名探偵参上(新一×キッド)
※高木刑事視点にて。
────────────────────────────────
工藤くんは今日も冴えていた。
いつも通りの探求心と膨大な知識量で犯行のトリックを解き明かし、それを行うことが可能な犯人を導き出し、その動機をも推察して。
「いやあ工藤くん、ありがとう。速やかに確保出来たおかげで犯人の自殺を防ぐ事も出来たし、本当に助かったよ」
「いいえ。花を持たせてもらってすみません。高木刑事こそ本当は解っていたんでしょう? 犯人が誰なのか」
流し目で仰ぎ見られ、何故だかドキリとしてしまう。自分よりずっと年下だというのに、名探偵の涼やかな瞳に見詰められると心の中を見透かされそうでどうにも焦る。
「い、いやいや…、ぼくのはヤマ勘だから。トリックの謎も全部は解ってなかったし、動機も全然」
「そうでしょうか。僕がいなくても、きっと高木刑事がご自身の力で事件の謎を解き明かしていましたよ」
─────そうかな(^^;)。
煽(おだ)てられている気もするが、そう言われると自信になる。たとえ年下だろうと相手は迷宮なしの名探偵、その実力は嫌と言うほど分かっているのだから。
「高木刑事は本当に良い方ですね」
そう呟くと、工藤くんはイヤホンを外してポケットに突っ込んだ。
「…………」
なんだったんだろう? まさか音楽でも聴きながら推理….? だがそんな姿を見たことはこれまでなかったし。
工藤くんは今夜現れた時からイヤホンをしていて、それを隠そうともしていなかった。なのでついスルーを…イヤホンの理由を訊きそびれていたのだが。
「おこがましい事を言ってすみません。ほかの刑事さんなら怒り出すかもしれませんね。なにが高校生探偵だって…上から見やがっていい気になるのも大概にしろってね」
「何を言ってるんだい。君の推理力は誰もが認めている。誰も君のことをそんなふうに思ってやしないよ。君は我々警察が頼りにする、正真正銘の名探偵じゃないか」
ふふふ、と工藤くんは背を向けて笑い、窓を開けた。
四階建ての古びた洋館。その屋根裏の小部屋だった。なんとなく話しながら工藤くんに付いてここまで上がってきてしまったのだ。高い位置から外を見たいのかな…?
工藤くんが窓際に立ち、ぼくを振り返る。扉を背にしたぼくとの距離はほんの僅かだ。
「名探偵に高木刑事のお言葉お伝えいたします。あれで本人は自分が探偵として真に大人たちに受け入れられているのか心配しているようですから」
「え……?」
バサリと広がった布が目の前の工藤くんをぼくから一瞬覆い隠す。
ふわりと漂う気配に、突然肌が粟立った。
そんな…、まさか。
まさか。
まさか。
ぼくが工藤くんだと思って話をしていたのは────
「か…、怪盗キッド!!!」
「こんばんは。高木刑事」
開け放った窓から夜風が吹き込む。
恭しくマントを翳し、ぼくに向かって頭(こうべ)を垂れていたのは紛れもなく白い姿の怪盗だった。つい今し方まで完全に工藤くんだと思っていたのに!
「どうか誤解のなきよう。高木刑事だからこそ姿を現したのです」
「なっ、なぜ?! 本物の工藤くんはっ?!」
「お静かに。まだ階下に他の警官が残っています」
「えええええええっ@@?? それじゃ、さっきの推理は?!」
「あれは本物の工藤探偵の推理ですよ。マイクでこちらの状況は彼に伝わっていましたから」
「それって…どういう……」
─────そういえば、見て解る証拠品なども今夜の工藤くんは…いやキッドは、いちいち声に出して確認していた。あれは工藤くんに内容を伝え、イヤホンで工藤くんの指示を受け取るためだったのか!!
