〝ゆきこぞう〟と〝独り言〟(新一×快斗)
※もひとつ大雪ネタを。軽め毎度のゆるイチャです。快斗くんのシーンから。タイトル迷って二つ並記…(+_+)。
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やべえ。雪甘く見てた。
チャリのタイヤが埋もれて重めぇしハンドルは取られるし、うっかりするとズルッて滑るし!
全っ然、こげねえ!
ぼちぼち止むだろうと思ってたのにとんでもねぇ。
工藤んちまでどんだけかかるんだよ。
普段ならチャリをとばせば三十分もかかんねえのに。こんな調子じゃ、あと一時間たっても着かねぇぞ。
─────ビュウウウウ~~ッ!!!
「うひーーっ、さぶゥーーーッ! 凍えジぬーーッ(>_<)!!」
はっく、しょん!
…う。寒む。
ひとつでっかいくしゃみをして、オレは目を覚ました。
「あれ…、いつ寝ちまっんだ? オレ」
「ああ、メールチェックしてたんだっけ…」
つい独り言が出てしまう。ひとりで過ごす時間が長いと、なんでかそうなる。
ひとりで自分に質問して、ひとりで自分に応える。うーん、こんなの癖になったらだせえな。今は〝高校生探偵〟だけど、将来〝独り言探偵〟とか呼ばれるようになったりしたら困る。気を付けよう。
時計を見て伸びをした。12時過ぎか。腕が痺れてる。30分以上机でうたた寝してたのか。
…ふわあ。
PCの電源を落として立ち上がった。
何か温かいもんでも飲んで寝よう。風呂から出て体が温まってるうちにベッドに入って眠っちまえばよかったな。
ふとカーテンの向こう、表がどうなってるのか気になった。
夕方降り出した雪は未明まで続くかもという予報だったが…。
カーテンを少し開けて外を覗いてみた。
「うわ!」
雪だ。まじで積もってる!
家の周りがいつの間にか真っ白な小山だらけになっていた。
「うう、余計寒くなった。寝よう」
また独り言を言いながらカーテンを元通り閉めた。
「?!」
ザシュ、と音がした。振動。何かが動く気配。窓の外に、誰かいる……?
一瞬わけが分からず、カーテンの端を握ったままフリーズする。
二階だぞ、ここ。
なんだ? お化け? 雪女?
バン、バン、バン!!
「ひっ (◎◎;) !!」
お化けが両手で窓を叩いてる。
いや、んなわけない。だとしたら────思い当たる正体はひとつしかない。
「快斗!!」
『くどおーーーっ、なんで閉めんだよお!入れてくれええ!』
「なっ、何やってんだよ! 玄関回れよ! 危ねえ、滑るぞ」
『呼び鈴押してもおめーが出てこねえからだろ!! 入れろ!』
「馬鹿、雪まみれで何言ってんだよ。降りろ、玄関から来い、下に行くから!」
『ひでえ、オニ! 必死で登ってきたのに─────わあっ』
ずるっ。
言わんこっちゃない。また窓を叩こうと手を振り上げた快斗が、前のめりになる。
スローモーションのように、屋根から快斗が滑り落ちてゆく。落ちる。
「快斗っ!!」
慌てて窓を開けた。
「へ、へ、へ。やっと開けたなぁ~」
「げっ」
やられた。
滑り落ちそうに見えたのはフェイク。快斗の手元から細いテグスが張られているのが僅かに見えた。
吹き込む雪と凍える冷気に思わず体を竦める。
シュシュッ!
