メディシン=薬(コナン&快斗)
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(快斗……)
囁きが耳を温かくくすぐり、髪を静かに梳かれる。
夢の中で、俺は大きくなった元通りの姿の工藤新一に抱き締められていた。
ああ、工藤のヤツ、馬鹿だなあ……。
またあの薬を使ったんだ……。
未完成の解毒薬を。
ちゃんと元に戻るまで待つから、無茶するなって言ったのに……。
ああ…。
だけど、俺もおまえに逢いたかった。
また…おまえと抱き合いたいって……ずっと思ってたよ。
工藤。
くどう……。
────バチンッ!!!
「…いてえっ!」
ほっぺがヒリヒリする衝撃に目を開けた。
あ、あれ…????
俺が腕に抱いてたのは。
工藤じゃなくて…、体の小さな……コナンくんでもなくて・・・
「うぎゃああっ、哀ちゃんっ(@@)!!!」
驚きすぎて、手を離せばいいのに俺は慌てて起き上がろうとしてソファーから転がり落ちた。
哀ちゃんを抱いたまま。
「きゃっ、イタッ」
ひィーーーーっ!!(@@)(@@);;;;
「ごっ…ごっごごごめん、哀ちゃん!」
状況はリカバリー不能だった。
やっと体を起こして、倒れた哀ちゃんの両腕を恐る恐る掴んで抱き起こす。
(!!)
サッと哀ちゃんの右手が上がって、俺は膝を着いたままもう一発平手を喰うことを覚悟して目をつぶった。
(・・・・?)
「まったく」
「…え」
そうっと目を開けると、憮然とした哀ちゃんが仁王立ちして俺を強烈に睨んでいた。コ、コワイッ(>_<);;。
「しょうがないわね。最初に悪戯したのは私だから、今日のところは一発で勘弁してあげるわ!」
「へ…?」
「昼寝するなら工藤くんとこでしてちょうだい! 片付かないったら、もう!」
……そ。なんでこうなったかというと。
土曜の昼に行われた少年探偵団のミーティング(たこ焼きパーティー)がお開きになったあと、ミーティングを欠席したコナンくんが留守の工藤邸には戻らず、俺は図々しくもそのまま阿笠邸で居眠りをしていたのだった。
『どうしたね~、哀くん? 』と阿笠博士の声が廊下から聞こえてきたところで、俺は飛び上がった。
連続五十回くらい、ごめんなさいごめんなさい、哀ちゃんほんとにすみません、許してください寝呆けてたんですごめんなさい、と謝り続けながら、俺は阿笠邸を脱出した。
そうして日が暮れる頃になって、やっと毛利探偵事務所から帰ってきたコナンくんに俺はやっぱり大笑いされた。
「ちぇっ。俺だって自分で呆れてるよ」
「くっくっく。まだ灰原の手形が残ってるぜ、快斗のほっぺ」
「うそ」
あまりに恥ずかしいエピソードなので、逆に黙っていられなくてコナンくんに話してしまった。
ただし、夢の中で〝工藤新一〟と抱き合ってたってことは省略だ。そんなことを話してコナンくんに変なプレッシャーかけたくない。
それにしても……つくづく過去最大といっていい失態だった。
「あーああ~、俺もうマトモに哀ちゃんと顔合わせらんねー」
「大丈夫だよ。灰原、意外と根に持つから」
「ソレ…ぜんぜん大丈夫じゃないじゃんっ!!」
またコナンくんが腹を抱えて笑う。
────ところで。
恥かきついでに、俺は訊きたかったことを口にした。
「…な、哀ちゃんて、コナンくんが工藤だって知ってんの?」
「なんでそう思う?」
笑いすぎの涙目のままコナンくんが俺に問い返す。
「うーん……なんか哀ちゃん、おまえみたい」
「オレみたいって?」
「……………」
コナンくんの反応に、やはりそうなのかと思う。
最初から彼女には違和感を感じていた。だけど身近にコナンくんがいるせいで、その違和感になんとなく目を瞑ってきたんだ。
そうだよ…。あの思考、態度、言葉遣い。あの子が小学校一年生なわけない。コナンくんと同じだ。彼女が阿笠邸に身を寄せているのには訳があったんだ。
漠然と考えていたことを、俺は唐突に確信した。
「哀ちゃん、〝工藤くん〟って言い方したぜ」
「それが?」
