若月(2/2) 新一×快斗
若月(1/2)の続きです。
甘々のイチャイチャになってしまいました。どこまでも二人きりです。
(R18)かなぁ?
―――――――
黒羽家のリビングでやっと同意を取り付け、そのままなだれ込んでしまおうかとも思ったが、せっかく少し黒羽に気持ちが近付けたのだから、多少は演出しようと思い直した。
タクシーを呼び、俺の家に移動する事にする。ホームグラウンドの方が俺はやりやすいし、黒羽は逆に自分の家でそんなことになるのには抵抗があったらしいので、すんなり同意がもらえた。
タクシーかよ、やっぱリッチだなーとか若干イヤミっぽく言われるが、その一時間後の腕時計の電子音が鳴る前には移動は完了していた。
黒羽は黒の長袖のシャツにジーンズ。ヒップのラインがいい。つい目で追うと『ヤラシー』と舌打ちされた。イイじゃんか。今から念願の再戦だ。黒羽は一応同意して付いては来たものの、またいつ気が変わるか分からない危うさがあって、何とも言えない緊張感がある。
腕をとって振り向かせると、ものすごく複雑な目をして見られた。
「まだ迷ってんのか」
「……」
オイオイ。なんとか言えよ。
「…条件出したのは俺だ。ちゃんとすることはする」
伏し目がちにそんなこと言われて胸がバクバクする。自ら出した条件のために躊躇しながらも好きでもない相手に抱かれる。かなり燃えるシチュエーションだ。ただし一カ所訂正。
これからちゃんと俺を好きになってもらうつもりだから、あまり悲壮になってほしくはない。無理強いしたいわけではないのだ。もちろん今夜は始めから何が何でもやる気で黒羽を訪ねた訳だが。
だって――俺はあの日、黒羽をホテルで抱いてから、もうずっと黒羽に会いたくて、つらくて切なくて恋い焦がれていたのだ(いくらメール出しても梨の礫だったので余計に)。
あまり深く考えずに選択したラブホテルというロケーションが、初めてキッドをこの手にするという興奮に火を注いだのは確かだ。馴れてるっぽく見えたかも知れないが、俺だって現役高校生で、しかも少し前まではコドモの姿だったのだから、あんな所に足を踏み入れたのはモチロン初めてだった。あったのはとにかく雑多に詰め込んだ知識だけ。
探偵なんて、どんだけ雑学を蓄えているかどうかが事件解決のヒントを見つけ出す上で欠かせない。というわけで、培ってきた知識から堂々としているように見せかけただけだ。ハッタリだって探偵には必要な武器なんだ。
黒羽はどうやらそのまま俺が慣れてる、と受け取ったようだ。そんなワケないだろと言いたい。違うのに。俺がこんなに好きになったのは、キッドが…黒羽が初めてなのに。
「工藤んち、すげーカネモチだなー。こんなでかい屋敷に1人で住んでんのか」
「使う部屋は決まってるさ。キッチンでメシ食って風呂使って自分の部屋で寝るだけ」
「親は?ずっと海外?」
「まあな」
黒羽の家にも、他の人間の気配はなかった。境遇としては遠からずというか、俺たちはそもそも似ているのかも知れない。高校生で『探偵』と『怪盗』なんて、一般的で無いことは確かだ。
シャワーを使って部屋に戻ると、先に出た黒羽が軽くシャツを羽織った姿でベランダから月を眺めていた。白ではなく黒いシャツだったが、月明かりにその輪郭が青白く縁取られて見え、キッドの姿が重なって俺としてはもの凄くときめいた。
――そろそろいいかな、と抱き寄せる。無言で俺の肩に顔を埋める黒羽の温もりと、少し硬い姿勢。耳元に息を吹きかけると、よせ、とくすぐったそうに身を捩った。
「工藤…」
「ん?」
「オメー、何で俺が好きなの」
いまさら訊くか。この期に及んで訊くのか。
「――上手く言えねぇ…」
たぶん最初にキッドを見た時から、手に入れたいと思っていた。
キッドの正体が俺と同じ高校二年生の黒羽快斗だと知って、手を伸ばせば届く場所にいると思ったら、とてもじっとしていられなくなった。
「恋するのに理由なんかないぜ」
俺の正直な気持ちを答えたつもりだが、黒羽はバァカ、キザ、探偵なんてクチばっかでムカつく、と言いやがった。
シャツを半分肩から落とすと、十日前につけた俺の歯形が現れた。腫れはひいたようだがまだ痣が残り、瘡蓋が残っているところもある。黒羽が言うとおり、ちょっとやりすぎたなぁーと再度反省した。『喰っちまいたい』、そんな言葉が頭の中に擦り込まれていたせいかも。だとしたらキッドのせいでもあるぜ。あん時はとにかく殺気立つくらい興奮してた。捕らえたキッドを貪るように追い詰めることに夢中になって――。
考えるのはそこまでにして、黒羽の肌にようやくのめり込む。しなやかな若い獣のように、美しく月明かりに映える肢体。想いが強すぎて先走りそうになる。
黒羽からそっと掌で包まれて慌てた。コイツ、今日はちょっと挑戦的じゃねーか。そっちがそう来るならこうだ。
もつれ合ってベッドから転がり落ちて床の絨毯の上で抱き締めた。
秘密を握って脅迫してるんじゃない。条件のために抱かれてるんでもない。お互いにこの濃密な時に溺れていく。
解るはずだ。俺が伝えたいこと。
好きだ、黒羽。好きだ…キッド。
お前に認められる相手に、俺はなりたいんだ――。
「まだやんの?」
「降参かよ」
少し唇を尖らせた黒羽に口付ける。
「続きはまた次にとっとくか」
「げ。オメーまだ付きまとう気なのかよ」
むっ。
「……鈍い奴」
「何が」
「俺がこんだけ好きだっつってんのに、今日抱いたらオワリとか思うのかよ」
「だって。利害関係有りすぎだぜ、俺とオメーじゃ」
「あんだけイイ顔見せてくれたの、まさか演技かよ」
バッカ言うな。
そう言ってそっぽを向いた黒羽の耳が赤い。
「なぁ、メール返信しろよな、今度から」
「バァカ。探偵と怪盗がメル友って有り得ないだろ」
「固執し過ぎじゃねえの。さては惚れたな俺に」
「どういう思考回路してんだよ。ほんと都合良いヤツ」
上半身を起こした裸身の黒羽を見上げる。薄明かりに照らされた素肌に見とれていると、こっちを向いた黒羽と目が合った。
「……気が向いたら、ここに来るよ」
「えっ」
「だから、返信が無いからって俺んとこ押し掛けてくんなよな。目立ってしょうがねぇ」
「ホントか」
「まぁ…返信も…たまには出す」
「本当かよ~」
「…変なヤツ」
情けないくらいの声を出すと、黒羽が呆れ顔で笑った。
俺たちの関係がやっとスタートする。一筋縄じゃいかない間柄だが、だからこそ得難い想いが育つ。
そう、恋なんていつでも綱渡りだ。
心地よい睡魔に誘われて俺は眠る。
目覚めた時には姿を消しているだろう怪盗の夢を見ながら。
また次に抱き締め合える夜が訪れることを信じて眠る――。
20110911
[11回]