迷いのアプローチ(白快前提 新一→キッド)
カテゴリ☆噂の二人《3》
※新一視点にて。
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「なんだぁ? 工藤くんじゃないか。どうしてこんな所に」
「それを訊きたいのはこっちですよ、中森警部。いや…怪盗キッド!」
嵐が近付いていた。強風が吹き付ける。
ベルヒルズ・タワー高層階の屋外管理スペースは、普通でも恐怖で立っていられない程の高さだ。
流れる黒い雲が美しい満月を覆い隠す。
「────やれやれ。あなたには本当に手を焼きますよ、名探偵」
警部のシルエットが朧ろに霞む。次に月明かりが差した時、浮かび上がったのは中森警部ではなく、白い姿の怪盗だった。
「キッド!!」
シルクハットを指で押さえたキッドは俺に軽く会釈をした。風でまとわりついたマントが激しく揺れている。
「今夜は私は下見に来ただけ。予告状もお出ししていません。お見逃し願いたいですね」
切れ切れの黒い雲が俺たちを横切る。互いに動くキッカケを探しながら数歩の距離で睨み合った。
「それにしても、こうも早く天候が変わるとは。とうに失礼しているはずだったのですが」
「飛ぶのは無理だぜ」
「ええ」
「おとなしくこっちに来い」
「そうも参りません」
怪盗が手すりを支えに身を翻そうと構える。
バカな。出入り口は俺の背後だ。他に逃げ場はない。
驚いた俺の隙をついて、怪盗は閃光弾を炸裂させた。咄嗟に目を閉じる。飛び降りようと見せたのはフェイク。脇をすり抜ける気配────!
「待てっ、キッド!」
閃光が淡くなる。目を開け、閉まりかけたドアに飛びついた。
ガアンという衝撃。伸ばした左上腕を挟まれた。
「うあっ!!」
あっ、と怪盗の声が聞こえた。
ドアが開く。俺は中に転がり込んだ。
「ううっ…!」
「バカヤロォ、名探偵っ」
腕を押さえて突っ伏した俺のそばに、キッドが膝を着く。このまま走れば逃げられるのに。俺はキッドにタックルした。ひっくり返ったキッドにのし掛かる。
「気遣ったつもりか…。俺を甘く見るな」
「下手をすると骨折していますよ?」
「してたって逃がさない」
「簡単に逃れられます」
「これでもかっ」
ポケットから引き抜き様、俺は手錠をキッドの右手と自分の左手に掛けた。キッドが溜め息を付く。
「0.5秒で外してご覧にいれますが?」
「……じゃあ、これならどうだ」
俺はキッドの顔を見詰めた。ハッと見開いた蒼い瞳に俺が映る。
俺はキッドの唇に自分の唇を押し当てた。
息をのんだキッドが俺を押し退けようともがく。キッドが顔を背け唇が離れても、俺はもう一度口付けた。
「…や、めろ工藤! 逃がさねえって、こういう事じゃねえだろ」
「口調が変わってるぜ。こっちが素だな」
「…………」
混乱した様子の怪盗の肩に顔を寄せた。
「キッド。おまえの正体が知りたかった」
「…………」
「だけど、今は知りたくない」
「……何故です」
「知ったら、おまえにも近付けなくなる」
「……………」
「本当のおまえを見つけたと思ってる。だけど、それを確かめられない」
「…………」
「確かめたら、俺は────」
〝カチャリ〟。
金属音に気付いて、俺は顔を上げた。
キッドは怪盗の醒めた表情に戻っていた。
「名探偵が何を仰っているのか解りかねますが、とにかく急いで病院に行かれる事をお勧めしますよ。外科と、ついでに精神科もね」
くそ。
俺の告白全部聞く前にシカトの上、精神崩壊扱いか。そう思われても仕方ないが。
「あっ」
ゴロリと体を返された。
見ると、キッドは錠を外し涼しい顔で立ち上がっていた。
見下ろす醒めた視線がつらい。
俺は……どうすればいいんだ。
「そんな顔をならさないで下さい。予告は明日出す予定です。では…腕をお大事に。ご無理は禁物ですよ」
ポン!と、煙幕が張られる。
ブルーの煙幕が掠れた時には怪盗の姿はもう消え去っていた。
俺は体を起こして床に座り込んだ。
左腕は痛むが、骨折はしていない。ヒビが入った程度だろう。とりあえずそう思うことにした。
腕より、今痛むのは心の傷だ。我ながら情けなくて堪らない。
キッドの温もりを感じ、抑えられずに口付けた。あげくに、解っていたことだが拒否られて、数倍に膨らんだ失恋の大き過ぎる痛手。
それでも、どうしても言えなかった。
蒼い大きな瞳を目の前にしても。
〝おまえは黒羽快斗だろう〟と言うことは、とうとう叶わなかった────。
20120117
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※キッド様が何のお宝を狙っているのかの詳細はスカッと省略です。スミマセン…(*_*;
[8回]