ペガサスの翼《3/3》(白馬×快斗)
カテゴリ☆噂の二人《3》
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あのキッドのフライト。
ヘリを振り切るためだけに、あれほど危険な落下を試みるだろうか。
黒羽くん……君はいま、いったいどこにいるんだい?
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座り込んだら、動けなくなってしまった。
肌寒い。
ぶるっと震え、肩を竦めて木の幹に寄りかかった。
……何やってんだろ、俺。
さっさと帰って眠ればいいのに。
あああ……。
きっと今の俺、スゲー湿気た顔してんだろうな。
こんな顔、誰にも見せられない。
立てた膝に腕を乗せ、俺は顔を伏せた。
だから……隠れていよう。このまま。
朝になれば、姿が見られるから────。
目を閉じる。
思い浮かぶのは…アイツの顔。
ふわりと微笑んで俺を映す、柔らかな鳶色の瞳。
白馬。
白馬………!
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黒羽の自宅と、黒羽がよく立ち寄る川原の堤防にも行ってみたが、やはり気配はなかった。
もしや、行き違いで僕の部屋を訪れてはいないだろうか?
僕は立ち止まった。
……いや、やはりそれはないだろう。
そうであったなら嬉しいが、彼がそんなに素直なら僕も悩みはしない。
時計を見る。
僕が家を飛び出してから、もう一時間以上が過ぎていた。
落ち着いて考えるんだ…。
彼はどこへ行くだろうか?
彼が〝辿り着く〟としたら。
「…………」
一つ思い当たる場所が浮かぶ。
僕はそこに向かって走り出した。
今の彼が向かうとしたら、きっとあそこだ。
きっと。
僕はひたすら走った。
何に対してか解らないが、意地になっていた。自分の力だけで、彼を見つけ出したかった。
さらに一時間近くも走っただろうか。
熱い。ジャケットを脱いでいても暑かった。
最後は走ると言うより、よろめきながら歩いているに等しかったが。
門はきっちり錠がかけられている。
人目がないのを確かめ、塀に足をかけて門を乗り越えた。
だが、脚が痺れていて、上手く着地できずに僕はつんのめって地面に倒れ込んだ。
はあ、はあ、と、息を吐く。
深呼吸をし、手を着いて立ち上がった。
僕が来たのは、江古田高校。僕らの通う高校だ。
思い返せば、いつもそうだった。
彼の均衡を保つ最後の砦は、此処での高校生活だ。
黒羽はきっとどこかにいる。
いてくれ…!
校庭を抜けて、校舎のそばまで近付いた。
夜間はセキュリティーがかかっていて、校舎には入れない。もっとも彼がその気になればセキュリティーの解除など難しくはないだろうが、その可能性は低い気がした。
屋上かもしれない……。
僕には、しかし屋上に登る手立てがない。
「黒羽くん!」
僕は叫んだ。彼の名を。
「黒羽くん、どこです!」
校舎に反射した僕の声は、暗い校庭に飲み込まれて消えた。
しかし、気配はなかった。
何の気配も、戻ってはこなかった。
いないのか……。
萎えそうになる自分に、僕は懸命に言い聞かせた。
きっと来る。
此処にいればきっと黒羽は現れる。
校庭にある一番大きな桜の木を見上げた。
葉が色付き始めていた。芝の上を歩いて桜に近寄る。
思い出す……。
この桜の花が満開になった時の美しさを、黒羽が話してくれた事があった。
〝ほら、枝がずっと広がってるだろ。お日様を遮るもの無いし、満開になるとほんとスッげえ綺麗なんだぜ! 代々、江古高の生徒達はみんな春になると、この桜の下をくぐるのを楽しみにしてんだ。おまえも、来年は一緒に────〟
一緒に。
そう言い掛けて、黒羽は言葉を途切らせた。僕と目が合うと、急に顔を赤くして。
〝一緒に歩こう〟
そう言おうとしてくれたのだろう? 僕に。
僕は嬉しかった。
本当に嬉しかったんだよ、君が僕にそう話してくれた時────。
「黒羽くん…」
木の幹に手を当てて、僕はもう一度彼の名を呼んだ。その時。
「…?」
ぽたり、と、音がした。
雨? …ではない。肩に落ちた雫。
僕はハッと顔を上げた。
暗かったが、見えた。舞い降りてくる彼の姿が。