「キミは…、いったい君たちは…? 君たちは、相容れない筈のライバル同士なんじゃないのか? なのに…どうして」
「ですから誤解のなきよう、とお願いしているのです。彼と私は仰るとおり宿敵です。だからこそ通じ合うものもある」
「…………」
宿敵だからこそ通じるもの。
ぼくがその時思い浮かべたのは、佐藤さんがかつて慕っていた、今はもう亡い先輩刑事だ。
一度も面識のない…だからこそ気になって仕方がない、永遠に超えることの叶わないライバル。
もし…もし彼が今も生きていたら、果たしてぼくは彼のライバルになれたんだろうか?
「実は先日工藤探偵に思わぬ借りを作ってしまいましてね。少々いざこざに巻き込まれ私が飛べなくなっていたところを彼は見逃してくれたのです。その借りを返すチャンスを窺っていたのですよ」
「借り…を?」
「ええ。いつまでも恩に着せられていてはシゴトがやりにくくて仕方ないですから」
「それじゃあ、工藤くんはいま…?」
「自宅で臥せっていますよ。風邪だそうです。熱は高いですが、推理もきちんと出来ていましたし心配ないでしょう」
クスリと笑って怪盗はぼくを見た。
どきりとまた心臓が高鳴る。
「名探偵が無理をしてでも警察の要請に応じようとしていたので、代わりに私が変装して参上し、マイクとイヤホンを通じて彼に借りを返させてもらったというわけです」
「………」
本当に?
ぼくは不思議だった。
探偵と怪盗を結ぶ絆とは……? 本当に貸し借りだけなのか。ライバルであるはずの工藤くんとキッドに、いったいどんな繋がりがあるのだろう。
「……ですから今夜のことは内密にお願いしたいのです。私が姿を現したのは私の判断。そのせいで工藤探偵に迷惑をかけるわけには参りません。どうか、高木刑事」
「わかったよ、怪盗キッド」
キッドの頼みに、ぼくは咄嗟に頷いてしまった。
刑事として有り得ない行動だと判っていたけれど、それでも。
どうしたわけか、キッドはぼくを信用して…ぼくにだけ姿を見せてくれたのだ。工藤くんとしてそのまま去る事が出来たにも関わらず。その理由は後でゆっくり考えることにして……いまは、その信用に応えたい。この抗いがたい魅力を湛えた怪盗紳士に。
「君と工藤くんとの事は誰にも言わない。ぼくも忘れる。今夜は助けてもらったわけだし」
「ありがとうございます、高木刑事」
怪盗は小首を傾げてぼくを見つめた。
なぜかまたドギマギしてしまう。中森警部や工藤くんが魅入られたようにキッドを追いかける気持ちが解る気がした。
「ところで…これは余談なのですが」
「?」
「あなたの恋人の女刑事殿は、あれでなかなか古風なところをお持ちの様子だ。時には薔薇の花束など贈ってみるのも良いかと存じます」
「・・・・」
恋人のことを言われ、ぼくはつい赤くなって固まってしまった。
ポン!!
パステルピンクの煙幕と薔薇の香りと共にキッドは消えた。
急いで窓から身を乗り出して外を見たが、あの白い翼は見つからなかった。
高木くん、 工藤くん、 帰りましょう!
そう呼んでいる佐藤さんの声を聞きながら────今度のデートには奮発して薔薇の花束を贈ろう!とぼくは決心した。なんせ、あの月下の怪盗紳士のアドバイスだ。試す価値は十二分にある。
そして階段を駆け下りながら〝工藤くんが消えた〟訳をどう説明しようか、ぼくは頭を悩ませていた。
どうせならそれもアドバイスしていってほしかったよ…、怪盗キッド!
20130527
────────────────────────────────
※お粗末様です。例によって冒頭事件については省略です、ご容赦を(+_+)。キッド様は屋根の上にいったん隠れ、時間をおいて翼を広げて去ると思われます。そしてキッド様が高木刑事に姿を見せたのは、多分にイタズラ心からかと…(^^;)。
※高木刑事目線の『隠れ新K』と言うことで、カテゴリは(新一×キッド)としておきます~。
●拍手御礼!!
「依存症」にどなた様か拍手ありがとうございました。嬉しいですー(*^^*)。
[15回]