17歳 part III
カテゴリ★17歳(3/4組)
※前回partIIの続きです(*_*;
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「君に、オレたちがこれからやろうとする事を手伝ってもらいたいんだ」
正面に立つ工藤新一が俺を見て瞳を光らせる。
両サイドに立つ白馬探と服部平次も、俺をじっと見つめていた。
三対一。分が悪い。
この場は何をふっかけられても知らぬ存ぜぬで受け流そう。
そう考えた俺の心を見透かすように工藤が半歩前に出て、俺との間を詰めてくる。
「オレたち三人は連名で将来に向けた探偵事務所を設立する。その事務所のメンバーに、君をスカウトしたいんだ」
「え…?」
「君を仲間にする。それがオレたちの最初の仕事だ」
「・・・・」
三回、瞬きを繰り返した。
「よろしゅうな、黒羽!」
絶句している俺の肩を左に立つ服部がバン、と叩く。
「いてっ」
「これで進路が違っても君との繋がりが保てます。僕も願ったりだ」
白馬に微笑みかけられても、目の焦点が合わない。…ええ? なんだって?
「まあないだろうが、黒羽くんが断ると言っても逃がさないけどな」
勝ち誇ったようにキラキラした笑顔で工藤がぬかした。
俺はまだ成り行きについていけていなかった。なかったが、このまま黙っていたらとんでもない事になると気付いて慌ててぷるぷる首を振った。
「なっ…なに言ってんだ。勝手に決めんなよ。スカウトだろ? 断る権利、当然あるよな」
「ないって言っただろう」
工藤があっさり否定した。
「なんでだよ! いきなり拉致って仲間になれって…俺は探偵でもなんでもねえぞっ」
俺の抗議を無視して工藤が続ける。
「共同の事務所といっても普段は各人個々の活動になる。定期的に、あるいは必要な時、場合によって合流し、協力しあって事件の謎を解き明かす」
「情報の共有は極めて有意義です。僕がイギリスにいても、日本で起きた事件に協力する事が可能だ。逆も当然しかり」
「せや。なにかと危険な工藤のアッシー役も黒羽になら任せられそうやな。あんど、これからはおれらの手助けも頼むで黒羽!」
「ちょっ、待てって! おめーらの都合がいい話ばっかしてんじゃねえ! だいたいスタンドプレイがお得意の探偵同士が仲良く一緒に推理なんか出来んのかよ?! とにかく俺は無関係だ。ヘンな話に巻き込むなっ」
ドアに向かおうと振り返ったら、俺の動きを読んだ服部がもう後ろを塞いでいた。
服部がニカッと白い歯を見せる。
「〝怪盗キッド〟がおったらなァ~」
「……!」
「て、工藤が言い出しよったんや」
黙り込んだ俺に、今度は白馬がゆっくりと言い聞かせるように話しかける。
「そうです。大胆で…俊敏で。IQ400の頭脳を以てどんな難局にも怯むことなく立ち向かい、切り抜けてみせる知力と瞬発力、そして行動力を併せ持った」
「そんな〝怪盗キッド〟そっくりなやつを、オレは見つけたんだ。とうとう」
伸ばされた工藤の手を、俺は弾いた。
「そっくりって…俺かがよ? なにアホなこと言ってんだよ!」
「聞いてくれ、黒羽。オレはキッドに魅せられたんだ。初めて出逢った時、すごい宿敵が現れたと思ったさ。絶対正体を暴いてやるって…捕まえてやるって思った」
「………」
「だけど対決するたび、アイツと対するごとにオレには別の思いが芽生え始めたんだ。もしヤツが味方だったら、どれだけ頼りになる相棒になるだろうって。一緒に事件を追えたら、ヤツが仲間だったら、どんなに心強いかって」
「…それなら最初から怪盗キッドを探してキッドをスカウトすればいいだろ」
「黒羽くんは怪盗キッドさ。オレにとっては君がキッドなんだ。頼む…力になってくれ」
真っ正面から工藤に言われ、俺は何も言えなくなった。
否定すればするだけ不自然になる。
話は終わった。そんな雰囲気になった。
実を言うと俺はこの時困惑すると同時に不思議なドキドキを感じていた。なんだろう…この気持ち。湧き上がるような。
俺は、この高校生探偵どもの〝仲間〟になれるのか?
そんな事が本当に可能なのか…?
