ハザードランプ(新一×快斗)
カテゴリ★空耳
※匿名希望さま、琥珀さま、林檎さま、拍手コメント嬉しいです♪ ありがとうこざいました(^^)///
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赤のRX-7がハザードを五回点滅させて去ってゆく。
『ア・イ・シ・テ・ル』ではなく、事件解決『ア・リ・ガ・ト・ウ』のサイン。
結婚を前提とした恋人がいる大人の女性であり、凶悪事件担当の第一線で活躍するバリバリ現役刑事でありながら……佐藤刑事の茶目っ気は相変わらずだ。
しかし、オレは佐藤刑事に対して少なからず警戒心をいだいていた。
なぜなら────佐藤刑事は黒羽快斗の素性を知る人物だからだ。
執拗に黒羽を付け狙い、卑劣な方法で襲った犯罪グループ。奴等による一連の事件を捜査し、黒羽の件を含め担当していたのが佐藤刑事だ。
黒羽が被害を受けた事件後には、黒羽を心配して江古田高校まで様子を見に一人で姿を現したという……。
もちろん黒羽が簡単に〝尻尾〟を見せることはないだろう。だが、もしオレと黒羽の繋がりに気付かれるようなことがあれば、一気に疑いを深めるに違いない。
黒羽の件を通報したオレと、黒羽との〝関係〟に。
そして〝黒羽快斗が本当は何者なのか〟ということも────。
玄関を入って扉の鍵を掛けたところで突然パチリと灯りが点り、ハッとして身構えた。
「おかえりー」
「黒羽…! おどかすな」
階段の上から黒羽がオレを見下ろしてにこにこ笑っていた。
カワイイ。
今日関わった事件の厭な余韻も疲れも、途端に忘れて舞い上がる。
「なんだよ…、来てねえと思ったぜ!」
一段跳ばしで階段を駆け上がり、微笑む黒羽に抱き付いた。
勢いで後ろによろけながら、黒羽がくすくす笑う。
「警視庁行ってたんだろ? そしたらケーサツの車で送って来てもらうんじゃねーかと思ってさ。灯りが点いてたらおかしいじゃん」
「う、うん」
その通りだ。一人暮らしなのに、怪しまれるに違いない。佐藤刑事のノリだったら、確かめに邸内に乗り込んできた可能性もある。ニューナンブを構えながら。
もう少し早い時間なら固辞して自力で帰ってきたんだけど、今夜は遅くなったし、送ってくれた刑事もそのまま直帰するって言うから……と、もごもごイイワケがましくつぶやいた。
「さっきのRX-7、佐藤美和子刑事だろ」
「見てたのかよ」
「〝ア・イ・シ・テ・ル〟のサイン~♪」
「ばぁか。佐藤刑事のジョークだよ」
「そうかねえ」
なに言ってんだ。アタリマエだろ。
「フィアンセ同然の恋人がいるんだよ、佐藤刑事には」
「カンケーないでしょ、それとは」
「? バカだな、トシだって十以上もオレが下……」
「それこそ関係ないじゃん」
「………………」
遮るように否定した黒羽を思わず見詰めると、黒羽も急に慌てた感じになって顔を赤くした。
「やだねーまったく……何が〝迷宮なし〟なんだか。迷宮だらけじゃん」
「なにがだよ」
「名探偵は、自分がどれだけモテ男くんか分かってらっしゃらない」
「は?」
「名探偵に思いを寄せる女性は、私が知る限りでも五本の指では収まりませんよ」
「……なに言ってんだよ」
「少なくとも一つや二つは思い当たると存じますが」
「…………」
「なのに、私の相手など好んでなさっていてよろしいのでしょうか?」
なんでか怪盗キッドの口調になって背を向けた黒羽が歩き出す。
後ろを付いて歩きながらドキンドキンしてくる。
「妬いてくれてんのか…?」
「ぶっ、ぶぁか言えっ」
前を歩く黒羽が早足になる。
オレの部屋の前。黒羽の肩を掴んで振り向かせ、抱き締めた。
「黒羽……待っててくれて、ありがとう」
黒羽の細いうなじを手のひらで包むようにして持つ。そのまま髪に指を差し入れると、黒羽は小さくため息をついて体を震わせた。
「工藤……このあとは? なにか調べ物とか」
「ねえ。すぐ寝る」
「…じゃ、風呂入ってこいよ」
「うん。そうする」
「そしたらゆっくり寝よう」
「うん……わかった」
「部屋で待ってるから、早く行ってこい。風呂ん中で眠るなよ」
「うん……」
口付けた。────黒羽の唇。小さくて、柔らかい……。
「お、おい…?」
「おまえも入ろ」
黒羽の手を引っ張ってバスルームに向かう。
「ばか、俺はもう入らせてもらったよ!」
ぶつくさ言う唇を塞ぎながら自分の上着を落とし、黒羽のシャツを剥いだ。
『んだよもうー』と文句を言いつつ、ようやく観念したらしい黒羽と二人、裸になってシャワーを浴びる。
黒羽の柔らかな髪が濡れてボリュームがなくなると、小さな頭と華奢な首筋がよりはっきりと判るようになった。
普段隠している繊細な肢体とともに、オレをこれでもかと悩殺してくれる。
だが……黒羽を抱くたびに覚える漠然とした不安は 、想いを重ねるほど強まってゆくようだ。
黒羽に残る疵痕。
目に見えるものも、見えないものも。
独りで負い、黙って隠してきた幾つもの疵を、ほんのわずかでも癒してやりたくて。
オレに何が出来るかも解らないでいるけれど、それでも────我ながら拙(つたな)いと思いながら、精一杯の想いを注いで愛してゆく。
黒羽……。
オレはおまえが好きなんだよ。
ほかの誰かとなんか比べられない。
どうしていいのか分からないくらいに。
だから、どこにも行くな。
おまえを。離さない………。
脱水した自分の服を乾燥機に放り込み、代わりにオレの部屋着を着た黒羽が振り向いて苦笑いする。
「あーあ。ほんとおまえには服ダメにされるよ」
「なんだよー。ちゃんと脱がせただろ」
「半分は中だったからぐっちょりじゃんか。前も制服ごとシャワーでびしょ濡れにされたしな」
「……………」
少し複雑な顔をしてしまったのだろう、オレを見て黒羽が微笑んだ。
「大丈夫だよ。別に思い出したってどうってことねえ。工藤がそんな顔することねーって」
振り切ったようにサバサバした笑顔。
その瞳の奥に、オレを閉め出そうとする気配を覚えてカッとなった。
「黒羽」
腕を掴んだ。
「オレの前では強がるなよ」
「……べつに」
黄色いハザードランプが点滅する。
オレの胸の奥の。
「平気な振りして誤魔化すな。言っとくが、オレから離れようったってオレはおまえを離さねえからな。絶対」
「……………」
「わかったかよ!」
「名探偵のアホさ加減が分かりました」
「なんとでも言え!」
抱き締めて。
ただ抱き締めて、火照りが残る互いの熱を感じていた。
『探偵に捕まったまま逃げないなんて、怪盗としてどうかと思うんだよなー』
そう言う黒羽に言い返した。
『逃がすわけねえだろ。怪盗を捕まえるのが探偵の生き甲斐なんだから』
20121012
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※DREAMS COME TRUE
『未来予想図II』歌詞より一部引用
[16回]