名探偵コナン・まじっく快斗の二次BL小説。同ジャンル諸先輩方の作品に触発されております。パラレルだらけですが基本は高校生の新一×快斗、甘めでもやることはやってますので閲覧は理解ある18才以上の女子の方のみお願いします。★印のカテゴリは同一設定で繋がりのあるお話をまとめたものです。up日が前のものから順にお読み下さるとよいです。不定期に追加中。※よいなと思われたお話がありましたら拍手ポチ戴けますと至極幸いです。コメント等は拍手ボタンよりお願いいたします! キッド様・快斗くんlove!! 《無断転載等厳禁》

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2011年8月26日よりブログ開始
2012年5月GW中にカテゴリ分け再編&アクセスカウンター設置
2013年5月 CONAN CP SEARCH 登録
2013年6月 青山探索館 登録
連絡先:hamanosuronin★gmail.com(★を@に置き換え)
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千年の孤独 (探偵×怪盗)


俺は孤独だった。

仲間はいる。

しかし、真に心の内を――弱い部分までさらけ出してしまえるような相手はいない。
むしろ俺の正体を知る者たちには、余計な心配をさせたくないので――俺はやはり独りだった。

独りで月夜の空を舞い墜ちる。
舞い降りるのではない。
『墜ちる』。

いつか、少しでもミスをすれば、死ぬ。心の片隅にはそんな覚悟もある。それでもマジシャンなら、怪盗なら、そんな不安などは決して悟られないよう胸の奥に隠し固く鍵をかけ、微笑で観衆を惑わし鮮やかにショーを締めくくる。

それでも時には――そうしたもろもろの不安に囚われて、多少なりとも投げやりな気分になる。

例えば、どこまで翼を開かず自由落下が可能なのかとか。無駄に試してヒヤリとしたこともある。

そう――いつか、ミスではなく、自分自身で翼を開くことをせず墜ちていってしまいそうな――そんな不毛な誘惑さえ覚えてしまう。
目的も、生きる意味も何もかも忘れ、ただ落下してゆく誘惑。
いつかそんな時が不意に訪れて、自分は死ぬのじゃないだろうか。




今日もいつもと同じ、徒労の帰途に就く。

超高層ビルの摩天楼のその突端に立ち、遥かな下界を見下ろした。
昼は雑多なエネルギーの排出で霞んで見える風景も、十六夜(いざよい)輝く夜景はそうした汚物の全てを覆い隠し、とても美しかった。
いざよう。迷い、躊躇するという意の古語。まさに今の場面に相応しい。

誰かが――俺の背後に立つ。


「…これはこれは名探偵。わざわざこんなところまで足を運んでいただけるとは恐縮です」

工藤新一。
コナンだった頃に何度か戦い、あるいは協力した相手。戻っていたのか。
しかし、真後ろに立たれるまで気が付かないなんて、俺も焼きが回ってる。

「私を捕まえに?」
俺が問うと、名探偵は無言で頷いた。

「そうですか。残念ですが私はもう "墜ちる" 時間です。さようなら」

工藤を見ずに言い捨て、俺は眩しい夜景が広がる世界へと身を投げ出した。


空気を切って墜ちる加速。
長くても10秒と少し。その間に決断する。今日はどうするのか。翼を広げ生きるのか。それとも――

キッド、と微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。
目を瞠(みひら)く。有り得ない事に、工藤が俺を追って墜ちてくる。

ばかな―――――――!




高層ビルと高層ビルの敷地の間に整備された公園。そこに広がる深い芝の中に、もつれるように着地した。
間一髪だった。翼を広げると同時に体を反転させて工藤を抱え、二人分の体重のバランスを取りながら、かろうじて柔らかな草地に着地できた。
もう一度やれと言われても無理だ。そのくらいきわどかった。
息が上がって、しばらくは声も出なかった。

工藤も青ざめ、震えていた。

「なんて事すんだ てめぇっ、死ぬ気か!」

俺がようやく怒鳴ると、工藤も大きく息を吐き出した。

「――に…みえた……」

「なに?」

淋しそうに 見えたから

探偵はそう言った。

「ば……」

ばかなことを、と言葉にする事ができなかった。
俺を見上げる工藤の瞳に、震える俺が映っている。

「お前があのまま墜ちて――消えてしまうんじゃないかと思ったんだ」

ばかを言うな。

俺は、俺は…。

工藤が俺の肩を引き寄せた。

「お前が呼んでる気がしたんだ…」

隠していた鍵に、探偵がそっと手を伸べる。

目が霞み、頬が熱い。ふと拭うと、手袋が温かいもので濡れた。

キッド。

工藤の声。工藤の鼓動が聞こえた。



俺は

生まれて初めて

他人の胸に抱かれ

慟哭した








20110902


―――――――


新一サイドの「補完~夢」と対のイメージで書いたものです。




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