クリスマス・ツリー《3/3》(新一×快斗)R18
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こんな事しなくたって、俺は工藤を感じられればそれでいいのに。
工藤に抱きしめて欲しいのに───。
鏡に映る快斗が目を潤ませ俺を睨んでいる。火照った肌を小刻みに震わせ、衝動に抗うよう眉を曇らせて。
ズキリと胸に突き刺さる。
鏡に気が付く前も良かったが、気付いてからがまた良い。ただ優しくするだけでは足りない。苛むようにして追い詰めてしまう。
罠に嵌めるような真似をして、きっと恨むだろうな…とは思う。思うが、止めようとは思わない。
もっともっと乱れさせ、悶えさせたい。
オレだけが知るおまえの姿を堪能し、その刹那を目に焼き付けたい。
快斗の腕の包帯のせいで今夜はさらに嗜虐的な気分になってるのは確かだ。怪我をして現れてはそれを何でもないことのように話す快斗に、どうしても苛立ってしまう。
棚に飾った小さなクリスマス・ツリー。快斗のヤツ、まだあのツリーに気付いてないだろう。
自分一人ならあんなもの飾りはしない。おまえが来ると思ったから、照れくさかったが出したんだ。おまえと一緒に過ごせると思ったから───。
散々煽られ、なぶられ、焦らされて、ベッドから落ちそうになったのを引き起こされて。
工藤の吐息を感じて薄く目を開けると、ビックリするほど近くにドアップの工藤がいた。
「あ────あ、ああっ!!」
叫ばずにはいられなかった。
工藤が一気に俺を貫く。その反動で全身が激しく戦慄いた。
これでもかと深く芯を衝かれる、抉られるような堪え難い圧迫感と灼けるような熱量。
俺は工藤を感じられることが嬉しくて、縋るように工藤にしがみついた。
ずれていた互いの波動が、少しずつ重なってゆく。やがて完全に一致して、溶け合い、飽和する瞬間が訪れる…。
工藤…。
くどう……!!!
「クリスマス・ツリーがある…」
「今頃気が付いたのかよ」
片肘付いた工藤に顔を覗き込まれて、こそばゆさに首を竦めた。
本棚の隙間に飾られた小さなツリーはちょうど工藤の顔の向こうにあった。小さなライトが青と白に点滅し、反射してキラキラ輝いている。
「……」
工藤の顔が、そのツリーのライトとオーバーラップしていた。ぼんやり灯る光が瞬いて…まるで……。
「? なんだよ」
「ナンデモナイ。見間違い。気の迷い」
工藤の眼差しを感じて顔が熱くなる。怠くて動けないから、仕方なく俺はブランケットを頭まで被って隠れた。
気の迷いにもほどがある。また工藤が天使に見えたなんて。
やりたい放題やられて、体だけでなくココロまでいっちまったのかな。
「おーい快斗、顔出せ。クリスマス・ケーキがあるんだ」
『えっ』
「ホールの生チョコケーキ。夜中だけど食わないか?」
まじか!
すごい。
不覚にも俺はちょっと感激した。
工藤のヤツ、俺を〝虐める〟ためだけじゃなくて、本当にいろいろ用意して待っててくれたんだ…。
シーツから漂うラベンダーハーブの香りも、やっぱりそうなんだ。
そう思ったら。
「ありがと…工藤」
半分だけ顔を出して礼を言うと、工藤は珍しく照れ臭そうにはにかんだ。
あれ。
やっぱり変だ。なんだか工藤が素敵に見える…。これがクリスマス・マジックってやつか~っ★
「で、その怪我は?」
「ああこれ。別にたいしたことないし…ぐえ!」
がしっとブランケットごと喉を工藤にホールドされる。反撃する体力はとても残ってない。
「ク、クリスマス、ツリーに、苦しい、放せバカ」
「ツリーがどうした」
「ほら…、点灯式があったとこ。グランド・ハイド・ホテルの───」
俺が放ったビッグジュエルは、計算通りいけば煌びやかなツリーの頂上の大きな星に引っ掛かるはずだった。
ところが。
途中で宙ぶらりんしてしまったのだ。ツリーを支える細いナイロンテグスに弾かれ、一本飛び出したツリーの枝に挟まって。
「嘘っそおぉ~」
だせえ。よく見りゃテグスがツリーから四方に伸びてる。落下しなかっただけマシだが、あんな中途半端なトコにお宝をぶら下げて立ち去るわけにはいかない。
そこで俺は予定外の上に無謀な行動に出た。高さも距離も全然ないのに、ハンググライダーで飛びながらビッグジュエルを掴んで天辺に移動させようとしたんだ。
「ぶっちゃけ疲れてたんだなぁ。我ながらアホかった」
「それでどうなったんだ」
「もちろん、ビッグジュエルはちゃんと天辺の星に掛けてきたぜ♪」
「じゃあ、なんで怪我したんだ」
「だからそれは向いの壁に激突しそうになって、急旋回したら庭木に翼を引っ掛けて、墜ちたから」
「……誰も見ていなかったのか」
「夜中だからな。物音に気付いてベルボーイがやってきたけど、墜ちたまま隠れてたから」
「腕、切ったのか?」
「派手めに擦りむいた感じ? 袖が破けたけど、怪盗の衣装じゃなかったから良かったよ」
ポカリ。
「痛てっ」
工藤に頭をグーでぶたれた。
「良かったよ、じゃねえ! 無駄に無茶をするな。今度怪我したら捕まえて監禁するからな」
「へっへー。そしたらここに来ないもんね」
「馬鹿!!」
工藤の怒声にハッとして俺は口を噤んだ。工藤の目は真剣で、心底俺を案じている事が伝わってきたから。
「……気をつけるよ」
「………」
何か言おうとした工藤が言い澱んで目を逸らす。言いたいことは解っている。怪盗なんてやめろ。
だけどそれを口にするなら、俺は工藤のそばにはいられない。初めて想いを通わせた時、俺は工藤にそう告げてあった。
工藤はため息を付くと、手を伸ばしてテレビのリモコンのスイッチを入れた。
24時間ニュースばかりやってるCATV。音楽チャンネルに変えろよ、と言おうとしたら、見覚えのある場所が映った。
「あっ」
グランド・ハイド・ホテル!
〝怪盗キッドからのクリスマス・プレゼント?!〟というテロップが出て、警視庁の中森警部がツリーを見上げている映像が流れた。
「おお~、やったね! ちょっとドジッたけど狙い通り、さすが俺!」
また工藤が手を振り上げる前に、俺は工藤の首に抱き付いた。
メリー・クリスマスと囁いて、ケーキよりも甘い甘いキスをした。
20141226
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※結局遅刻(T_T)、ごめんね新快!!
[19回]