリキんでも恥ずかしいだけだった。
「鍵閉めてってくれよな。あとオレ、コナンだから。みんなの前で工藤とか間違って呼ぶなよな」
チラリと振り返った工藤は、いやコナンくんはいつも通りの小生意気なコドモの顔と声でそう言ってランドセルをしょって出て行った。
クソーッ、早く制服着て俺も学校行かなきゃ。だけどもう完全遅刻だっ。
平日ここに泊まる時は早起きしなきゃいけないのに忘れてた。それもこれも……。
まだ半分ぼんやり冴えない頭で思い出す。明け方の出来事は夢だったみたいに思える。でも夢じゃなかった。コナンくんをぶってしまったこと。痺れた手のひらの感触だけは妙にリアルに残っていた。
いや反省はあとだ。とにかく急げっ!
俺はダッシュで仕度して五分後には工藤邸の玄関を飛び出した。
「アラ、おはよう黒羽のお兄さん」
げ。隣のアイちゃん。
「こんな時間に登校じゃ間に合わないんじゃないのかしら?」
「あ、ははは。寝坊しちゃって。またね! いってきまーす!」
「遅刻は御法度よ。少年探偵団の不文律」
「ごめんなさーい! もうしませーん!」
背中にアイちゃんの声を聞いて、謝りながら駆け出した。
まじやばい。
いろんなイミで今朝は。
今日もここに来よう。少年探偵団の見習いとして、少しでも〝先輩たち〟とコミュニケーションとらなくちゃ。
早く探偵団のバッジが欲しい。
仲間になりたい。俺はもうひとりじゃないんだ。
20120725
──────────────────────
※ひい。まとまりきりませんが、ひとまずエンドです~(*_*;
[9回]