★拍手御礼/林檎様、続けての拍手コメントありがとうございます! 普通の高校生パラレルの快斗くんは本来の快斗くんとちょっとタイプが違うのですが、そっちにも拍手いただけて嬉しいですー!
月と待ち合わせ ~ムーンストーン~(新一×キッド)
※毎度な感じの軽めを目指したんですが、今回は特に展開が妙です(汗)。探偵のノリが普通じゃありません。さらっと流してお見逃し下さい…(*_*;
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オレにとって〝月〟とは、〝アイツ〟のことだ。
よく晴れた日の晩、夜空に輝く月を見るたび胸が高鳴る。
怪盗キッド。
蒼白い月明かりをはじいてマントを靡せるアイツの姿。
思い浮かべるだけで、胸がどきどきして止まらなくなる。ああ……。
これは、もう〝恋〟だ。
とうに解っていたけれど。
しかしあらためてその言葉を思い浮かべると、やたらと体中が熱くなった。
そうだ……告白しよう。
次の満月の夜に。
怪盗が姿を現すその晩に。
待ち伏せて────捕まえて。そして伝えるのだ。この想いを。
叶うならば、あの白い姿の怪盗をこの腕の中に。
そして……。
「ちょっと工藤くん…ニヤケすぎじゃない?」
げっ。
「は、灰原っ、いつからそこにいんだよ! いいとこで話しかけんじゃねーよっ」
「いくらベル鳴らしても返事がないからじゃない。門も玄関も開いてるし、電気も点いてるのに。どーせろくでもない妄想に耽っていたんでしょうけど」
「うっせーな。自分ちで何考えようが自由だろ! プライバシー侵害だぞ、チクショウ」
いつの間にかオレんちのリビングに立っていたのは、オレと同じく元に戻った白衣姿の宮野だった。いまだに灰原と呼んでしまう。
彼女は天涯孤独、子供の姿の時と変わらず今も隣で表向きは阿笠博士の助手として暮らし、公にできないような怪しい研究を続けている。
「いったい何考えてんだか知らないけど……いえ、想像つくけど。頼まれてたもの出来たわよ。ホラ」
「まじ?! 出来たのか! あっ、なんだよ、もったいつけんな!」
灰原め。薬を渡すと見せかけてフェイントかけやがった。
「自分で試すくらいの根性があるなら渡すけど?」
「もちろん。ちゃんと効いたら謝礼ははずむぜ、将来的に!」
灰原はやれやれというように首を振り、溜め息を付いた。
「なんだかアクマと取り引きしてる気分だわ。研究にはこの先も費用がかかるだろうし…。ただし言っとくけど、効き目は誤差が出る可能性があるから注意して。あまり強くすると危ないの。これが限界よ」
「というわけで、捕まえた!」
嬉しくって顔がほころぶ。
近くで見ても、やはり怪盗は美しくセクシーで、思った以上に繊細だった。
「…あのう、名探偵」
屋上の片隅に背を押し付けて立ち尽くした怪盗が、困惑顔で首を傾げる。
「いまの針は、麻酔ではないのですか」
「似たようなもんだ」
「えーと…、あの、でも」
「意識ははっきりしてて、話も出来るけど、手脚は動かない」
「はぃ……」
「やった!」
オレがガッツポーズをすると、怪盗はますます困った様子で眉をひそめた。
「ジュエルは展示室の中央シャンデリアの中にこっそり置いてきましたので、そちらをお探しになっていただけませんか」
「ジュエルなんてどーでもいい」
「なんで。いえ、なぜですか」
「おまえを捕まえたのはジュエル窃盗犯だからじゃない」
「じゃあなんだよ!……じゃなかった、ではいったいなぜ」
説明は面倒だ。長くなるし。
オレはとりいそぎ欲しかったものに口付けた。怪盗の形のいい唇に。
「──── っ、てめ、、いや、名探偵、何をなさるんです」
怪盗が狼狽えるのがカワイクて、オレはもう一度怪盗の頭を抱えるようにして怪盗の唇を全面的にいただいた。もちろん唇だけでなくその隙間も縫って。
柔らかい。甘い。温かい。期待通りの感触だ。感激で胸がいっぱいになる。
「愛してる。キッド」
「………………」
竦んだまま頬を染めて震える怪盗。
「結婚してほしい。このまま抱いていいか」
「は…、はあ? ふっ、ふざけるのもいい加減に」
「本気だ。好きだキッド。愛してる。おまえを警察に逮捕させたくない。だから捕まえたんだ。おまえが欲しい。オレのものになってくれ」
「む、む、ムチャ言うな! 同意なしでナンカしたら、ゴーカンだぞっ」
「同意はおいおい貰えればいいよ」
「そ、そんなん、ばか、うわあっ」
がっしと肩を掴まれた。
・・・・アレ?
