濡れ衣《2/2》(新快前提 ××→快斗)
カテゴリ★普通の高校生パラレル
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『黒羽……、否定しないって事は認めるわけだな』
顎を掴まれ、顔を持ち上げられる。
ーー バァーン!!!
「なにやってんだっ、てめえら!!」
勢いよく扉が開いて、空気が一変する。
入ってきたのはサッカー部の主将(キャプテン)だった。
主将の気迫が、勝さっていた。
やましさがあるからだろう。気が抜けるほどアッサリと三人は俺を解放した。
何も言わず、主将の顔も見ようとせずに扉からすり抜けるようにして次々と視聴覚室を出て行く。
俺を殴った先輩に、主将がすれ違いざま何かを言っていた。
「よぉ~快斗、大丈夫か。ひでぇ目にあったな」
扉の外から、もう一人ディフェンダーの先輩が顔を出した。
「……主将、先輩も……ありがとうございました」
声が震えている気がして、それだけ言うのがやっとだった。
「例の噂がらみで因縁つけられたんだろ。くだらねぇこと気にすんなよ。みんな無責任に面白がってネタにしてるだけで、噂がホントだなんて誰も思ってやしねぇんだから」
「コイツ、鼻が利くから、一年が走って俺を呼びに来たの見て、ついてきやがった。それにしても…教室にいたからよかったが」
「…………」
「あいつら、前から快斗に興味持ってたんだ。こんなやり方しか出来ないとはな…。まったく!」
「とにかくよ、今日はもう帰れ。なっ」
「大丈夫か? 快斗」
主将に目を見て訊かれ、かろうじて頷く。
「あの…、主将たちは……大丈夫なんですか?」
「俺たちを心配してんのかよ、ばかだな。三年は今すごーく微妙な時期なんだ。あいつらだって問題でかくしたくはないだろ。ちゃんと釘刺しといたから」
「…………」
「快斗さぁ、引きずんなよな。間違ってもサッカー部辞めるだとか、学校休むだとか、言い出すんじゃねえぞ」
先輩の言葉に、主将も頷いた。
「明日の練習は必ず参加しろ。いいな」
主将たちにもう一度礼を言い、見送られながらトボトボ階段を下りた。すると、俺を教室まで呼びに来たあの一年生が下の階に隠れるようにして立っていた。
「すみません、おれ……ただ黒羽さんを呼んでこいって言われて。でも、なんだかヤバい気がして、それで」
泣きそうな顔をしている一年の肩を叩いた。
「走って主将を呼びに行ってくれたんだろ。ありがと…」
すみません、すみません、と繰り返す後輩に、気が付けば自分も主将に言われた同じセリフを言っていた。
明日の練習、ちゃんと出ろよ…と。
ぼうっとして歩いていたら、いつの間にか堤防に出ていた。
頬が少しジンジンしている。そういえば腫れないように冷やしとけって、先輩に言われたっけ……。
堤防を降りて、遊歩道に設置されてる水道の水でハンカチを濡らした。
脇のベンチに腰掛けて左右交互に頬に当てる。
そうしたら、思い出したように涙が溢れてきた。
情けなくて、みっともなくて、止まらない。
いま独りでいることが、とてつもなく寂しかった。
陽が暮れてゆく空を見ながら、新一の事を考えた。
新一。
新一だったら、たとえどんな相手でも怯んだりしないだろう。真っ直ぐに自分が信じるものを見つめて。
決して卑怯な相手の言いなりになど、ならないだろう……。
新一。
新一。
逢いたいよ、新一。
いますぐ走って、新一に逢いに行きたい。
だけどこんな顔じゃ逢いに行けない。新一に余計な心配させてしまう。
でも、逢いたい。
逢いたいよ……。新一……!!
家の玄関を入ると、ポケットの中の携帯電話の着信音が響いた。
新一からだった。
コール音が数回鳴り、留守録に切り替わる。
『快斗…? まだ外かな。明日か、あさってか、週末に逢えるかな? 快斗の明るい声が聞きたいよ……。またメールか電話する!』
ブツッと回線が切れると、俺は真っ暗なリビングの壁により掛かった。
そのままズルズルと崩れ落ちて床に座り込む。
何も考えられなかった。
ただ寂しくて、たまらなかった。
20121030
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※イイワケ的あとがき
いい先輩もワルイ先輩も名ナシで通しちゃいました。誰のセリフか判りにくくてスミマセン(>.<);;
当初は白馬くんも少し出番があったんですが、中途半端なので今回は割愛しました(汗)。そしてラストが暗い…。いずれ続きを書くつもりです~(*_*;
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