真逆の月(新一×キッド)
※2011.12.08~09 up「罠」の、なんとなくつづきです(++)。
★どなたか、「罠」ともども拍手ポチありがとうございました~(^^);//
────────────────────────────────
お手上げというように手を広げ、ヤツが振り向いた。
「どうして解った? 名探偵。俺が今夜ここに来ることが」
「解るさ。あれからずっとおまえのことだけ考えてたんだからな」
「そりゃ光栄だね」
「降りてこい、怪盗キッド!」
オレは腕時計型麻酔銃の照準を絞りながらキッドに呼びかけた。
素直に降りてくるか。それとも。
ふわ……とマントが膨らむ。
風を孕み、それ自体が生き物のように────まるで俺の心を弄ぶかのようにたなびいて。
ハッと目を見開く。我に返った。
目の前には怪盗キッド。モノクルに逆さの月。そしてオレの惚けた顔が映っていた。
「あっ!」
左手を弾かれた。麻酔の針が飛び出し、無駄になる。
「キッド、てめ…ッ」
「へへん。怪盗を眠らせて悪戯しようなんて探偵の風上にも置けないね」
「誰がイタズラだっ!」
「目的を言えっ、名探偵!」
「こっちのセリフだ、このコソドロッ」
交錯しながら二・三発やりあうが互いにヒットすることなく、間をおいて再び睨み合った。
「今度のターゲットは来週この最上階に展示されるブルーダイヤか!」
「さあね。たまたま降りただけさ」
「都合よく?」
「偶然さ」
キッドが白い手袋に包んだ左手を振り上げる。同時にオレはサッカーボールを膨らませていた。
「勝手に勘ぐってな名探偵! あばよっ」
「逃がすか!」
左手はフェイクだ。
俺はフェンスへ体を返そうとしていたキッドの右腕を狙い、増強シューズで思い切りシュートを放った。
ボールが加速する。
「うわっ!」
狙いどおりキッドの右手を弾いた!
キッドの手から仕掛けが飛び、その衝撃にキッドがバランスを崩す。今しかない。
オレを見たキッドが目を見開らく。勢いのまま、オレは突っ込んだ。
はあ、はあ、はあ・・・・。
暫く動けなかった。
苦しい。空気が足りない。
一分にも満たない対決だったが、呼吸する間もなかった。
うっ…、とキッドが呻く。
「────?」
抑えつけたキッドの様子がおかしい。
ドキリとして俺は体を起こした。
「キッド…、おいっ」
キッドの口から血が流れていた。俺は驚いて跳ね起きた。
「キッド?! おい、しっかりしろっ!」
思わず揺り起こそうとして手を止めた。頭を強打してたら、動かしてはまずい。
「キッド……!!」
怪盗は力を失い、ただ冷たいビルの屋上に身を横たえていた。
血の伝う頬に触れる。
閉じた睫毛が微かに震えた。モノクルがない。シルクハットも転がり落ち、柔らかくはねた髪が顔を覆っている……。
自分の鼓動を不意に意識した。
なぜ。
たった今まで相対していた〝宿敵〟なのに。
だが、忘れられずにいた。一度だけ重ねた唇の記憶。
あれは────飛行船事件の時。
あの時キッドはオレを助けてくれた。
囚われ、テログループの男たちに辱められようとしていたオレを、コイツは自分を盾にして……。
「・・・?」
怪盗がみじろぐ。浅い吐息。
…あ。
キッドの腕…が。
白い手袋の指先が…ゆらりと持ち上がって。そうっと探るように俺の腕から肩へとたどり、そして俺の頸に巻き付いた。
キッ…………。
温かな、憶えのあるキスだった。
柔らかく触れて…そっと重なり。包むように、微かに吐息だけを交わす。
甘く。
「・・・・エッ?」
「ごち! 名探偵の唇は何度いただいても旨めーぜっ」
「あ…あれ?!」
オレは固まっていた。わけがわからない。
見るとキッドは立ち上がり、モノクルを付けシルクハットを拾い上げるところだった。とっくに俺の腕を抜け出していた。
────唇には甘いチョコレートの味。
「いいね。この手は使える。名探偵が純情で助かったぜ!」
「なにいっ、待てキッド!!」
騙された。顔から火が出そうだ。
あの血がフェイクだったなんて!
いや、それより俺が〝あの時のキス〟を引きずってることがバレてるっ (@@)!!!
「キッド、気を失ってたんじゃなかったのか!!」
「ばっちり起きてたよ。名探偵が優しく〝かいほう〟してくれて感激だね!」
「こ、このやろうっ」
チクショー。〝介抱〟と〝解放〟を掛けてやがる。上手いがこの場合明らかにオレをバカにしてんだろ!!
「今夜はこれにてお暇(いとま)しますよ、名探偵。ごきげんよう!」
「キッド!」
キッドはひらりとフェンスに飛び乗ると、もはや止める手立てのないオレを振り向いた。
微笑んで────オレを見下ろす。
「近々お会いできますよ、名探偵。……それまで浮気すんなよっ!!」
う、うわき…?!
ふわっと白い残像だけ残して怪盗の姿は消えた。
風が吹いていた。
やっとオレは我に返った。今度こそ、本当に我に返った。
やってくれた。あの怪盗。
オレの純情、完璧もてあそびやがって!!!
なのに、こんなにドキドキしているのは何故だろう。
チョコレート味が…甘くて、美味しくて。もっと味わいたかったなんて、不謹慎にも思ってしまうのは何故だろう。
怪盗キッドめ。おぼえてろ。よくも欺きやがって。
このままじゃ絶対すまさねー!
遠ざかる白い翼に向かってつぶやいた。
予告状、待ってるからな。
おまえの予告を。
また逢うチャンスを。
待っているからな。怪盗キッド!!
このときのオレはまだ認識できていなかった。すでに怪盗とオレの立場が逆転していることに。
あの飛行船の中で夕焼けを見て駆け出した時、すでにオレはキッドの虜になっていたことに。
捕まえるはずのオレの方が────どうやらキッドに〝捕らわれようとしている〟ことに。
20120918
────────────────────────────────
あとがき
うひー。前回からだいぶ間をおいての、なんとなくの『続編』でした。
前回がなんとなく K新ぽかった?ので、今回もなんとなくそんな感じになってます。深い意図はありません。なんとなくです! ご了承ください…(^^;)。
[14回]