「────黒羽くん!!」
ガサガサと葉が散る音とともに、僕の腕に彼が飛び込んできた。
翼を広げた、僕の黒羽が。
両手を広げて受け止めようとしたが、落下の勢いに、僕はしがみついてきた黒羽ごとひっくり返った。
芝生の上に、背中から沈み込む。
黒羽を、抱きしめて。
見つけた。
見つけた。
見つけたよ……やっと、君を。
背に回した腕に力を込めると、黒羽が僕の腕の中で息を深く吸うのが分かった。
「…あったけー」
低い声が僕の胸に直接響く。シャツと薄手のGジャンしか身に付けていない黒羽の体は、すっかり冷たくなっていた。
「黒羽くん」
「白馬の、バーカ」
「なんですか…。やっと逢えたと思ったら」
抱きしめたまま囁いた。僕の声も、震えてしまっていた。
「こんな夜中に、なんで学校に来るんだよ。ヘロヘロんなってさ」
転んだところ、見ていたのか。
「決まってるでしょう」
顔を持ち上げた黒羽の目を覗き込む。
暗くても、その瞳が濡れているのが判った。
「君がいると思ったからです」
僕は持っていたジャケットを広げて、冷えた黒羽の体を包むようにして抱いた。
黒羽は僕の肩に顔を押し付けて動かなくなった。微かに震える背を抱いて、僕も目を閉じた。
生い茂る芝が僕らを包んでくれていた。
夢を見る。
羽ばたく翼。
天駆けるペガサスの夢を────。
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なんか、声がする。
足音。
立ち止まったり、歩き出したり。
眠い。
ふぁさ、と、何かが体に掛けられる。
ん?
ここ、どこだ……?
俺は目を開けた。眩しい。
で、いきなりパニックに陥る。
ここ……校庭じゃんっ…(@@);;!?
ええ?
気が付くと、カーディガンやらタオルがいくつも体に掛けられてた。
『ああー、起きちゃった』と声がする。
クスクスと笑う声。
『まだ時間あるから寝てなよ』とか。
「・・・うわあっ! うそ!」
「…なんですか。うるさいなぁ」
「バカ、起きろっ、白馬! 朝だよヤベエ!」
「…え?」
白馬もやっと目を覚ました。
行き過ぎる早朝練の部活の生徒たちが、みんなコッチを見て行く。
桜の木の下で完全に寝込んでいた俺たちに、朝早く通りかかった生徒たちの何人かが手持ちの服やタオルを掛けてくれていたらしい。
「うああ~っ、やっちまった~~~(ToT)// また噂になっちまうー!!」
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朝の光と共に、僕らは日常に戻った。
いつもの僕らに。
いったん家に戻って制服に着替えるために、少し赤い目をした黒羽と二人して走り出した。
夜中に散々走った脚が痛くて、僕は黒羽の肩を借りた。
通学路を学校へ向かう生徒たちの波に逆らって走る。
みんなに声を掛けられ、笑われながら。
ヨタヨタしながら、僕らも笑った。
20120218
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※カテゴリ☆うわさの二人《3》は、これにてひとまず一区切り…。
お付き合い下さいまして、ありがとうございました。
《拍手御礼+ひとりごと》
かず様、新快4コマに拍手コメントありがとうございます! ぜひまたお訪ね下さいね(*^^*)!
まき様、「秘密は秘密」に拍手コメント嬉しいです!! 新快ラブラブもまた書きたいと思ってますので~!!
林檎さま、いつもありがとうございます! 果たして今回は林檎さま的にはいかがだったでしょうか…(汗)?
今回の締め、もっと早くアップしたかったんですが、なかなか集中できる時間が持てず遅れてしまいました(+_+)。
昨夜は地元ケーブルテレビで『世紀末の魔術師』がやっていて、つい観てしまいました。あらかじめキッド様が変装してると思って見てると、白鳥さんもカッコ良く見えてくるもんです(^^;)。最後の新一くんの変装も、超カッコ良いですよね! 蘭ちゃんはカワイソウでしたけど…、白ハトさんたくさんと共に消えるキッド様、素敵過ぎ~ !(^^)!
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