新月 new moon (1/3)新一×快斗
(後半 R18)
ヤバい話ではないつもりでしたが、進むにつれ危ない展開に…
ご注意下さい。
―――――――
新月。月のない夜。太陽と重なり、月の灯りが隠される夜――。
小さかった名探偵が高校生に戻ったらしい。
以前のように新聞記事に「工藤新一」の名が登場するようになり、俺はいやな予感に怯えて日々を過ごしていた。
その日は唐突にやってきた。
クラスメートと別れ、川原沿いの道で幼なじみを見送り、ひとりになったところでヤツが不意に現れた。
よぉ。やっと見つけたぜ。
ヤツはそう言った。無駄と分かっていたが一応しらばっくれる。
誰だオメー。人違いじゃねえの。
いいのか、そんなクチきいて。
無視して通り過ぎる。
ちっ。
舌打ちされてムカついたが知らん顔した。
待てよ、黒羽!
名前を呼ばれて心の中だけで観念する。あくまでも心の中でだ。
約束忘れたとは言わせねぇぜ。付・き・合・え、よな。言っとくがお前の自宅も確認済みだ。お前に選択の余地はないはずだぜ。
その眼は爛々と輝いていて、絶対にエモノを逃がさないと宣言していた。
ことの発端はヤツが小さかった頃に遡る。ある事件で、ちょっとしたキッカケで、俺は名探偵の恨みを買った。誇り高い名探偵はプライドを傷つけられたと感じたらしく、かなりの怒りようだった。その場しのぎに俺は(脱出には協力者が必要だったので――その時俺らはテロリストグループに襲われかけていた)工藤新一の姿に戻ったら、お前に抱かれてやるよ。と言った。なんであんなこと言ったんだろ。ちょっとはそれもいいかなと思ったのかなーあの時は。しかし本当にこんなに早くヤツが元に戻るなんて思ってなかったんだ。
そしたらその時小学生の姿だったヤツは、とても小学生ではないオトナな視線で俺の全身を撫で回すように見て、いいだろう、約束したぜ、と言った。
にしても、俺の正体を知らなかったはずの探偵にやすやすとここへ辿りつかれたのはなぜだろう。
――!
工藤が携帯のカメラを俺に向けていた。何のつもりだ。カッとなった俺の身体が勝手に動いた。バク転しながらヤツが手にした携帯を蹴り飛ばし、着地すると同時にクルクルと落下してきたヤツの携帯を右手で受け止める。ビッグジュエルを手にする時のように。
ヤツが笑った。
やっぱ間違いねえな。あんまりフツーの高校生してるんで驚いたぜ。
なんでわかったんだ。
オレは待ってたんだぜ、キッドが約束を果たしに現れるのを。しかし来そうにないんで、痺れを切らして調べ出してやってきたのさ。
……だからどうやって。
ヤツが一歩近寄る。
白馬が、以前ある人間を特定するために長時間かけて検索した履歴を見つけたのさ。 白馬はどうも怪盗キッドに対してオレや警察とは別に特別執着してたからな。
そういうことか…。
知れてしまったものは仕方がない。しかし(犯罪者の俺が言うのも何だが)こちらのテリトリーにズカズカ入ってこられるのは許せなかった。
俺が約束した件は一つだ。それは守る(言っちまった)。だがそれ以上あれこれ探るのはやめてもらうぜ。画像撮るなんてサイテーだ。失望したぜ名探偵!
俺はヤツの携帯を川へ投げ捨てようとした。
慌てんなよ。撮影なんかしてねぇ。
…………
データ見てみろよ。
…………
引っ掛けただけさ。心配ならそのまま最後まで預けとくぜ。
『最後まで』が、どういう状況を意味するのか考えたくもなかったが、
何をふっかけてくるか分からない探偵を信用することなどできるわけもなく、俺はそのまま探偵の携帯を自分の学ランの内ポケットにしまい込んだ。
……まじかよ。
ラブホでやろーってのかよ。
こっちは学校の制服着てんだぜ!!
性急な探偵の道案内に俺はゲンナリした。
男二人で。ひとりは学ラン着て。もう一人は芸能人みたいな超怪しいグラサンかけて。信じらんねえ。
しかし名探偵は涼しい顔で
堂々としてりゃいいのさ、客なんだから。
とか言いながら俺の肩に手を回し、こめかみに唇を寄せてエントランスを通過した。何だか慣れてるように見えるんだがコイツ普段なにやってんだ。メディアではヒーロー扱いされてる男がウラあり過ぎじゃねえの。
こっちは制服でビクビクおどおどしてんのによ。ほんとムカつく。
自分ちはやだ、オレんちまで出向くのもやだ、ってお前が言うからだろ。そこらの空き地のすみっことかでも良かったけどな。案外燃えそうだなそれも。そっちが良かったかな。
――俺はもう何も言う気になれず、うなだれてヤツに促されるままケバいホテルの一室にとうとう連れ込まれた。
新月(2/3)へ続く
[8回]