「……動いた」
怪盗がオレの肩を両手で掴んで真っ赤な顔して震えている。
「かわいい…。キッド、おまえってやつぁ、ホントにかわいいぜっ!!」
「ドアホーッ!」
怒りのためか照れているのか関西弁になった怪盗が、オレをぶん殴ろうと振りかぶる。
しかし、まだ薬の効き目が残っているのかキッドの動きはぎこちなかった。
拳をかわし、体全部を使ってキッドを抑え込み、覆い被さる。両手を捕らえた。
シルクハットが転がり、茶色がかった髪を跳ねさせた怪盗がオレを見上げて目を見開く。
「……しつけーぞっ名探偵、いい加減にしねーと」
「どうしてくれる? おまえになら、たとえ殺されても悔やまない」
「……………」
これでもかと求愛の言葉を繰り出す。本心だ。キッドの揺れる瞳を覗き込んだ。
「!」
バサッと突然耳元で羽音がした。
鳩───。
一瞬、キッドから目を離した。
ポン!!
しまった。
煙幕で何も見えなくなる。掴んでいたはずのキッドの手が、気付けば振り払われていた。
「待て、キッド!! あっ」
ゴロリとひっくり返され、形勢は完全に逆転した。
起き上がろうとしたら、右手首に硬いものがガチリと食い込んだ。オレが内ポケットに入れてた手錠。鉄柵に繋がれてる。いつの間に!
「名探偵がこれほど強引かつせっかちな方とは存じませんでした」
怪盗の言葉遣いに戻ったキッドの声が頭上から響いた。
見上げると────満月と重なるあの美しいシルエット。シルクハットも元通り、そして同様に月明かりを纏った白羽の鳩を指先にとまらせて。
「それでも……とにかく、名探偵のお心に偽りがないことだけは」
「わかってくれたか!!」
「……………」
躊躇いながらもキッドは小さく頷いた。……ように見えた。いや、ぜったいに頷いた。
「キッド、好きだ。愛してる。もし今夜の無礼を赦してくれるなら、次におまえが現れる夜、必ずまた逢いにゆく!」
怪盗が僅かに肩をすくめる。
「よいでしょう。もし私の暗号が解けたなら、名探偵のお申し出について考えてみましょう」
「プロポーズを受けてくれるってことか!!?」
「ちょっ、ま、慌てんなっ、いえ、あの、そう一足飛びというのはいかがかと……まずは……オトモダチから」
「いいだろう。暗号文、待ってる。キッド…おまえだけを、オレはずっと待っている!」
キッドの顔は逆光でよく見えなかったが、微笑んでいた。微笑んで、頬を染めていた。……と思う。たぶん。
スッとキッドが手を払うと同時に鳩が消え、そして目の前が真っ白になった。
手錠の鍵はそのままポケットに入っていた。
自分で試した時より薬の効き目はずっと短かったが、それでも想いを伝え、抱きしめ、口付けることが出来たのだからオレは嬉しかった。
しかもそれだけではなく……次に逢う約束を得られたのだ! これが浮かれずにいられるかっ。ひゃっほう~♪
ああ、暗号文が届くのが待ち遠しい。
どんな月の夜を選び、どんな場所へオレを誘ってくれるのだろう。
その時はもう薬には頼らない。
代わりに……そうだ、想いを誓う指輪(タイピンの方がいいだろうか? もしくはモノクルの飾り?)をキッドに贈ろう!
神秘の力を秘めた月の光を宿す石、美しい〝ムーンストーン〟をあしらって。愛する人との出逢いと恋愛を成就させてくれるというパワーストーンを。
〝月〟と待ち合わせをする、その夜に。
20121101
[13回]