★拍手御礼+萌えポイント2 を、本日のコメント欄に追記させていただきます(*^^*)!
矢の痕(白馬×快斗)
カテゴリ☆噂の二人《3》
※今度は白馬くん視点にて。間を開けようと思いながら、またまたつづけちゃいます…(*_*;
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工藤新一の突然の来訪から四日が過ぎた。
黒羽は鬱(ふさ)いだままだ。
毎日近くで過ごしていながら、僕は本当の意味で黒羽に近付けずにいた。
あの日堤防で拒絶されて別れた後、黒羽にメールを送ってみたが〝少しほっといてくれ〟という短い返事が戻ってきたのみだった。
さらに言うなら、クラス中が黒羽の様子を気にしていた。
工藤新一の〝告白〟が影響している事は間違いない。普段なら何事もネタにしてしまう黒羽の悪友達も、今回ばかりは黒羽の様子に、その心の内が分からず声をかけそびれている。
〝三角関係〟を憂う僕の気持ちを思ん計ってくれてもいるのか、皆の僕に対しての眼差しも興味本位と言うよりは、はっきり〝同情〟の色が濃いように感じる(もちろん僕にとって居心地がいいものでは決してない)。
黒羽の幼なじみ・中森青子も、僕に忠告を与えた〝魔女〟小泉紅子も同様だった。
皆が黒羽の明るい声を聞きたがっていた。 オーバーではなく、彼が放つオーラがこのクラスの活力に多大な影響を与えている証だった。
金曜の午後。黒羽は自席で大人しく授業を受けていた。担任の女性教師が受け持ちの数学だった。先生も気にしてチラチラ黒羽を見ている。 そのうち、先生は〝この数式が解ける人〟と皆に呼び掛けた。少し複雑な応用問題。誰も手を挙げない。すると先生は〝黒羽くん解る?〟と指名をした。
皆が黒羽を見る。
黒羽はおもむろに立つと、すらすらと解答した。もちろん正解だった。しかし担任は相変わらず腑に落ちない表情で眉を顰めている。
先生までも黒羽を心配している。そしてその事はクラス全員も分かっていた。
終業のチャイムが鳴ると、黒羽はすぐに帰り支度をして席を立った。ここ数日は毎日そうだ。 僕は僕で堤防で黒羽に拒絶されたショックを引き摺っていたのだが、歩き出した黒羽が何だかふらついているように見え、思わず僕も席を立ち上がっていた。
教室の後ろのドアに向かう黒羽の前に立った。黒羽は僕に気付いてなかったのか、ぶつかりそうになった。
あ…と、小さく声を漏らして黒羽は間近で顔を上げると二三度瞬きをして、それから息を吸った。すると────
アッ、キャア、と周囲から声があがる。
黒羽はそのまま僕の肩に頭をぶつけるように倒れ込んできた。かろうじて自力で立ってはいるが、どうやら意識がはっきりしていない。 僕はそのまま両腕で黒羽の背を抱き締めた。深く、包むように。
黒羽の吐息が穏やかに繰り返される……。
僕は黒羽の鞄を近くの生徒にいったん預けて、黒羽を抱き上げた。
「先生、黒羽くんが熱っぽいようなので保健室に連れて行きます」
まだ教室に残って成り行きを見守っていた担任に告げると、お願い、と承諾された。ドアのそばの席の男子生徒がドアを開けてくれた。
「ありがとう」
僕は黒羽を抱いて廊下に出た。
さざ波のような穏やかな拍手と歓声がクラスの方から聞こえてきたのは、僕が階段に差し掛かってからだった。
自惚れかも知れないが、黒羽は僕の〝匂い〟を間近で吸い込み安堵を覚えたのではないだろうか。そして睡魔に囚われた…。
保健の先生に診てもらったが、黒羽は微熱程度で〝風邪〟の類でも無さそうだった。疲れだろう。 おそらく睡眠不足なのだ。通常なら休み時間なり授業中なり居眠りを決め込んでいたのだろうが、今回はどうやらそれをしていなかった。
寝付けないほど工藤のことを考え込んでいたのだろうか。自分に交際を申し込んできた相手として? 或いは宿敵の〝探偵〟に〝黒羽快斗〟として完全に認識されてしまった事への不安から……?
とにかく今日のところは暫くこのまま付き合う事にした。
子供のような幼さを覗かせる黒羽の寝顔は絶品なのだ。こんなところに他人を近付かせたくない。僕だけのものにしておきたい────。
ヒーターが入っている保健室は暖かで、僕も思わず出掛かった欠伸をかみ殺した。
腕を組み、椅子に背をもたせ掛けて脚を組む。
黒羽の胸に刺さった〝光の矢〟はまだそのままなのだろうか。黒羽は自分で抜くことが出来たのだろうか。
抜けたとして、その矢の痕はきちんと塞がっているのだろうか………。
黒羽自身と僕らを取り巻く微妙で複雑な幾つものバランス。
これから先、何が起ころうとも僕は引くつもりはない。黒羽が安心して本来の自分として過ごせる〝高校生活〟を僕は何が何でも守りたい。
穏やかに眠る、この無防備な姿の〝彼〟を。
20121204
[11回]