工藤邸襲撃事件【顚末②】
カテゴリ★17歳(新快・3/4組)
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工藤有希子の登場で、事態は急転した。
有希子には、事件の予告を投稿した人物に心当たりがあったのだ。
「新ちゃん、来ちゃダメ!」
「母さんっ!」
白閃。
ホワイトアウト。
真っ白な世界───。
音もない。一瞬がまるで永遠のように感じる───これは、アイツの。
アイツの…!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
(白馬くん視点)
自ら囮になり犯人との接触を計った工藤と、有希子さんに変装した黒羽(工藤はそのことを知らなかったが)の活躍で、僕らは犯人を確保することができた。
有希子さんの予想通り、犯人の男はかつての有希子さんのファンだった。
動機は騒ぎを起こして息子に危険が及べば『有希子さんに会えるかもしれないと思った』からだった。
そしてそのとおり、彼は目的を達したことになる。
有希子さんは地べたに座り込んだ男に近付くと、そばに膝を着き、男に何かを語りかけた。
有希子さんが何を語り、男がその言葉に対してどんな反応を示したのか、僕らのいる場所からは分からなかった。
これは僕の憶測だが。
工藤夫妻が息子をひとり残してロスに拠点を移した理由の一つに、こんな事が起こり得ると予想していたからではないだろうか。
日本から遠く離れ、時間をおいて。
遮られた熱情がやがて自然に冷えてゆくのを待つために。
一人息子を巻き込まないために…。
「男の身柄は警察に任せるほかないでしょう。いいですね?」
僕が警察を呼ぶと伝えると、工藤はぼんやりと『ああ』と気のない返事をした。
「探偵事務所が狙われた〜思たんは思い込みやったっちゅうことやな。ちょいと思い上がっとったのう、おれら」
「そうだけど。でも工藤は危なく大怪我するところだったんだぜ」
「………」
それまで会話に入ってこなかった工藤が、ようやく立ち上がる。そしてひとつ溜息をつくと、僕らに向き直った。
「───で。快斗が母さんに変装してたって、白馬と服部は知ってたのか」
「え」
「あっ、誤解すんなや工藤。敵を騙すにはまず味方から、言うやろが」
「てめえら…よくも。あれが快斗だって分かってたらオレだって動きようがあったんだ!」
「なんとかなったんだから、いいじゃん工藤」
「快斗、おめーもだ! 計画が大雑把すぎるんだよ!」
「大胆って言ってくれよな」
「どこが!!」
わちゃわちゃと縺(もつ)れ、やがて肩を抱き合って笑う工藤と黒羽の様子に、僕と服部も顔を見合せて一緒に笑った。
・ ・ ・ ・ ・
(有希子独白)
───新ちゃん、ごめんね。
まさか本当にこんなことが起こるなんて…。
優ちゃんのプロポーズを受けて引退を決めた後、すぐに発表すべきだった。だけど映画のプロモーションの最中で、プロダクションから暫く待つように言われて…。結局映画の公開直後に週刊誌に抜かれて、なし崩しに発表するかたちになってしまった。
当時私を応援してくれてた人達の中には、私に『嘘を付かれた』 、『裏切られた』と感じた人もいたんだと思う。
〝あの人〟が身に着けていたのは、私がその頃CMキャラクターをしていた腕時計。
18年も経つのに。ずっと身に着けていてくれた…。
ごめんなさい。ありがとう。
ごめんなさい。
それしか、言えなかった…。
・ ・ ・ ・ ・
(白馬くん視点)
騒動が片付き、一通り警察の聴取が済むと、有希子さんは『優ちゃんに黙って来ちゃったから』と言い、ゆっくりする間もなくロスへ帰っていった。
僕らは隣家の阿笠邸で宮野さん特製のカレーをご馳走になりつつ、ようやく落ち着いて今後の探偵事務所について話し合う時間を持つことができた。
そして僕ら探偵事務所の新しい名称候補は『10-7 DIRECTIVE FIRM』に絞られた。