「コナンくんが工藤だって認識してる。それにタメじゃん、呼び方が」
「そうかな」
あまり深く突っ込むな。
コナンくんの横顔がそう言っていた。
「……そのへんはおいおい教えてくれるって言ったよな、前に」
「そうだっけ」
ずりぃ。
俺はコナンくんの脇に手を入れ、高い高いするみたいに持ち上げた。
「ばっ、ばぁろ、降ろせ快斗っ」
「コナンくん。……工藤」
「…………」
「俺、おまえの助けになりたい」
「…………」
「おまえの側にいたい。だから…いざって時に俺をノケもんにしないでくれよな」
怪盗を卒業し、そのために少年探偵団の見習いやってんだから。
俺はコナンくんをそっと床に降ろし、膝を着いて向き合った。
「工藤」
「────わかったよ」
俺は、なぜだか工藤を…コナンくんを真っ直ぐ見ていられなくなって目を伏せた。切ない想いがこみ上げてきて。
コナンくんが。工藤が。愛しくて。
「快斗のバァロ。なにセンチになってんだよ」
コナンくんの前に跪き、俯いたまま顔を上げられなくなってしまった俺の肩を、コナンくんが細い腕で抱いてくれた。
背中にやっと届くか届かないかだけど、それでも小さな手のひらの温もりが伝わってきて。余計に切なくなって。
〝よしよし……わかったから〟と、見た目はコドモの名探偵にあやされながら、情けないことに俺は少しばかり泣いてしまった。
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「だからさ、次に会ってもあんまりイジメないでやってくれよ。本人すげー反省してるから」
『私だって別にそんなつもりだったんじゃないわ。ただ』
「ただ…? なんだよ」
携帯にかけたら灰原はすぐに電話に出た。
快斗は来日中の海外の有名マジシャンが出演しているテレビ特番にかじり付いている。
『……寝顔が可愛かったんだもの』
「なに?!」
耳を疑うとはこの事だ。灰原が…? なんだって?!
『睫が長くって、唇は花びらみたいにピンク色で』
「おい…っ」
なんだ、その表現は!!
『だからつい……工藤くんの真似して、からかっちゃったの』
「えっ…」
『声を低くして…〝快斗〟って呼んでみたのよ。髪の毛なでなでしてあげながら』
「ぬ、ぬわんだとおーっ!」
おおいコナンくん、いま良いとこだからシーーッ! と、快斗が向こうからオレに注意してくる。
声を潜めて電話の向こうに抗議した。
「……おいっ、灰原! おめえっ」
『そしたらね、黒羽のお兄さん、すごぉくうれしそうに微笑んで……私をぱっと抱き締めて、キスを』
「えええっ(@@)?!!」
聞いてねえぞっ、快斗ッ!!!!
『慌てないでよ。されそうになったんで、思わずぶっちゃったってわけ。だからまあ、私が悪いと言えば悪いのよ』
「……おめーなぁ。快斗で遊ぶなよ!」
『それにしても予想以上の、絵に描いたような反応だったわよ。可哀想だから今回は許してあげるわ。両想いなのにすんなり実らない恋人同士を憐れんでね』
「けっ……うるせーや」
『そう、それでお詫びと言ってはなんだけど、新しい解毒剤、いる?』
「なにっ?」
『今度のは変化の過程で被験者になるべく負担をかけないように考慮したものよ。そのかわり』
「くれ!」
『最後まで聞いてよ。そのかわり、効力は短いの。元の体に戻っていられるのは、たぶん一時間かそこら』
「かまわない」
『…言っとくけど、まだ治験段階だからあげるのは一錠だけよ。連続服用は不可』
「わかった」
オレは電話を切った。
テレビに夢中になっている快斗の目を盗んで灰原の元に走る。
降ってわいた〝治験〟のチャンス。
使い時を迷うことはなかった。
オレにとって、今夜これから快斗を再び抱き締める……そのことだけが頭の中を占領していた。
20121015
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※つづきは少し間をおいてから書くつもりです。が、このまますんなり〝セカンドナイト〟といくかどうか…(汗)。
[11回]