噂の二人/江古田高文化祭/演劇・2年B組 『白雪姫』《2/3》
※やはり視点がくるくる変わります。わかりにくくて申し訳ない…(*_*;
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こびとたちが萎縮しちまっている。
『白雪姫』開演が近づくにつれ、会場全体に漂い始めたこの異様な雰囲気のせいだ。
なんだこれ。
パニック寸前みたいに膨らんだ恐ろしく感じるほどの熱気。
みんな何を期待して来てんだよ?! これからはじまるのはあくまで清く正しく脚色された、王道の〝おとぎ話〟だぞ!
フザケんなっ!!!
「こびと集まれ!」
頭に来て呼びかけると、幕裏で待機していた七人のこびとたちは一斉に俺を振り向いて走り寄ってきた。
「どうしよう…白雪姫様、わたし怖い」と、一番ちびの女子がいかにも心細げにドレスにしがみついてくる。
「ばかやろデエじょうぶだっ、びびるこたねえ! この一月半どんだけ俺らが頑張ってきたか、見せるときなんだぞ!」
「そうだけど…白雪姫様は怖くないの?」二番目にチイセエ女子が俺の脇にくっつきながらつぶやく。
七人の瞳が、俺に集まっていた。
さっきまで俺もちょっぴりビビってたけど、んなこと言ってらんねえ。こうなったらこいつらに弱いトコ見せるわけにいかねーぜっ!!
そうだ────どんな時でもポーカーフェイスがトレードマークの────月下のマジシャン、俺は〝怪盗キッド〟なんだからなっ!!
「あたりめーよ。こんな舞台くらいでビビるわけねーだろっ。俺が後ろにいんだから! おめーら何も心配すんな、思いっきりこびとになりきれっ! さあ、いくぞっ!!」
おおーっ!! と俺に応えたのは、七人のこびとたちだけじゃなかった。周りにいた大道具、照明、進行係、王子も、鏡も、その奥の魔女も。みんな頷いていた。
……信じるぜ紅子。 このカードの力を。
オメーの魔力を!
────ウワアアアーッ。
幕が開き、劇が始まる。
とたんに会場のあちこちから歓声ともヤジとも判らないかけ声や拍手が無秩序に溢れ出した。
上演時間は約一時間。内容は短く濃く凝縮してある。こびとたち頑張ってるが、このままじゃマズい。
快斗、と青子の声が聞こえた気がした。
俺の出番だ。
「白雪姫様!」
こびとの台詞にかぶる〝ウオー〟という歓声。ありがたいが今は応えてる場合じゃない。劇がなし崩しに乱れちまう。
音楽。こびとたちと一緒に踊り出し、俺は白雪姫の声で歌い出した。
♪ LaLaLa……Some day my prince will come Some day I'll find my love And how thrilling that moment will be ……LaLaLa……♪
「うわお、キレーな声! ねえ蘭、あれあの時の学ラン男子!? 顔小さくってすっごい可愛いんだけど!」
「うん…ホント。すごいね。歌は口パクかなぁ? ね、新一?」
「………しっ」
蘭と園子に静かにするよう、人差し指で合図した。オレの中で〝符号〟が合致しかけていた。
それまで騒々しかった体育館内が壇上の演技に集中しはじめ、自然とまとまった拍手が沸き起こる。白雪姫とこびとたちのダンスと歌に。
黒羽くん、まったく君は……。
君は、本当に素敵すぎる。
綺麗ですよ、僕の〝白雪姫〟。たとえ魔女がどんなに手強くても、僕は白雪姫を救ってみせます。必ず。
王子登場のシーン。「白馬、行け!」と演出部リーダーに背を叩かれ、僕はマントを翻して白雪姫の前に颯爽と歩み出した。
────きゃああぁぁ~!!(←はぁと)
ち。すげえ女子連の歓声。
白馬の、じゃなかった王子のヤロー、なに客席に流し目送ってやがるっ。
王子が俺のジト目に気付いて、ふふ、と笑う。
(こら。ガンつけないって注意されてたでしょう)
(うっせ!)
王子と白雪姫は恋に落ち、再会を約束して別れる。
舞台は暗転。
浮かび上がる大きな鏡。ゆらゆら揺れる鏡面に浮かび上がる鏡の精。
女王が尋ねる。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰かしら? もちろんこの私よね?」
──── いいえ。それは違います。
鏡の返答を聞いた瞬間、女王に当たるライトが白から暗い赤に変わる。恐ろしく凍るような表情で鏡に近づく〝魔女〟。
「なんですって…? 鏡よ、私でないと言うなら、いったい誰がこの世で一番美しいのか!」
────それは〝白雪姫〟です。
白雪姫の映像がスライドで鏡のセットに大きく映し出される。演出部の苦心のたまものだ。
杖を振り上げた魔女の怒りの表情をアオりのライトがさらに演出する。迫力だ。
魔女が振り上げた杖で舞台をドーンと叩く。
とたんにピカッと白光が閃いた。
体育館全体がどよめく。暗幕の隙間をぬって轟く、本物の雷鳴だった。
地鳴りのように空気を伝う振動が魔女の怒りを表しているかのようだ。
この雷は偶然なのか。
客席は一気に静まり返り、魔女の密やかな呪いの言葉が隅々まで伝わり広がっていった。
「この毒リンゴを白雪姫に食べさせてあげよう。おまえを森の闇に引きずり込み、二度と出られなくすることなど、この私には簡単なことなのよ」
オーホッホッホ─── 響き渡る魔女の哄い声。
再び本物の大きな雷鳴が轟く。
まるで体育館全体が魔女の呪いにかけられたかのように息をのんでいた。
噂の二人/江古田高文化祭/演劇・2年B組 『白雪姫』《3/3》へつづく
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※つぎでホントに終わるのか? わかりません。もしかして一回追加するかも~??(@@); お付き合いいただいている奇特なお方、もうひとがんばりお願いします~!m(__)m
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