巻き取るような異音。とん、と快斗が屋根を一蹴りすると、大きく雪が割れて舞い散った。快斗が窓に取り付く。
「やめろ、入んな! 部屋が雪だらけになるだろ! 変なもん使って家に傷付けんじゃねーよ!」
「なんだとお! 人が大雪の中何度も転んでシニソーになりながらやっとたどり着いたのに! 素手じゃ登れねえんだから仕方ねーだろ!!」
快斗がよく手首にしてるリストバンド。こんな仕掛けがあったなんて初めて知った。
ああ。入ってきやがった。
フードから肩から、快斗の体中にこびり付いた雪がカーペットにこぼれ落ちる。
寒いので仕方なく窓を閉めたが、部屋はあっと言う間に雪だらけになった。
「この馬鹿、外で雪を払ってくるのが礼儀だろう!」
「うるせえ! こっちはマジで遭難しかけたんだ! チャリ引き摺って車に轢かれそうになりながら半分歩いてきたんだぞ! もっと優しく迎えろ!」
「なにが優しくだよ。ああもう、こっちよこせ!」
快斗が脱いだ雪だらけのコートを丸め、やっぱり雪だらけのブーツをくるんで下に持って行った。やれやれ。
「快斗、風呂入れ。まだ温かいから……っ、つ、冷てっ!!」
部屋に戻ってドアを開けたら、アンダーウェア姿になった快斗が待ちかまえていてガバッとオレに抱き付いてきた。
通常あり得ないシチュエーションなので舞い上がりかけたが、快斗の肌が冷え切っていて、そのほっぺたを頬に押し付けられて、オレは違う意味で飛び上がった。
「くどおぉーーっ、あったけ~~!」
「冷てえっ!! 離れろ!!」
「やだぁ~」
快斗のやつ、テンションがおかしい。ぐいぐいくっついてきて、すんすん鼻を鳴らしている。
「たくもう、しょうがねえな。冷たいってんだよ」
「…………」
「快斗?」
「……疲れた…」
すー、すー。
エ?!
「快斗、おい、そんなカッコで寝るな!」
「…だって。温かくて…。ねむ…」
「快斗!」
がくん。
「ええ? 立ち寝? まじかよ!?」
快斗のやつ、オレにしがみついたまま、かくんとなってしまった。
温まって安心して気が抜けたのか。しょうがねえな。ベッドまでズルズル引き摺っていって、なんとか横にした。
雪で湿った癖毛をくしゃくしゃとタオルで出来る限り拭いて、それから毛布をかけてやって、ついでに屈んで額の横にチュッと軽くキスをした。
快斗がきゅっと眉を寄せて、寝返りを打つ。
「…くどう…、いっしょに寝よ……」
「なんだ、眠っちまったんじゃなかったのかよ」
「寝るよ……。な…、一緒に寝よ?」
寝ぼけ眼(まなこ)で懸命に訴えくる。
なんだか、小さな子供と話してるみたいだ。
「バカだな。こんな大雪の晩に、無理して来ることないのに」
「だって……」
─────逢いたいって思ったから。
─────驚かせようと思ったんだ。明日になったら、工藤…出掛けちゃうかもしんねえし……。
半分夢の中のように、快斗はむにゃむにゃそんな意味のことを言った。目を瞑って。独り言のように。
赤くなったほっぺたに手を添えると、快斗は目を閉じたままエヘヘと笑ってオレの手を握ってきた。
おかしな夜。ひとりで眠るはずだったのに、現れた〝ゆきこぞう〟に部屋中を雪だらけにされて。
隣に入って体を寄せると、快斗は眠ったまま微笑んで、オレの肩に顔をうずめてきた。
背に手を回して、ピッタリくっついて、細い体を温めてやりながら眠る…。
はた迷惑な雪のお化け〝ゆきこぞう〟。
「おやすみ」
独り言ではなく、快斗にそう囁いて、オレも目を閉じた。
20140215
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※東京都下、二週連続週末の大雪で参りました。本日土曜は出勤日で、一時間半以上かけて2/3ほどの道のりを歩いたあげくに臨時で休みにすると連絡があり、ビチョビチョになって疲れ損で家に引き返す途中なうinマクドナルドです。店内空いてるし、もう少し粘って暖まってから家に帰りますー。とほほのほ!
●拍手御礼!
「嘘と嫉妬」「冬の結晶」へ、拍手ありがとうございました(#^_^#)っ!!
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