元は服部が発案した『SEVENTEENs探偵事務所』だったが、それではあまりに直接的すぎるので、皆でアレンジを考え、『17』→『10と7』で『10-7(テンセブン)』と読ませることにしたのだ。
先のことは分からないが、初心を忘れずという意味では『17歳』にこだわるのもわるくないだろう。ひとり宮野さんだけは異議有りげに憮然として僕らを睨んでいたが。
そろそろお開きという頃合いで、工藤が僕に歩み寄ってきた。服部と黒羽は宮野さんの手伝いでキッチンに行っている。
「白馬」
「なんですか、工藤くん」
「俺、黒羽が好きだ」
「………知っています」
「探偵業に影響が出ないよう心掛ける。だから」
「わざわざ僕に断る必要はないです。ただ…」
「ただ?」
「君も解っているだろうから正直に言いますが、僕も少なからず黒羽くんに惹かれています。君よりも前からね。しかし、当面は大人しくしていましょう」
「当面って、どういう意味だ」
「君に彼を任せられないと判断した時には、僕も黙ってはいないと言う事です」
───自己嫌悪。
ついムキになってしまった。僕がどうあがいたところで、黒羽本人の想いは工藤にあるというのに。
解っていたのだ。
最初から、工藤と黒羽は互いに惹かれ合っていた。
その二人を、僕はこれからも傍らで見守っていく。
それが僕の想いの貫き方なのだ。
・ ・ ・ ・ ・
「有希子、おかえり! 一人で日本に行ってきたのか? 疲れただろう」
「うん、とっても疲れた! 眠たい〜。優ちゃんは入稿終わったの?」
「ああ、終わった。気を使わせてごめんよ」
夫の胸に飛び込んで、抱き締めてもらってウフフと笑う。
「良いことがあったのかな」
「うん。黒羽盗一さん、おぼえてる? 彼のご子息の快斗くんに会ったの!」
「えっ」
「快斗くんは憶えてないみたいだったけど、私、快斗くんが4歳くらいのときに会ってるのよね。小さな手でお花を出すマジックを見せてくれて。可愛かったなぁ。それでね、快斗くん、なんと新ちゃんたちの探偵事務所のメンバーなんですって! びっくりしちゃった!」
「そうか。快斗くんが…」
「うん。色々思い出しちゃった。黒羽盗一さん、とってもダンディで素敵で。いろいろ習うのすっごく楽しかったな」
優ちゃんは黙って頷き、そして少し哀しげに微笑んだ。
「そうだね。僕から見ても、彼は最高に洒落たエンターティナーにして、ミステリアスな紳士だったよ。そうか…快斗くんはいま、新一と一緒にいるのか……」
・ ・ ・ ・ ・
(白馬くん独白)
とりとめなく連ねてきたが、そろそろ話を締めねばならない。
余談だが『10-7』はテン・コードでは『非稼働中』の意味になる。そこまで穿ってツッコミを入れてくる相手もいないだろうし、逆に言うなら依頼をしてきた相手に第一声で『即対応可』と応える意にもなるだろう。
…などというのはもちろん後付なのだが。
いまはまだ取って付けたようなこの仮の名称だが、使っているうちに馴染んでいく予感がする。
なにより『怪盗を仲間にする』、この難題を僕らはクリアしたのだ。ひとまず、ではあるが。
怪盗がこれからもずっと僕らの協力者でいてくれるとは限らない。彼が僕らを欺き、僕らを出し抜こうとする時が、いつか訪れるかもしれない。
その時、あらためて工藤と黒羽の絆が試されるだろう。
僕らの探偵事務所としての活動は、はじまったばかりなのだ。
20230826
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※お…粗末様、です(汗)(汗)。
なんとか片付けねばと気持ちだけはあったんですが、結局事件の顛末をザクッと端折って済ませました。犯人の犯沢さんごめんなさい。とりあえず書きたいシーンだけの羅列でよくわからない話になってしまいましたが、カテゴリ★17歳 、ひとまず区切りということで::←ひどい
●拍手御礼
「拉致」「不可侵領域」「同棲未満」「恋患い」「こういうこと」
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