自問自答する。
答えはすぐに出た。
もちろん、ノーだ。
出来る筈がない。
乗せられるな。
俺は今も、これからも怪盗だ。探偵たちと連むなんて、出来るわけないじゃないか。
ノックの音がして、膠着は解けた。
さっきの白衣の女性が『そろそろいいかしら』とドアから顔を覗かせる。
懐柔のもてなしは断ろうと思ったのに、ものすごく美味しそうな服部の土産のチーズケーキに目が眩んで、結局俺は仏頂面しながら工藤たちと一緒にお茶をした。
何やってんだ、俺。青子の言った通りに扱われてんじゃん(>_<)ゞ。
紅茶を出してくれた女性は工藤に『ミヤノ』と呼ばれていた。なかなかイイセンいってるミヤノさんだったが笑顔は見られず、誰とも目も合わせないまま部屋を出ていった。ツンデレさんか?…彼女はどんな人なんだろう。工藤の協力者には違い無さそうだが。
で、男四人でテーブル囲んでケーキとお茶。へんな感じ。
もしだけど、俺が首を縦に降ったら、こんな光景が普通になるのだろうか…。
せめて事務とかちょこっとした怪我の手当してくれる看護士さん役には、やっぱり可愛い女子にいてほしい。さっきのツンデレさんとか、青子は…うるさそうだから無理か。
何かの古文書の話題で盛り上がっている工藤たち三人をよそに、俺はそんな仮定の場面を思い浮かべてケーキを頬張っていた。工藤たちの話に突っ込み入れてやりたいトコもあったけど、そこは我慢した。
引き上げ際、再び白馬と白馬んちの車に乗り込んだ俺を、工藤と服部は阿笠邸の門の外まで出て見送っていた。
白馬んちの車のふかふかの後部座席に埋もれて目を瞑る。今度はゆったり座れて、すぐに眠くなる。
ふと瞼の裏に小さかった名探偵の姿が浮かんだ。あいつが。あいつが工藤…。
「考えさせてくれとは、どの辺を言っているのですか」
おもむろに白馬が訊いてくる。うとうとしかけてたのに、小さく舌打ちして俺は目を開けた。
「だって俺、一般市民だし。ただの高校生だし。おまえら探偵みたいに謎好きでもないし。危ない目にわざわざ遭いたくねーし。引き受けたら、おまえらに顎で使われんだろ? 冗談じゃねえよ」
「ではなぜ断らなかったんです」
「それは…だって工藤が断ったってきかねえとか言うし、しかたねえだろ」
「脈は十分ありと工藤くんは思ったでしょう」
「馬鹿言え。どこが」
「君もいい加減認めたらどうです」
白馬がわざとらしくため息を付く。
「少なからず君も工藤くんに関心があるのでしょう? だから大人しく付いてきて話を聞いた。本当に避ける気だったら、いくらでも逃げ出せたはずです」
「ふざけんな。どんな用事かちょこっと気になっただけだ」
「工藤くんは君に夢中なんです」
「………」
唐突に言われて、思わず赤面した。
並んで座る白馬に悟られないよう窓の外を向く。
「彼はなんとかして君に近付こうとしている。これは僕の推論ですが」
「なんだよ」
外の街並みを眺めながら気のない振りをして訊き返した。
「おそらく工藤くんはキッドに足を洗わせたいのでしょう。怪盗を続けている限り、危険は付き物だ。いつ大きな怪我を負うかもしれない。命すら危険に晒される事もあるでしょう」
「…………………」
「仲間になれば…そばにいる事が出来れば、キッドを助けられるかもしれない。キッドのキッドたる所以を知れば、もしもの時でも彼を擁護できる」
なんの話だよ。
俺、キッドじゃねーし。
受け流す言葉は浮かんでも、声が出ない。
解っている。
工藤は俺が正真正銘怪盗キッドだと見抜いてる。その上で俺を黒羽快斗として仲間に引き入れようとしている。
犯人隠匿の共犯者にもなりかねないというのに。
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「おもろかったなァ、黒羽のヤツ。おれらの話に加わりたくてたまらんようやのに、しれっと最後まで知らん顔してケーキ食っとった」
「ああ。ビッグジュエル絡みの古文書の話だ。キッドなら無視はできない」
「くるかいナ? 予告状」
「くるさ、絶対。キッドの目的は盗みそのものじゃない。それをハッキリさせてやる。そして必ずあいつを仲間にするんだ」
20130629
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※また風呂敷広げ気味になってしまいました。動きがなくて会話ばかりの回になってしまったので、つい(+_+)。
このカテゴリは極力〝軽め〟なノリを目標としてるつもりなんですが…いずれまた後日談をば…m(_ _)m
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